【18禁】飛炎魔のBL小説

飛炎魔のオリジナルBL…ML?w小説です。(登場人物の年齢が…w)18禁多め(基本、各章、最低裏1回が目標ですw)なので苦手な方は何卒ご覧にならないよーにお願い申し上げます(人∀・) こちらの小説置き場は世にも稀なる(?)ドS受&ドM攻のお話です(^∀^;) (痛い表現はありませんのでご安心を…)
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第三章『小さな恋のメロディ』15

大阪 Baby Blues



「…あんたと話してると、俺、頭の中がごちゃごちゃになる…」

裕貴は溜息を吐いた。

なんかもう本当に良く分からなくなる。

自分の気持ちさえもう分からない。

感情がジェットコースターに乗ってるみたいに、急降下したり急上昇したり――

頭が全然、追いつかない。

「なんじゃそりゃ。――まぁ、退屈や、言われるよりええか」

そう言うと内藤は、唐突に体を起こして言った。

「うつ伏せになってみ」

「え? うつ伏せ? こう?」

急になんだろう、と思う間もなく、内藤がうつ伏せになった裕貴のうなじに吸いついた。

「え…、ちょっと…なんだよ…――あ…っ」

内藤の舌先が、背骨に沿ってゆっくりと背中を辿る。

「あ…ん…っ」

「やっぱり背中、弱いんやな」

そう言いながら、内藤は後ろから裕貴の足の間を撫でた。

「や…っ」

「この間からちょいちょい背中いじると反応ええなー、思うててん」

内藤の唇が背中を滑り降り、腰の辺りを吸い上げた。

「ああ…っ」

「ほらほら…、腰が浮いてもうてるで。やらしいなぁ」

「ば…か…っ」

顔の横でシーツを握り絞めて、裕貴は快感に耐えた。

浮いた腰と布団の間に内藤の手が滑り込んでくる。

裕貴の腰が浮いたのはそこを触って欲しいからというより、頭をもたげてきた自身が苦しいからだったのだが、内藤はそれを分かっていたのだ。

徐々に硬度を増してくる裕貴のそれが片手で握りこまれ、他方の手が後ろを探る。その状態で背中を吸われ、裕貴は呻いた。

「ああ…っいい…っ」

内藤に体を弄ばれて、その快楽を示すことに、もう羞恥はなかった。

自分の体が男に抱かれたがっていることにも、戸惑いはもうない。

莫迦でスケベで怠惰で欲深な自分が分かることなんて、たかが知れている。

流されてもいい――

自分の感情も今、自分の周りでなにが起こっているのかも、もう良く分からないけれど、この体が欲しているものだけははっきり分かる。
 
揺れる腰で内藤の情欲を煽る。

男を誘うそんな淫らな仕草にも、躊躇いはなかった。

もっと――俺に興奮して欲しい――

もっと――俺に欲情して…

「ケツあげろ…」

欲望に掠れた内藤の声に、ぞくりと体が震える。

裕貴は枕に頭を落としたまま、言われたとおりに腰を高くあげた。

「ええ子やな…裕貴…ホンマにおまえは可愛いで…」

内藤の言葉に裕貴は後ろを振り返った。

眉根を寄せて快楽を堪えた内藤が、ぺろりと唇を舐めるのが見えた。

「は…早く…っ」

焦れた体がもどかしくて、裕貴は喘いだ。

「早く…? 早くなんやねん…」

内藤が含み笑いを漏らす。

「や…っ、もう…っ」

裕貴は内藤を睨みつけたが、どうせはっきり言うまで、このまま放っとかれるに決まってる。

裕貴はねだるように腰を揺らした。

「もう…、早く…っ、挿れろよ…っ」

ついこの間、怯えて泣いていたのが嘘のように、裕貴の体は内藤を欲しがっている。切り裂かれる快感を待ちわびている。

「このエロガキめ…っ」

まるで捨て台詞のようにそう言うと、内藤は裕貴の奥深くまで楔を打ち込んだ。

「ああ…っ、啓介さん…っ、もっと…もっと…っ」

このまま世界が終わってしまえばいいのに――

内藤に何度も突きあげられて、快楽で麻痺した頭の中で裕貴はぼんやりと考えた。

そうすればなにも考えずにすむ――

自分の感情も内藤の思惑も――

このまま時間が止まってしまえばいい――

内藤に貫かれた体のままで――





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第三章『小さな恋のメロディ』14

大阪 Baby Blues

**********

その夜、布団に入ると内藤が言った。

「あのお兄ちゃんに見られてもうたかしらね」

「え?」

すでに半ばのしかかっていた内藤の下で、裕貴はきょとんと見上げた。

「沼田組の廊下で…おまえにチュウしてたとこやん」

「え、一臣?」

驚いて問いかけると、内藤はにやりと笑った。

「一臣っちゅうのか、あの兄ちゃん。笈川、言うてたな」

「あんなとこでするからだろ…。やめろって言ったじゃん、俺」

裕貴が頰を膨らませると、それを突っついて内藤は笑った。

「あれ〜? 一臣クンには見られとぉなかったのかな〜?」

「あいつはそんなんじゃねぇよ」

「ふーん?」

内藤はまだにやにやと笑っている。

裕貴は内藤から目を逸らした。

「…い、一度だけ…――」

「ヤったんか?」

「ばかっ。俺、あんたが初めてだっただろっ」

裕貴が喚くと、内藤はますます相好を崩した。

「そやった、そやった。可愛かったもんな」

「うるせぇよ」

ぎろりと睨んだ裕貴に、内藤はごめんごめんと笑った。

「――で? 一度だけなにがあってん」

裕貴は少しの間迷ったが、結局、話した。

「うんとガキの頃だけど…。俺のこと寝てると思ったあいつが…俺にキスした…」

十四歳の冬――

ここと同じくらいボロいアパートの灼けた畳の上で――

一臣もまだ高校生だった――

明日も来るよ――

まっとうな学生だった一臣は、金髪の不良少年だった裕貴にそう言った。

そしてそれから、あいつはずっと俺といる――俺の傍に――

明日は続いている――

「それで?」

裕貴の上から移動して、内藤は肘を立てて枕にした掌に自分の頭を乗せて訊いた。

「それでって…――それだけだよ」

そう言って裕貴は口を閉じた。内藤はなにも言わずに裕貴を見つめている。内藤の視線と沈黙に耐えられず、裕貴は再び口を開いた。

「多分…」

裕貴は呟くように言った。

「あいつは…俺のこと…――でも…」

一臣はなにも言わなかった。だから裕貴もなにも言わなかった。

ただ、傍にいただけ。いつも一緒にいただけだった。

一臣は裕貴になにかして欲しいなんて、絶対に言わない。

たとえ裕貴自身を欲しいと思っていても、一臣はけっしてそれを口にしないだろう。

物思いに沈んで、はっと我に返った。

内藤がじっと裕貴を見ていた。

「…な、なんだよ…」

気まずくなって、突っかかり気味にそう言うと、内藤が裕貴の鼻をちょいと突ついた。

「ヤキモチって分かるかな?」

「え…」

「そんな顔で他の男の話すんな、アホ」

「そ、そんな顔…って…」

もしかして内藤は、一臣のことを妬いているのだろうか――

ばかじゃないのか、この男は――

自分にはれっきとした情人がいるくせに、なんて身勝手な奴なんだろう、と思う。

ヤクザなんて大抵こんなもんだが、なんだか内藤はまるで自覚がないみたいだ。

「あんたなぁ」

「顔が真っ紅やで、裕貴」

そう言われて、裕貴は絶句した。

ヤキモチを妬かれて、嬉しいのか――? 俺…――

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第三章『小さな恋のメロディ』13

大阪 Baby Blues



以前となにも変わらない――

それならそれでいい。

だってそれは裕貴の自由だ。

別に同性愛に偏見もない。

裕貴が望むなら、それでいいんだ。

それに――と一臣は思った。

内藤が、少年たちを使い捨てにすると磯村は危惧していた。

けれど内藤もまた特別な想いを寄せているのならば、裕貴のことだけは使い捨てにしたりしないだろう。内藤は極道としては才覚のある男だ。むしろこの男の側で、特別な存在になるのならば、裕貴は安全だ。

「じゃあな」

一臣がそう言うと、裕貴はおう、と軽く手をあげた。

内藤にもう一度頭を下げて、踵を返すと、後ろから声を掛けられた。

「――笈川、悪いな」

――悪いな

それはもちろん忘れ物を届けにきたことについてだろう。

当然、そうに決まっている。

なのに一臣の耳には、内藤が裕貴のことを言っているように聞こえた。

――悪いな、こいつはもう俺のものやねん

そう――後に続くような――

わざと俺に見せたんだ――

だから内藤は、あんなに唐突に写真を撮ろうなどと言い出したのだ。

裕貴の手から携帯を取り上げて、それを利用するために。

一臣が追いかけてくるように、わざと、 、 、携帯を置き忘れた。

そして一臣が追いかけてくるのを待って、わざと、 、 、こんな場所でくちづけをした――

一臣に見せるために――

あざとい、 、 、 、真似をしてくれるじゃないか――

わざわざそんなことをしてくれなくても、一臣には裕貴を取り戻そうなんて気持ちはない。

裕貴のためなら死ねる――

裕貴にだけ命を懸ける――

でもそれは…――その見返りになにか欲しいなんて、俺は思っちゃいない――

出会ったばかりの頃、夕暮れのアパートでうたた寝をしていた裕貴にくちづけをしたことがあった。たった一度――

でもあれはそういうんじゃなかった。

眠っている裕貴があまりにも頼りなげで、まるで小さな子どもみたいに見えた。

まだ産毛が光る柔らかな頰と同じように、その唇もきっと柔らかいのに違いないと――それを確かめたかっただけだ――

それ以上のことをしたいなんて、俺は思ったことはない――

裕貴は俺のことなんて考えなくていいんだ。

俺が裕貴のことをいつも考えているから。

たとえ裕貴が変わってしまっても構わない。

俺は変わらないでここにいるから。

ただ――裕貴が望むことを叶えてやりたいだけ――

ただ――傍にいたい――だけだった。

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第三章『小さな恋のメロディ』12

大阪 Baby Blues



「裕貴、行こか?」

話が終わったのか、ソファから立ち上がった内藤がこちらに声をあげた。

ソファに座ったままの磯村を残して、内藤はこちらに歩いてきた。

「お? おまえ、渡会組で会った裕貴のツレのインテリくんやん。名前、なんやったっけ?」

一臣に目を止めて、内藤はにやりと笑った。

笈川おいかわです」

一臣は頭を下げて挨拶をした。

「笈川――ね…」

名前を呼ばれて、一臣の背筋にぞわりと悪寒が走った。

磯村が評した内藤の人物像に惑わされているのかもしれない。

「裕貴、携帯あるか?」

内藤が唐突に言った。

「携帯? ある…ありますけど…」

「写真撮ろうや」

内藤は突然、そんなことを言い出した。

「は? なんで写真なんか…」

裕貴も訳が分からないという顔で、内藤を見ている。

一臣も訳が分からない。

「ええやんけ。こっちの兄ちゃんとおまえ、昔からのツレなんやろ? 大阪記念や」

「なに、言ってんの?」

そう言いながらも裕貴はポケットから携帯を取り出した。内藤はそれを裕貴の手から掻っ攫うと、自撮りの要領で、三人をフレームに収める。

「はい、チーズ」

莫迦みたいに大袈裟にはしゃいで写真を撮ると、おお、よぉ撮れてる、男前や、と自画自賛した。

こうして見ると気さくで陽気な哥兄だが、この奇妙な違和感はなんだろう、と一臣は考えていた。

キャバクラの店長みたいだ――

キャバクラの店長は、お客と同性である男が多い。そして彼らの多くは一癖も二癖もある水商売の女たちを束ね、尻を叩き、時には諍いの仲裁をし、お客同士の嫉妬もうまくコントロールして店を切り盛りしている。けっして莫迦には務まらない仕事だ。

しかし彼らはけっして自分たちの利口ぶりを、お客の前でひけらかさない。むしろ道化を演じ、お客を引き立たせる。

ほんの一時期、キャバクラのボーイのアルバイトをしていた一臣は、そういった人間を間近に見ていた。そして、内藤 啓介はまるで彼らのようだ。

道化のフリをして相手を煙に撒く利口者――

だからこのはしゃぎぶりが嘘寒いのだ。

この道化ぶりは最初から、他人を騙すための仮面だから。

「ほんじゃ、行きますか」

散々、冗談を言ってから内藤は一臣に向き直った。

「またな、笈川」

一臣は心の裡を顔に出さず、黙って頭を下げた。

内藤と裕貴が事務所を出て行って、一臣はソファテーブルのお茶を片付けた。飲み残しのグラスを下げてくるとき、事務机に見慣れた携帯がぽつんと置かれているのを見つけた。裕貴の携帯だ。

写真を撮った後、巫山戯ていて、そのまま置いていってしまったのだろう。まだ間に合うだろうか。

一臣はグラスをその場に残すと、携帯を持って事務所を出た。

エレベーターの方に向かおうとして、廊下の曲がり角で足を止めた。

廊下の角を曲がった先に内藤と裕貴の姿が見えた。

ふたりは廊下の隅で身を寄せて、くちづけをしていた。

「…なんだよ、こんなとこで」

裕貴が拗ねたような声を出している。

「イヤなんか?」

「だって、誰かに見られたら…」

「見られたって俺はかまへんけど」

小さな声で話していても、反響しやすい廊下での会話は、一臣にも届いた。

そういう――ことだったのか――

――あいつは男もイケんねんて

磯村はそう言っていた。

それでも裕貴は、それが絶対に嫌だったら、死んでも抵抗しただろう。裕貴が嫌だと思うことを強要することなんてできない。裕貴はそういう男だ。

そしてその裕貴が受け入れているというのなら、それもそういうことだ、 、 、 、 、 、 、――

裕貴は――内藤を受け入れてもいい――受け入れたいと思ったのに違いない。

一臣は、静かに少しだけ事務所の方に戻ると、今度はわざと大きな足音を立てて、廊下の角を曲がった。

「あ、まだいた」

意図的に大きな声を出した。

「一臣」

裕貴が驚いた顔でこちらを見た。

「携帯、忘れてるぞ」

そう言って、手渡すと、ああ悪ぃ、と裕貴はいつもの調子で言った。

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第三章『小さな恋のメロディ』11

大阪 Baby Blues



「もうひとつ。磯村さんたちの方で手打ちの話を進めてたらしいんだけど、その相手方の調整役が殺されてたらしい」

「らしい、ってなんだよ」

「どこからも報告があがってないんだよ。でも死んでたのは間違いない」

裕貴が訝しげに一臣を見た。

「――磯村さんは内藤さんじゃないかって思ってるらしい」

「――なんでだよ?」

裕貴が少し不機嫌そうに尋ねた。

まぁ、今の裕貴にとって、内藤は兄貴分みたいなものだから、仕方がないだろう。

「向こうの調整役だった塚原さんは篠田さんの右腕だ。そんな大物獲って、それを報告にあげない奴なんていないだろ? で、まぁ内藤さんは報告がいい加減な人だから…――って…。――裕貴?」

話を聞いているうちに、すっと裕貴の顔色が悪くなったように見えた。

「――どうした?」

「殺された手打ちの調整役…って、塚原っていうのか?」

「そう…だけど…。――なにか知ってるのか?」

裕貴は内藤の傍で働いている。これが内藤の仕事なら、塚原の名に聞き覚えがあるのかもしれない。

しかし裕貴は、ふっと視線を逸らした。

「いや――、知らねぇ」

一臣は裕貴の横顔を見つめた。

裕貴は感情を表さず、ぼんやりと遠くに目をやっている。

なにを――考えているのか――

そう思ってから、一臣はその思考を意図的に遮った。

俺が知る必要があることなら、裕貴は自分から言ってくる――

こっちからいくら詮索しても、裕貴は言いたくないことは絶対に言わない。

だから一臣はそのまま話を続けた。

「このまま抗争が長引けば山内組自体が疲弊してしまう。マチガイなんて金食い虫だからな。だから磯村さんたちもなるべく早く手打ちに持ち込みたいんだろうけど――これで前田さんが本当に手打ちに乗り気だっていうなら、その方がいい」

道理を通そうと思えば、先代の遺言があり、それを近隣の大親分たちも認めている横尾の跡目しかない筈なのだが、もしも大阪の組織の大半――そうでなくても主要組織が篠田に寝返れば、地元の組の意向を無視してまで、他県の親分衆もゴリ押しはできない。いくら大親分でも所詮はヨカタだし、たとえ先代にどれほど人望があろうとも、結局、死人は死人だ。生きている人間たちの動きを止める力はない。

そして今、戦況はまさにその方向に向かってひた走っている。横尾方は日々、その戦力を失っている。山内組傘下の主要組織が篠田派になる前に、どうしても手打ちをしなければならない。

前田は篠田派の急先鋒だ。力がある分、派閥内での発言力も強いだろう。その前田が、篠田をいさめてくれるのなら、手打ちの可能性も出てくるかもしれない。

「…そんなヤベェのかよ」

裕貴がぼそりと呟いた。

「…楽観できる状況じゃないな」

一臣がそう言うと、裕貴はなにも言わずに磯村と内藤の方に視線を向けていた。

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第三章『小さな恋のメロディ』10

大阪 Baby Blues

*********

その日、一臣がいつものように沼田組の事務所で仕事をしているところに、内藤が裕貴を伴って訪れた。

「手打ち?」

「ええ。前田さんが間に立ちたいって言わはって…」

内藤の言葉に磯村は渋い顔を見せた。

「前田さんが?」

内藤が頷いた。

「まぁ、ほんでも向こうさんは大分、強気でっせ。条件としてはこっちに相当キツイこと言うてきますやろな」

一臣はお茶を出してから、遠目に立っていた裕貴の側へ行った。

哥兄同志のややこしげな話だからだろう。裕貴は手持ち無沙汰そうに、その辺をきょろきょろ見ていた。

「裕貴」

「よお」

裕貴は挨拶代わりに軽く顎をあげて見せると、声を顰めて一臣に言った。

「なんの話してんだよ?」

裕貴の問いに一臣は首を傾げた。

「手打ち…の話みたいだけど…」

「手打ち? 篠田さん側に手打ちを申し込むっていうのか?」

「いや…、どうも篠田側むこうから手打ちの話が出てるみたいだな」

「篠田さん側から?」

一臣は頷いた。

これは磯村にとっては吉報ではないだろうか、と一臣は思った。

以前から手打ちの準備を進めていたにも関わらず、その相手方の調整役の塚原が殺されてしまってからは磯村たちは八方塞がりだった筈だ。

「前田っていう人が間に立つって――前田…前田さんか…」

「知ってんのか?」

直接の知り合いというわけではない。ただ参謀本部に近いところにいる一臣には、篠田側の組の情報も入ってくる。

前田は篠田側の武闘派組織で、かなり前のめりに篠田の後押しをしている組だった。

そう説明すると、裕貴がけけっと笑った。

「どっちにしても篠田に筋が通らねぇことは間違いねぇからな。拳を振り上げちまったはいいけど、落とし所探してんじゃねぇの?」

一臣が片眉をあげて見ると、裕貴はふんと鼻を鳴らした。

「この跡目争いは最初ハナっから篠田にゃ目はねぇだろうが。先代の正式な遺言があるんだぜ? それも誰が聞いたか分かんねぇような、今際の際の譫言うわごとじゃねぇ。真島親分は死ぬ、うんと前から西の親分連中に跡目の回状チラシ回して、連判状作ってんだ。たとえ力技で篠田が跡目もぎとったって、連判に判を押した親分連中をどうやって納得させんだよ?」

「それもそうだな…」

一臣は半ば上の空で答えた。

「なんだよ、違うって言うのか?」

「いや…」

おそらく状況は裕貴の言ったとおりだろう。筋は最初から横尾の跡目にある。しかし、現実の戦況だけが、理屈に合っていない。

「でも…、横尾方こっちは押されてることに間違いないんだ」

「押されてる?」

一臣は頷いた。

「寝返る組がどんどん出てる――」

「寝返るって…、篠田にか?」

一臣は頷いてから、磯村に聞いた大阪抗争勃発の経緯を裕貴に告げた。

「ふん…、横尾親分も随分血の気の多いの囲ってんじゃんか」

裕貴は鼻で笑った。

「でも血の気は多くても、頭の方への巡りは悪ぃのばっかみてぇだな」

「どういう意味だよ」

一臣が尋ねると、裕貴はばぁか、と言った。

「考えてもみろよ。一見、横尾親分の手下は敵方の大将格獲って手柄立ててるみてぇに見えるけど、全部、親分に逆目に出てんじゃんか」

「逆目…」

「だろうがよ。最初に篠田の若頭補佐だかを殺しロクっちまったおかげで、篠田がケツまくるいい言い訳を与えちまってるしよ」

裕貴はそう言うと、ぺろっと舌を出して肩を竦めた。

「おまけに横尾親分につこうって気だった小林組の若頭がいなくなっちまったせいで、大駒まで篠田に走っちまったじゃんか」

「なるほどな」

裕貴は、ガキで短気で莫迦でスケベな男だが、こういうことには本当に頭が回る。

つくづくこいつは極道稼業には向いているんだな、と一臣は思った。

金勘定は苦手だけど、作戦参謀なら本当は自分なんかよりも裕貴の方が才能はある。

「あ、そうだ…」

それで思い出した。

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第三章『小さな恋のメロディ』9

大阪 Baby Blues

*********

内藤の話は、もうすぐ大きなマチガイがあるかもしれないから準備をしておけ、というものだった。ドウグの調達を任されているらしい小宮が、細かい打ち合わせをした後、解散になった。

少年たちと別れて内藤と家に戻った裕貴は、そこで昼間、淳子が訪れたことを思い出した。

内藤に伝えそびれていた――

言った方がいいに決まっている。淳子は内藤の女なんだし――

家に戻ると、内藤はいつものように早々に風呂場に消えてしまった。

裕貴は和室に突っ立ったまま、淳子が開けていたタンスを見つめていた。

「どないしてん?」

突然、ぽんと後ろから頭を叩かれて、裕貴は振り返った。

首からタオルを掛けて、上半身裸の内藤が立っていた。

「なんでも…ない…」

そう言うと、内藤はふんと鼻を鳴らして、台所にビールを取りに行った。

俺も風呂に入ってくる、とだけ言って、裕貴は逃げるように浴室に飛び込んだ。

風呂から出た後、和室を除くと、内藤が隣室のタンスの抽斗を開けていた。

「――淳子、来たんか?」

こちらに背を向けたまま、普段の調子で内藤が尋ねた。

「――うん」

裕貴はそう答えると、卓袱台の前に座り込んだ。

先に言えば良かった――

これではまるで裕貴がわざと、 、 、淳子の来訪を内緒にしていたみたいではないか――

そんなつもりはなかったのに――

ちゃんと内藤に伝えるつもりだった。

ただちょっと機を逃しただけで――

内藤はなにも言わずに和室に戻ってきて腰を下ろすと、飲みかけのビールを口に運んだ。

「――またその座り方…」

言われて気がついて、裕貴は慌てて膝から両腕を放した。

「淳子になんか言われたんか?」

裕貴は首を横に振った。

「――ふん…、まぁそやろな、あいつは…」

あいつは――?

どういう意味なんだ。

淳子は内藤の女で、裕貴はただの弟分だから?

内藤と裕貴の関係を淳子は知らないから?

それとも――

「…あんたの浮気になんて慣れてんじゃね?」

軽口を装って言ったつもりが、まるで拗ねている子どものような口調になってしまった。

「あ…」

慌てて口を閉じる。

「浮気?」

内藤がくすりと笑った。それからぽんと裕貴の頭を叩く。

「アホ」

そう言って、内藤は外方を向いた。

「なにがアホなんだよ」

急に苛立った。

内藤がこちらを向いて、薄く笑った。

「おまえはホンマにガキやなぁ」

「なんだよ、ガキって――」

ムキになって言い返した。

「ガキだから? だから俺がイライラしてるっていうのか? ガキだから俺があの人に嫉妬してるって…――」

そこまで言って、裕貴は口を噤んだ。

嫉妬…――?

俺…、あの女に妬いてるのか――?

良く――分からなかった。

だって、淳子は女だし、裕貴は男だ。

淳子は最初から内藤の情人イロだった。

だから嫉妬なんて――バカげている――

「裕貴」

呼ばれて裕貴は顔をあげた。

内藤が優しく微笑んでいる。

「こっち来い」

そう言われて裕貴はぎこちなく内藤の前までにじって行った。

体に腕が回され、抱き寄せられる。力を抜いて、内藤に体を預けた。

内藤は裕貴を抱いたまま、まるで赤ん坊をあやすように体を揺らした。

耳許に唇が寄せられる。

「裕貴、好きやで…」

「啓介さん…」

裕貴もおずおずと内藤の背に腕を回した。

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第三章『小さな恋のメロディ』8

大阪 Baby Blues

*********

すっかり外が暗くなってから、裕貴はアパートを出て、初めてりょうたちと会った修理工場の隅のプレハブ小屋に向かった。

プレハブにはまだ、お好み焼きを焼くのが特技の小柄な小宮しかいなかった。

「裕貴」

「あれ? おまえだけ?」

「うん。あいちゃんは来てんで」

相ちゃん――射撃が得意な相原あいはらだ。

しかし狭いプレハブの中には小宮の姿しか見えない。

「いねぇじゃん」

裕貴の言葉に、小宮は外、外と裏の窓を指した。

修理工場の裏は掘削途中で放り出されたような感じで、中途半端に地肌を剥き出しにした山が残っている。

裕貴はぶらりと外に出てみた。

山の方からパンパンと乾いた音がした。そちらに向かって歩いて行くと、足元にへこんだ空き缶が勢いよく転がってきた。

「なにやってんだよ」

遠くに設えられた簡易街灯の明かりしかない真っ暗な空き地の向こうから、うん、という返事が聞こえた。

相原の声だ。相原は、声変わりも怪しいようなまだ高い声をしていた。

また、かんっと空き缶が飛んでくる。

よく見れば、逆さにした木箱の上にちょこんと腰掛けた相原が、遠目のドラム缶の上に並べた空き缶を空気銃で撃っていた。

また缶が弾き飛ばされる。

「げっ。おまえ、こんな暗いトコで見えてんのかよ」

裕貴が驚いて言うと、相原は無表情な顔でこちらを見た。

「見える」

「ネコか、おまえは」

冗談を言いながら側に寄っていく裕貴には目もくれず、相原は残りの缶を弾き飛ばした。

「すっげぇなぁ、おまえ」

しかし相原は返事もせず、空き缶が並んでいたドラム缶をぼんやりと眺めていた。

別に怒っているわけでも、喧嘩を売っているわけでもないことを、ここ数日のつきあいで裕貴は分かっていた。

相原は極端に感情に乏しいのだ。コミュニケーションを取ること自体が苦手なようだった。

いつも無表情で、ほとんど口を効かない。

でも内藤に指図されたことは理解しているらしいし、仕事ぶりもいい。知恵が遅れているわけではない。ただ人づきあいが苦手なのだろう。

裕貴も、別に愛想を振りまいて欲しわけではないから気にならない。一度、こういう奴なんだと飲み込んでしまえば、いっそつきあい易い。

相原は無愛想だけれど、裕貴のこともちゃんと仲間だと理解していて、時々、射撃のコツなんかも教えてくれる。本人はそんなつもりもなく、思いついたことを口にしているだけという気もするが、相原は内藤グループの仲間以外には返事もろくにしないから、やっぱり裕貴のことを仲間だと思っているのだろう。

飛ばされた缶を拾い上げてしげしげと見ていると、相原が、もう一回、とだけ言った。

もう一度、射撃をする、という意味だろう。

裕貴はその缶をドラム缶の上に置いた。相原も残りの缶を拾い集めて、またドラム缶の上に並べる。

それから木箱の上に戻ってきて、無造作に空気銃を撃ち始めた。

ほとんど間を置かずに引鉄を引いていく。その目に感情はなく、狙ってやろうという気負いもなく、ただ適当に指先に力を込めているだけのように見えるのに、空き缶はまるで手品のように再び弾かれていった。

「なんや退屈してんねんなぁ、相原」

プレハブの明かりを背に受けて、逆光の中の人影から声がした。

「啓介さん」

裕貴が影になった内藤に向かって走って行くと、亮と手塚もその後ろに立っていた。

ぞろぞろとプレハブに入って行きながら、亮がにやにや笑いながら裕貴の顔を覗き込んだ。

啓介、 、さん?」

「なんだよ」

内藤、 、さん、やないんや」

亮は内藤が両刀だと知っている。その噂を裕貴に持ち込んだのはもともと亮だ。

「別にいいだろ」

口を尖らせて、事務机の周りに散らばった椅子のひとつに勢いよく座り込んだ裕貴の真後ろに腰をおろした亮が、耳許で言った。

ヤったやろ、 、 、 、 、?」

品のない亮の言葉に、裕貴は顔が紅くなるのが分かった。

亮は面白がって、後ろから裕貴の頭を突ついた。

「で? どやった? 内藤さん、うまいんか?」

裕貴はひっくり返りそうになって振り返った。

「お…まえ…っ、マジでうるせぇよっ」

殴りかかろうとした裕貴を軽く受け流して、亮はゲラゲラと笑いだした。笑い声を聞きつけた手塚のテッちゃんが、なになに、と野次馬根性丸出しで身を乗り出してくる。

「テツはあっち行けっ! 関係ねーだろっ」

裕貴が喚くと、手塚が、なんやねん、俺も混ぜろや、と言い返した。

「おまえら、やめろ。俺は学校の先生やないねんぞ」

内藤が腰に手を当てて渋い顔を作ってみせた。

まるで体育教師みたい。

今度はその場にいた全員が笑い出した。

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第三章『小さな恋のメロディ』7

大阪 Baby Blues

**********

内藤に抱かれたあの日から、それは裕貴にとって日常になっていた。

もう抵抗も感じなかったし、むしろ積極的に内藤に抱かれたい、と思うようになっていた。

「啓介さん」

大抵、出掛けるのは夕方を過ぎてからだった。

だからそれまでの昼の浅い時間帯、卓袱台の前に座って、煙草をふかしながらぼんやりと競馬新聞を眺めている内藤の腕を引く。

「なんやねん」

新聞紙の下に潜り込んで、笑いながらこちらを見る内藤のパンツの前を引き摺り下ろしながら、それを口に含む。

「おまえなぁ…」

苦笑を漏らしながらも、その顔が快感に歪み始めるのにさほど時間は掛からない。

男同士はこんな時は便利だ、と思う。

裕貴も同じ男だから、どうすれば相手がその気になるかなんて、すぐ分かる。

女みたいにムードなんていらない。

物理的な刺激。直接的な行動。

それ以外になにもいらない。

「――こんなことばっかり上手ぁなりやがって…っ」

裕貴の舌先が敏感な先端をちろちろと嬲ると、悪態を吐きながらも内藤は髪を優しく梳いてくれる。

「いいじゃん。俺がうまい方があんただって気持ちいいだろ?」

敬語なんてすっかり忘れた。

裕貴はもう内藤のただの弟分じゃない。

「できないよ…っこんなの…っ」

上に乗れ、と言われて裕貴は動揺した。

やりたくないとか、恥ずかしいとかではなく、やり方が分からないという戸惑いだった。

「後ろで支えて、自分で充てりゃええねん」

「や、やだよ…っ無理だって…」

そう言いながらも、裕貴は手探りで内藤の男を握り、それを敏感になっている自分の入口に充てた。

不安定な体を下から内藤が支えてくれる。

「そうそう…。ゆっくり座ってみろや」

「や…っ、あ…、あ…あ…っ」

自重で体が沈むたびに、内壁が押し開かれ、それはもうダイレクトに快感になって裕貴の体を貫くようになっていた。

「ヤベ…、すげぇ気持ちいい…っ」

「俺も気持ちええで…、裕貴…」

「啓介さん…っ」

あれから内藤はベッドでは眠らなくなった。敷きっぱなしの布団で、裕貴を抱き締めて眠る。内藤の体温を感じながら眠りに落ちるのが当たり前になり、淳子のベッドは部屋の隅で放って置かれていた。

「裕貴! 俺、ちょお渡会わたらいさんとこ行くからなぁ。あとで工場の事務所で会おうや」

「分かった。行ってらっしゃい」

その日、内藤は夕方過ぎにひとりで出掛けて行った。

ホテルのバーで塚原という篠田の右腕を狙撃して以来、内藤グループも大きな仕事をしていなかったから、そろそろなにか仕掛けるための相談に行ったのかもしれない、と裕貴はぼんやり考えた。

それよりも目下の問題は、この洗濯物だ。

家のことなんぞろくろくしたことがないから、裕貴は家事が大の苦手だった。

掃除はできる。哥兄の家に厄介になっていても、パシリに使われても、掃除は必ずやらされるからだ。

ただ洗濯物を畳むようなちまちました作業は苦手だった。大抵は洗濯物が溜まると、袋に入れて一臣かずおみの家に持って行ってしまう。一臣は女と住んでいることが多いから、押しつけておけば、その女が(もしかしたら一臣が)洗濯くらいはしてくれる。

内藤の家でも洗濯機の使い方が分からず、飽きれられながらも、せめて畳むくらいはしろ、と言いつけられた。

「ちっ…、めんどくせぇな…」

ひとりの部屋でぶつぶつ文句を言いながらも、裕貴は洗濯物を畳み始めた。

と、その時、ガチャリと玄関のドアノブが回る音がした。内藤が忘れ物でもしたのかと振り返ると、淳子がそこに立っていた。

「あ…」

誰かいるとは思っていなかった様子で、淳子は小さな声をあげた。

「ごめん。いると思わなかった」

そう言いながら淳子は靴を脱いで、部屋にあがってきた。

「ちょっと必要なものがあって取りに来たの。あんたたちがいない時間にと思ったんだけど」

そう言いながら、淳子は裕貴が洗濯物を畳んでいる和室を素通りして、絨毯の敷かれている隣室へ入るとタンスの抽斗を開けた。

「――啓介、出掛けてんの?」

「はい――」

気まずい思いで裕貴は短く返事をした。

最初に会った頃とはもう違う。

裕貴は内藤の弟分だけど、もうただの弟分じゃない。

夜毎、日毎、淳子の男に抱かれているのだ――

淳子は兄貴分である内藤の女だから、裕貴にとっては姐さんのようなものだ。だからそれなりの礼儀は尽くさなくてはいけない。

お茶くらい出さなければ、と分かっていたが、裕貴は体が動かなかった。

「――それ、啓介の?」

裕貴の周りに散らばっている洗濯物を指して、淳子が尋ねた。

自分の男の服や下着だ。見れば分かるだろう。

裕貴は苛立ちを覚えた。

「俺のもあるんで」

下を向いたままそう言った。

手伝おうかとか、私がやるとか言い出すだろうか、この女――

けれど淳子は黙って、玄関に向かった。

「ごめんね、じゃあ――」

そう言って淳子は玄関の戸を閉めた。

裕貴は見送りにも立たなかった。

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第三章『小さな恋のメロディ』6

大阪 Baby Blues



磯村はお茶を飲んでから、なにかに思い至ったかのようにふっと笑みを漏らした。

「ホンマはヨカタのおまえにこんな話したらアカンのに、俺も喋ってもうてるもんな」

隠密裏に進んでいた塚原を通した手打ちの情報を、表向き共有していたのは幹部のみなのだろうが、情報というのは漏れるものだ。今の磯村がいい例だ。その情報を内藤は掴んでいたのかもしれないし――知らなかったのかもしれない。

磯村はすっかり疲れ切っているようだった。

ここのところ横尾方の形勢はさらに悪化していた。どういうからくりだか分からないが、これまで先代の真島親分に忠誠を誓い、横尾こそ跡目と押していた筈の味方の組と急に連絡が取れなくなったり、上納金カスリを渋り出す組が出てきている。先日から沼田組は、その情報でひっくり返るほどの大騒ぎになっていた。

ヤクザなど本当に外道の集まりだから、いくら仁義だ侠気おとこぎだなどと言ってはみても、こういう時になれば、自分たちの身が一番可愛いという本音がボロボロと出てくる。

下部組織が減ればそれだけ上納金カスリも減るわけで、それは現状では抗争の軍資金に直結しているから、沼田組の金庫番であり、横尾方で資金の遣り繰りをしている磯村たちにとっては喫緊の問題だ。

こんな身内同士の裏切り合いなど、長引いてもいいことなどひとつもない。結局は同門同士だから、勝っても縄張りシマが増えるわけでもないし、金にならないどころか、軍資金が出て行く一方である。

「マチガイやなんや言うてもな、俺ら皆、もともとは同門の兄弟や。もちろんシノギの削りあいはある――ヤクザやからな。ほんでもこんな仲間割れみたいなのんは長く続けば、いらん恨みを残しよるわ。チャカ向けてくるヤツら、俺ら、皆、顔を知っとる。酒呑んだこともあるよお知っとるヤツらばっかや。そんな関係やからな、しがらみ絡んで、寝返るヤツも出てくるちゅうもんや…」

磯村も愚痴っぽくなっている。深い溜息を吐いた。

「――たしかに篠田さんは横尾親分の跡目襲名を渋ってたけど、横尾組の若いのぉが短気さえ起こさんかったらこんなことにならへんかったかもしれんのになぁ」

「短気?」

一臣が聞き返すと、磯村が頷いた。

「たしかに篠田さんは腹に一物あったやろうけどな、実際にこのマチガイが始まってもうたんは、なんやかんや理屈並べて、横尾さんの襲名にいくら経っても動こうとせんかった篠田さんとこの若頭補佐を、横尾組の若いもんが短気を起こして獲ってしてまいよったことなんや」

あれで篠田側に大義名分を与えてしまった、と磯村は再び溜息を吐いた。

「ま、おまえは関東もんやからこの辺のことはよお知らんやろうけどな」

磯村はそう言ったが、実は一臣はこの抗争の経緯についてある程度は知っていた。篠田組若頭補佐の狙撃は、全国紙でも報道された大事件だっだ。一臣は自分が世話になる女には必ず主要新聞四紙は購読させるし、それらに毎日目を通すようにしていた。

しかしもちろん一臣に分かるのは、新聞に載った通り一遍の情報だけだ。盃を受けたのだって大阪に来る直前だった一臣のような下っ端に、大阪の内部情報をもたらしてくれるような兄貴分もいなかった。

「おまけにそれに勢いづいたアホなガキが、その後すぐに小林組の岡田さんを殺しロクってもうて…もう収拾がつかへんようになってもうたんや。せやからこのどデカイマチガイは大方が若い連中の勇み足みたいなもんやねん」

岡田は小林組若頭だった男だ。現在、小林組は篠田側に与みしている。

「それも横尾方こちら側の若い衆ですか?」

「そうやねんけど、あれは痛い間違いやったわ」

「間違い? でも小林組は篠田さん側ですよね?」

小林組は敵側篠田陣営の先鋒だ。その若頭補佐を横尾側が討ち取ったのならば大手柄ではないのか?

しかし磯村は首を横に振った。

「たしかに今はな、小林組は篠田さんの側や。けど最初のうちはケツがよお決まらんかってん。特に若頭の岡田さんは、真島親分には忠義のお人やったしな。あの人が生きとったら、小林組は篠田さんとは手を組まんかったやろ」

なるほど――もともと山内組傘下の組織も、組ひとつ取ってみても内部からそっくり一枚岩というわけではなかったのだろう。裏で篠田が暗躍していたとはいえ、歴史ある山内組大親分であった真島に反旗を翻すことを承諾させることは容易ではなかった筈だし、たとえ組長や幹部の誰かがそれを受け入れても、その側近に必ず反対する者が出た筈だ。

現在では大分、旗色が鮮明になってはいるが、真島の死の直後は、横尾につくか、篠田につくか、腹を決めかねている組も多く、また組内でも相当揉めたに違いない。

「――篠田組の若頭補佐も、小林組の岡田さんも、襲撃したのは、横尾方こっちの若い連中だったんですね…」

「そうや、若いもんは功を焦ってデカいタマ狙いよるからなぁ」

磯村は溜息を吐いてから、お茶を口に運んだ。

これ以上、長引いてもええことひとつもあれへんのに、と磯村はぼやいた。

手打ちの調整役であった塚原を失って、また一から適任者を探すとなると、これはなかなか磯村にとっては頭の痛い問題になるだろう。

一臣もそっと息を吐いた。

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第三章『小さな恋のメロディ』5

大阪 Baby Blues

********

「塚原さんがられた」

沼田組の事務所に入ってくるなり磯村いそむらは事務机を蹴飛ばして、吐き捨てるように言った。

「塚原…さんって?」

磯村は疲れが滲んだ顔で、一臣かずおみを見上げた。

「――篠田しのださんの片腕やった男や」

そう言うと磯村は大きな溜息を吐いた。

「最近、連絡がつかへんなと思ってたんや…それが蓋開けてみたらこれやで」

磯村は肩を落として、顔を擦った。

「あの人に間に入って貰おうと思ってた絵図*11がこれでチャラやな…」

「間に?」

磯村は一臣をちらりと見てから、ソファに体を沈めて煙草に火を点けた。長引く抗争の疲労が隠せない様子だ。

一臣は、磯村のためにお茶を入れ、ソファテーブルに置いた。

磯村は小さな声で礼を述べてから、冷たい麦茶を一口飲んだ。

「これはもともと真島親分の遺言に逆らう、筋の通らん篠田さんのノタクリ*12や。いちからあっちの言い分には理はないねん。横尾さんの跡目は九州やら四国やらの親分衆も認めた正式なものやったからな。せやからこれの落とし所は最初ハナから、手打ちで横尾さんの山内組組長襲名と決まっとったんや」

磯村は苦い表情で言った。

「ただ、始めのドンパチで、どいつもそれぞれ親やら兄弟やら獲られとるからな。その落とし前をつけるんはしゃあないわ。せやから多少の小競り合いは起きるし、まぁこの騒ぎに乗じて、もともと因縁のあった連中、獲ったれ、なんちゅうこともある」

ヤクザやからな、と言って磯村は苦笑した。一臣に話しているうちに、少し落ち着いたのか、表情は和らいだ。

「だからまぁ、手打ちまでには、多少は時間も掛かる。それはしゃあない。篠田さんかて、男が一度、頂点取るってイキってまったもん、そうすぐには引き下がれへんやろうしな。ほんでももう頃合いや。人が死にすぎやし、これ以上、騒ぎが大きくなればオデコ*13との取引材料も大きいせなアカンくなるしな」

実際、大阪抗争はすでに、毎日のように新聞紙面を賑わせているし、全国的なニュースにもなっている。ここまで大きな事件に発展してしまえば、警察組織ももはや知らん顔はできないだろう。末端で事件を起こした組員の逮捕は免れないだろうし、下手をすれば幹部クラスも幾人か持っていかれるかもしれない。

「せやから俺らも、裏で手打ちの準備を進めてたんや。それが間に入って貰おう思てた塚原さんが殺られてまうとはな…」

そこまで言って磯村は大きく溜息を吐いた。

「塚原さんは、横尾方こっちから話の通せる篠田側の調整役やったんや。塚原さんは仁義の分かるお人やから、篠田さんに義理通してても、先代への恩も大事にしとったからな」

「塚原さんを殺しヤった人間は分かってるんですか…?」

一臣の問いに磯村は怒りを押し殺した表情を見せた。微かに顔が紅らんでいる。

「――報告があがってけぇへんからな…――内藤グループやろ」

内藤 啓介――

「内藤…さんは、この手打ちの話は?」

磯村は首を横に振った。

「分からん。塚原さんの件はトップシークレットやからな。知っとるのも一部の幹部連中だけやし…。ただ、内藤は独自の情報網を持っとるし、あいつは篠田側にもエダがある。せやから…分からん」



*11…計画。
*12…道理のないイチャモン。
*13…警察。

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第三章『小さな恋のメロディ』4

大阪 Baby Blues



再び内藤の指がその場所を撫でた。

「――…ん…っ」

ぞくりと電流が走る。

内藤はなにかを指先につけているのか、その感触はぬめぬめとしていた。

指先にその入口を撫でさすられるたびに、裕貴の雄は硬度を増していた。

裕貴は両手で顔を覆い、その恐怖に耐えた。

犯される恐怖なのか――それともこの行為で快感を得ている自身の体への恐怖なのか――

自分は――どうなってしまうんだろう――

指がゆっくりと体内に侵入してきた。

「…っ」

唇を噛み締めて、その異物感に耐える。

さらにぐいと奥を探られ、裕貴は目をきつく閉じた。

中を探る指先は、蠢きながらそのさらに奥へと進んでいく。

その瞬間、裕貴の体に今まで感じたことのないほどの電流が流れた。

「あっ、やっ、やだっ、ああっ」

これまでにないほどの快感が、まるで肉食獣のように裕貴に襲いかかる。

内藤は、そこを執拗に撫で続けた。

「やっ、もうやめ…っ、やめ…て…っ」

頭がおかしくなりそうだ。

息が荒くなりすぎて、いっそ苦しい。

「気持ちええやろ?」

不意に至近距離で内藤の声がして、裕貴は目を開けた。

体内に指を残したまま上に伸び上がってきた内藤が、薄笑いを浮かべて裕貴を見ている。

「啓介…さん…」

裕貴の内部を探る手は休まない。強く弱く、その場所を刺激する。

「ああっ…あ…あ…」

そこを行き来されるたびに強烈な快感に翻弄される。

快楽が裕貴のすべてを支配している。

そして恐怖に竦みあがっているにも関わらず、この支配から逃れたくない、と体が叫んでいる――

自分の顔を覗き込んでいる内藤の首に、裕貴は縋りつくように腕を回した。

「裕貴…」

耳許で名前を呼ばれて、全身が震えた。

内藤は首に絡みついている腕を優しくほどくと、裕貴の足の間に座り込んだ。

体内を弄っていた異物感が唐突に消えた。

そしてそれと入れ替わるかのように、その入口に熱いなにかが当たる。

「裕貴…、もっと…気持ちええことしよな…」

闇の中を内藤の含み笑いが響いた。

次の瞬間、圧倒的な質感が裕貴の体を引き裂いた。

「…いや…っ、いやだ…っ、許して…っ」

変わってしまう――

俺は――変わってしまう――

最初の痛みはすでになく、先ほどまで指先が占拠していたその場所を、今度は内藤の男に嬲られた。

指先で軽く撫でられていただけでも、濁流のような快感に押し流されそうになっていたのに、最早、その比ではなかった。

「や…っ、動かない…で…っ」

内藤の腰がゆっくりと突くたびに、頭がおかしくなりそうなほどの快楽が巡る。

腰を繋げたまま内藤が体を倒して、裕貴を抱き締めた。

「裕貴…逆らわんでええ…流されてまえ…」

流されてしまえ、 、 、 、 、 、 、――

この濁流のような快楽の渦に――

その刹那の悦びに――

「あっ、ああっ」

裕貴は無我夢中で内藤の背中に腕を回した。

縋りついていなければ、本当に溺れてしまいそうだ。

「あ…っ、あ…っ…啓介さん…っ」

互いの体が汗ばんで、合わせた胸が隙間のないほどに密着する。

「裕貴…」

内藤が耳を食んで、その手が髪を梳いた。

ふたりの体の間で、もう痛いくらいに膨張していた裕貴の男が強く握られ、ほんの数回の刺激でそれは爆ぜた。

「ああ…っ」

こんな快楽は知らない――

こんな俺は知らない――

変わってしまう――

俺は――

世界は――

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第三章『小さな恋のメロディ』3

大阪 Baby Blues



内藤の手が伸びてきて、下着の上から裕貴の男を探った。

「このドスケベ。まだ触ってもいいひんのに、おまえもうこんな大きいしとるやないけ」

内藤がくすくすと笑った。

「だ、だって…っ」

もう、なにをされるのか分かっていたから。

内藤だってそのつもりだったくせに、そんなことを言うのだ。

上目遣いに睨みつけると、内藤がにやにやと笑いながら、裕貴の下着の中に手を忍ばせてきた。

「ほんなら裕貴ちゃんのご期待にしっかり応えなアカンね〜」

「あ…っ」

直に握り込まれて、裕貴の腰が震えた。

自分も同じように内藤の下着を探り、中に手を挿し入れる。内藤のそれもすっかり堅さを持っていた。

「俺もまだなんにもしてないんだけど…」

そう言って、ちらりと見ると、内藤が歯を剥き出しにして笑った。

「まあ、男ってのは切ないものよね」

その物言いに、裕貴は吹き出した。

たしかに内藤の言うとおりだ。期待にすら興奮してしまう生き物なのだから。

内藤に体を撫でられ、裕貴は息を吐いた。

指先が這い回る皮膚の感覚が異常に鋭い。内藤に撫でられるたびに、そこから火を噴きそうだ。

「啓介さん…」

内藤の愛撫が徐々に下に下がって行き、裕貴はもう抵抗なく足を開いた。いつの間にか下着は取り去られている。

内藤の手と唇が、昨夜と同じように裕貴の男を弄り、快感を煽る。

「あ…あ…」

自分が女のように喘ぐ声にも慣れてしまった。

内藤の与える快楽の海にたゆたうように身を任せていたその時、裕貴を弄る指先が、不意に思わぬ場所に触れた。

え…――

ぎくりと体が堅くなったが、その指先はさらに奥を探っていく。

「…っ、ちょ…、ちょっと…っ、待ってっ」

裕貴は慌てて身を起こした。

内藤は、今度はまたか、とは言わなかった。

黙ったまま裕貴を見つめている。

「俺…――っ」

肘をついて肩から上だけを起こした姿勢で、裕貴が哀願するように内藤を見つめると、その視線を合わせたまま、指がさらに奥を押し開こうとした。

「や…っ、だ、だめ…っ」

裕貴は首を激しく横に振った。

「…それだけは…ムリ…っ」

内藤の意図が怖かった。

口や手でやるのとは訳が違う。

そんなこと――できるわけがない――

男同士ですでにセックスの真似事をしているくせに、なぜだかその一線は別だと裕貴は感じた。

越えてはいけない――

越えたら――もう戻れなくなる――

体を引こうとしたが、足首を内藤に掴まれた。

「なにがムリやねん?」

静かな声が言った。暗い部屋の中で内藤の表情が見えない。

「だ、だって…っ」

掴まれた足首から吸われていくように、力が抜けていく。

内藤の手から力尽くで逃げることなんて、なぜだかできない気がした。

その指先がますます奥へと入り込んで、裕貴は体を萎縮させた。

「ムリです…っ、俺…っ、か、勘弁してください…っ」

不意にその場所から違和感が消えた――と思った瞬間、強い力で顎を掴まれた。

「あ…っ」

内藤が至近距離まで近づいてきて、裕貴を睨みつけた。

「泣き言も大概にせぇよ…」

「啓…介さん…っ」

内藤の瞳に宿る冥い光が怖ろしかった。

「ガキの遊びやないねんで」

そのまま唇を吸われる。

抵抗することもできず、裕貴は震えたままくちづけを受けた。

「足…開け…」

唇が離れて、低い声がそう命令した。

「啓介さん…っ」

喉がはりついたようになって、震えた声が出た。

「黙って開かんかいっ」

怒声を浴びせられ、裕貴はびくりと震え上がった。

それから――ゆっくりと足を開いた。

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第三章『小さな恋のメロディ』2

大阪 Baby Blues



もう、なにを言ってんだ、俺は――

こんなセリフを吐く自分なんて、今まで想像したこともなかった。

これまで、どんな女にだってこんなに気を遣ったことなどなかった。

シャワーなんて、どうだっていいじゃん――

そう言って、嫌がる女を無理矢理、抱いていたくせに――

それとまさしく同じセリフを内藤が言った。

「シャワーなんてどうでもええやろ」

「俺がイヤなの」

そう言うと、裕貴は勢いよく立ち上がって、浴室へと飛び込んだ。

自分は一体、どうしてしまったんだろう。

シャワーに打たれて、裕貴はぼんやり考えた。

男の内藤にくちづけされて、それを嫌だとももう思えなかった。

むしろ、それを待ち望んでいる自分がいる――

あんなことだって――

昨夜は、なにも要求されなかったのに、自ら内藤を口でいかせた。

内藤のことを考えると、腹の中でなにかが騒いでいるような気がする。

自分の内部でなにかが起こっている気がするのに、それがはっきりと分からない。

「啓介…さん…」

シャワーの水音に隠して、そっと呟いてみた。

心臓がまた一拍早く、鼓動を刻んだ――

裕貴が風呂場から出てくると、さっきまでどうでもいいと言っていた内藤が入れ替わりに浴室に消えて行った。

ビールを勝手に開けて(本当なら、こんなことだって普通は兄貴にドヤされるようなことだが、内藤がなにも言わないことを裕貴は分かっていた)、煙草に火を点ける。

まだ食べていなかったケーキのクリームをちょっとだけ舐めてみた。

「甘…」

子どもの頃から食べつけないせいか、裕貴は甘いものが好きではなかった。誕生日にケーキがあったことなんかなかった。だからケーキなんて買っても食べやしない――そう思ったのだが、内藤も食べる気はなかったらしい。

ただ、裕貴の誕生日を祝うためだけに、内藤はケーキを購入したのだ。

足元に転がったぬいぐるみをちょんと小突くと、エイがふらふらと揺れた。

「あ〜、さっぱりしたわ〜」

髪をごしごしと拭きながら、内藤が戻ってきた。上半身は裸のままで、下着しか身につけていない。

そういう裕貴も、もう警戒心は失くしていて、上半身裸のままだった。

裕貴と同じようにビールを飲んで、煙草を一本吸うと、内藤はなにも言わずに立ち上がった。

裕貴も、なにも言われなくても内藤の後に続いた。

隣の部屋の裕貴の布団に、自分から横たわる。

隣に内藤が入ってきて裕貴を抱き締めて、再びくちづけをした。

「誕生日おめでとう、裕貴」

裕貴を見つめながら内藤が微笑んだ。

誕生日――俺の生まれた日――

自分が生まれたことを祝うという意味が、裕貴にはずっと分からなかった。

生まれてしまったせいで、こんなクソみたいな世界を生きていかなきゃいけない――

一体、なにが嬉しいんだ――

それに裕貴が生まれてきたことを、誰も喜んでもいないじゃないか――

「――めでたいの?」

裕貴がそう言うと、内藤は不思議そうな顔で曖昧に微笑んだ。

「そりゃ誕生日やねんから」

「あんたは…生まれてきて良かったって思ってんの?」

そう尋ねると、内藤は少し目を見張って裕貴を見た。それからその髪を撫でて、自分の胸に抱き寄せた。

「俺はアホやからなぁ…。そんなむつかしいことは、よお分からんわ」

そう言いながら、まるであやすように内藤の手がリズムを刻んで裕貴の背中をぽんぽんと叩く。

「でも…おまえが生まれてきたことは、俺には嬉しいことやな。おまえが生まれてこぉへんかったら、こうやっておまえに会うこともなかったってことやろ?」

その言葉を聞きながら、裕貴は内藤の裸の胸に頰を寄せて、目を閉じた。

人の肌は温かい――

触れた皮膚を伝わって、心臓の鼓動がとくんとくんと響いてくる。

裕貴はそっと目を開けて、初めて自分から内藤に唇を押しつけた。

「裕貴…」

唇が触れ合う間際に、囁き声に呼ばれた。

軽く啄ばむようなくちづけが徐々に深くなる。内藤の体が覆い被さるようにのしかかり、裕貴の咥内をその舌が愛撫していった。

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第三章『小さな恋のメロディ』1

大阪 Baby Blues



次の日、内藤ないとう裕貴ゆうきを連れて、あの観覧車のある海傍の公園近くの水族館にやってきた。家族連れやカップルしかいないような場所に一体なんの用があるのか、裕貴は首を傾げた。まさか家族サービス中の篠田側の組員に奇襲を仕掛けようと思っているわけではないだろう。

そう尋ねると、内藤はきょとんとした顔で裕貴を見た。

「なに言うてんねん。今日、おまえの誕生日やろ?」

「誕生日…――」

すっかり忘れていた。ここ数年、誕生日なんて仲間と大騒ぎをするための口実か、哥兄あにぃたちにたかる言い訳くらいの意味しかなかった。

そういえば内藤に初めて会った日に、来週、誕生日だと言うと、いつだ、いつだとしつこく問いただされたのだった。

「そんで水族館ですか?」

裕貴が半ば飽きれぎみに言うと、内藤はにこにこ笑った。

「せやかておまえ、横浜出身なんやろ? 横浜と言えば、海やっ!」

「はぁ…」

だから水族館? 魚繋がりってこと?

おっさんの思考回路って分っかんねぇなー…――

そうは思っても、もちろん哥兄の内藤にそんなことを言うわけにはいかない。

それに祝ってやる、とまたキャバクラなんぞに連れ出されるくらいなら、水族館の方がまだマシだ。

そう思いながら、水槽で器用に作られたトンネルの中をはしゃいで通り抜ける内藤の後を裕貴も追った。

イルカだのクジラだの巨大なエイなどを見て、子どものように嬌声をあげている内藤と色とりどりの魚を見て回るうちに、裕貴もなんだか楽しくなってきてしまった。

最後に土産物を売っている店で、誕生日プレゼントだと言って、内藤は裕貴にエイのぬいぐるみを買ってくれた。

これはいらない…――

水族館を出てから、ふたりは近くの串カツの店に来た。

内藤はへらへら笑いながら、ソースは二度づけ禁止やで、とつまらない冗談を飛ばしたが、あまりにも莫迦莫迦しくて、逆に裕貴は吹き出してしまった。なんだか悔しい。

ビールを注文して、誕生日おめでとう、とデカい声をあげられて裕貴は慌てたが、周囲の他の客たちも大きな声で話しているので、それほど目立たなかったようだ。

「あー、食った食った」

おっさんくさく腹をさすりながら、サンダルをペタペタと引き摺って帰り道を歩いていた内藤は、コンビニの前で立ち止まった。

「あ、誕生日ケーキ忘れたな」

「え、いらねぇ…」

もう腹が苦しくてケーキなんて食えない。

しかし、内藤はええからええから、と裕貴の手を引っ張ってコンビニに入って行った。

「ただいま〜」

内藤は陽気な声をあげながら、誰もいないアパートのドアを開けた。

「裕貴、裕貴」

すぐさま卓袱台の上に、先ほどコンビニで購入したケーキを出した。小さなロウソクを立てると、ポケットをごそごそ探って見つけたライターで火を点ける。

「マジかよ…」

早く早く、と手招きする内藤に半ば飽きれ気味に、裕貴は卓袱台の前に座った。

「ほらほら、吹いて吹いて」

裕貴は少しためらってから、ロウソクを吹き消した。

「おお〜、誕生日おめでとうっ、裕貴くん」

内藤がぱちぱちと手を叩いた。

もう、哥兄への礼儀も忘れ、裕貴はありがとうと言う気も失せていた。

恥ずかしいヤツ――

これではまるで子どものお誕生会だ。

溜息を吐いて内藤を見ると、思いがけず優しい笑顔を向けられた。

「――ハタチまで生きてたやん、裕貴」

心臓が、間違えて一拍早く打ったかと思った。

「…うん」

小さく頷くと、内藤が近づく気配がした。分かっていて、裕貴は逃げなかった。

軽く上を向かされた顔に、内藤が近づく。唇が重なる瞬間、裕貴は目を閉じていた。

唇が離れた後も、内藤は裕貴の体を離さなかった。そのまま首筋を辿り、裕貴の体を畳の上に横たえる。裕貴ももう抗わなかった。

内藤の手がTシャツの下に入り込み、体を撫でる。思わず声が出そうになって、裕貴は唇を噛んだ。

「…っ」

内藤の手がパンツに掛かり、裕貴は慌てて上半身を起こした。

「ま、待って…」

「なんや、またかいな」

内藤が飽きれた様子で言った。

「ち、違う…。そうじゃなくて、シャワー浴びてくる…から…」

そう言った瞬間、裕貴の顔は真っ紅になった。

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関西地方の皆さまへお見舞い申し上げます

お知らせ & お礼


6/18、大阪北部地震の一報を拝見致しました。

偶然にもこちらのブログでは大阪を舞台とした中編を執筆中です。

お笑いが大好きな私にとっては大阪は大好きな街のひとつです。

地震の被害に遭われた皆さまにお見舞い申し上げます。

まだライフラインの復旧その他、ご不自由なこととは思います。

どうぞお体にだけは気をつけてください。

とりいそぎ、大阪の皆さまへ愛を込めて

飛炎魔
06/18/2018

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第二章『暗くなるまで待って』 16

大阪 Baby Blues



「はぁ…はぁ…」

乱れた息遣いが治まらない。最後にきゅうっとそれを吸われて、裕貴は脱力した。

裕貴の股間から顔をあげた内藤が、口元を拭いながら薄ら笑いを浮かべて、こちらを見下ろしていた。

この人――俺のを――飲んだ――?

信じられない――

我に返って、その羞恥で目の前がくらくらした。

「あ…お、俺…」

「気持ち良かったやろ?」

内藤はふふん、と笑いながら、裕貴の唇に軽く触れた。

「…信…じらんねぇ、あんた…」

裕貴は汗に塗れた顔を手の甲で拭って、息を吐いた。

「なにがやねん」

畳の上に仰向けにひっくり返ったままの裕貴の傍に、体を横たえて内藤が楽しそうな声を出した。

「だって…、あ、あんなこと…っ」

「あんなこと?」

内藤がにやにやと笑いながら、裕貴の顔を覗き込んだ。

二の句がつげなくなって、裕貴は顔を紅くしたまま黙り込んだ。そのまま内藤にくるりと背中を向ける。

内藤が小さく笑って、裕貴の体を後ろから抱き締めた。

「…一緒に寝るか?」

耳許で内藤の囁き声がした。

「…あのベッドはイヤだ」

裕貴は拗ねたように言った。

あのベッドは――きっと内藤があの女――淳子を抱いているベッドだ――

ふふっと再び内藤の含み笑いの声がした。

「ほんならおまえの布団で寝よ」

大阪に来て内藤の世話になるようになってから、裕貴は薄い布団を借りて、それをベッドに並べるように敷いて寝ていた。狭い部屋だから、和室の隣の部屋はもうそれだけで足の踏み場もなくなっていたのだが。

裕貴は返事をせずにのろのろと起き上がって、四つん這いのまま自分の布団の上まで移動すると、そこにころりと転がった。

そこに内藤もやってきて、先ほどと同じように裕貴を後ろから抱いた。

「怒ってんの?」

内藤の問いに裕貴は首を横に振った。

怒っているわけではないけれど、どんな顔をしていいのか分からない。

「ほんなら、こっち向けや」

内藤が優しい声を出した。裕貴は戸惑いながら体の向きを変えて、内藤と向かい合わせになった。

内藤の腕が裕貴を抱き寄せた。

「あ…」

その時、膝が内藤の体のなにか堅いものに当たった。それがなんなのか、 、 、 、 、分かってしまった裕貴は、動揺した。

そうだ――俺は出した、 、 、 …けど――

内藤にはなにもしていない。

どうしよう――

裕貴は、意を決して顔をあげた。

「…これ」

裕貴が、堅く自己主張をしている男を膝頭で軽く突つくと、内藤が照れ隠しのようにおどけた声を出した。

「あら、バレてもうた? ええねん、ええねん。おまえは昨日、してくれたやんか。今日はもう寝よ、な?」

「でも…つらい…だろ…?」

同じ男だから、この状態のときがどんな気分かは分かる。

裕貴は体を起こして、タオルケットをはぐと、内藤の足の間に座り込んだ。

「俺…するから…」

「おいおい、ホンマか?」

内藤が驚いたように笑った。

裕貴は頷いて、内藤の下着に手をかけた。下着を脱がすと、それは限界まで怒張していた。

ごくりと唾を飲む。裕貴は内藤のそれにゆっくりと唇を近づけていった。

昨夜もやったことだ。

それは最初の時よりもずっと抵抗が少なかった。

内藤の雄を口いっぱいに含み、吸い上げながら舌を這わせていく。

裕貴の髪が撫でられた。

「裕貴…、おまえはホンマにええ子やな…」

暗闇の中で、髪を撫でられる感触が心地良かった。





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第二章『暗くなるまで待って』 15

大阪 Baby Blues



ひとりで焦っている自分が莫迦みたいだ。

その時、内藤が裕貴の頰に手を伸ばしてきた。

「なんやおまえ、顔真っ紅…――」

「あ…――っ」

内藤は、いつものように気安く手を伸ばしただけだったのに、裕貴ははっきりと後退さってしまった。

なにが正解か分からない――でも、これは絶対に正解じゃない、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、――

「――どうした、裕貴」

ますます顔に紅味がさすのが自分でも分かったが、どうにもできない。

内藤とまともに視線がぶつかった。

まるで蛇に睨まれた蛙のように、体が動かない。

微かに歯がかちかちと鳴った。唇も震えているんだろう――

「裕貴…」

内藤の手が伸びてきたが、裕貴はもう逃げることもできずに下を向いて竦みあがった。

腕を掴まれて、体がびくりと震える。そのまま腕を引かれて、裕貴は内藤に抱き竦められた。

「…い…や…だ…」

内藤の腕の中で抗う自分の声が、莫迦みたいに震えていた。

頭上から、内藤がくすりと笑う声が落ちてくる。

なにを笑うのかと見上げると、そのまま唇を吸われた。

もう当たり前のように舌が滑り込んでくる。

「…ん…っ」

咥内を優しく舐められて、背筋がぞくぞくと震えた。

体が痺れたようになって、力が抜ける。

内藤の唇が静かに離れて、至近距離から裕貴を覗き込んだ。

「…いやなんか?」

「俺…――」

どう返事をすればいいのか――

また――昨日みたいに、内藤のを――やれ、 、と言われるだろうか――

しかし内藤は優しく微笑むと、裕貴の体を畳の上に押し倒した。

内藤の意図が分からず、裕貴の頭は混乱した。

あっと思う間もなく、着ていたハーフパンツと下着が引き摺りおろされる。

「ちょ…、ちょっと…っ、待っ…」

慌てて体を起こそうとした裕貴の男に、内藤の舌が絡みついた。

「いやっ、だ、だめだって…っ! だめ…っ」

「なにがダメやねん」

先端を舌先で嬲りながら、内藤が面白がっているような声を出した。

「昨日はおまえかてやったやろ」

昨夜のことを持ち出されて、裕貴は体が竦んだ。

「今度は俺がやったるから…な…?」

そう言うと、内藤は裕貴の雄をすべて飲み込んだ。

「あ…っ、ああ…っ」

そこから快感が電流のように身体中を駆け巡って、思わず声が漏れた。

こんな女みたいな声出して、なにやってんだよ、俺――

羞恥に顔から火が出そうだ。

裕貴は慌てて、両手で口を押さえた。

それでも声が止まらない。内藤に深く浅く吸われるたびに、裕貴の喉の奥からくぐもった喘ぎ声が溢れる。

女にやられたってこんな声、出ないのに――

「…あ…っ」

口を押さえつけていた手が掴まれて、それを強引に外された。

「がまんすんなや、おまえのええ声、聞かせろ…」

「やだ…っ、だめぇ…っ」

抑えきれない喘ぎ声が響く。

信じらんねぇ、俺――こんな――

まるで女のように啼いている自分の声が、他人のもののように感じる。

もう頭がぼうっとしてなにも考えられない。

自分の啜り泣きのような声に混じって、わざとなのか、内藤が裕貴に吸いつくたびに濡れた音が漏れる。

腰が震えているのが自分でも分かった。

「も…、やめ…っ、啓介さん…っ、ホントに俺…っ、ヤバい…」

内藤に嬲られているそこから快感を逃そうと、裕貴は身悶えした。

もう快楽が爆けそうだ。

このままだと内藤の口の中に――

「啓介さん…っ、お願いだから…っ、は、離して…っ、俺もう…っ」

「イってええねんで、裕貴…」

そう言いながら、内藤が裕貴の腿を撫でた。

「や、いや…あ…っああ…っ」

裕貴の体がびくびくと震え、その快楽が出口を求めて爆発した。

その瞬間、頭の中が真っ白になる。絶頂を迎えた体は、その悦びだけを感じ取っていた。

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第二章『暗くなるまで待って』 14

大阪 Baby Blues

*********

沼田組に裕貴たちを迎えにきた内藤は、少年たちを食事に連れて行った。盃を受けた筈の兄貴分に対して、その目に反抗と反発を宿していた亮と手塚は、内藤を前にしてすっかりリラックスしているようだった。

自分たちの哥兄である磯村の説教を、まるで親に告げ口する子どものように内藤に愚痴っていた。内藤もそんなふたりを、自分の兄貴をそんなに悪く言ってはいけない、と窘めてはいたが、その口調は優しいものだった。

哥兄の叱責を受けたもやもやも、内藤と会ってすっかり気が晴れたのか、亮と手塚は笑顔で帰って行った。

ふたりと別れた裕貴は、内藤と家に戻った。

ほろ酔いの内藤は、帰宅するなり鼻歌なんかを歌いながら風呂場に消えた。

今日も大阪は暑い。陽が落ちても、立っているだけでじっとりと汗ばんでくるほどだ。

夜が来て、裕貴は次第に落ち着かない気持ちになっていった。

窓の外の闇が、どうしても裕貴に昨夜のことを思い起こさせる。

暗い部屋で内藤に命じられたあのことを、 、 、 、 、――

ばか、なに考えてんだ、俺は――

昨夜はふたりとも酔っていた。それに裕貴が短気を起こして女たちを追い出してしまい、内藤の男の欲望が宙ぶらりんの状態になってしまったから――

裕貴は頭を振って昨夜のことを頭から無理矢理追い出すと、煙草に火を点けた。

「おう、おまえも風呂に入ってこいや。今日も暑かったもんな」

不意に、内藤に声を掛けられて、裕貴は心臓が口から飛び出しそうになった。突然、緊張感が走る。

浴室から出てきた内藤が濡れた髪を拭きながら部屋に入って来たが、裕貴はそちらの方を見ることもできなかった。

はい、と小さく答えて、内藤と入れ替わりに逃げるように浴室に飛び込む。

狭い脱衣所で服を脱ごうとして、肘を壁にぶつけた。

「いって…っ」

ひとりで慌てている自分に苛ついて、思わず舌打ちが出た。

ふと目をあげると、脱衣スペースの洗面台の上に設えられた小さな鏡に、自分の姿が映っているのが見えた。鏡はすっかり曇っていて、ぼんやりとした鏡像を返している。

中途半端に華奢な体をした金色の髪の少年の姿が映っている。

もう子どもの体つきではない。肩幅も広くなってきているし、手足も長くなっている。でも、大人の男の体つきには程遠い。そんなに少食でもないし、それなりに鍛えているつもりでも、肩も胸板もまだ薄く、少年の面影はいつまで経っても消えない。

鏡の中のぼやけた自分の姿を見つめながら、裕貴はふと、

男の家で風呂に入ってる女って、こんな気持ちなのかな――

と、思った。その瞬間、顔が紅くなる。

ばかじゃねぇの、俺――

一体、自分がどんな気持ちだというのだ。

それではまるで、自分はこれから内藤に――

そこまで考えて、裕貴は頭をがしがしと擦った。

もう考えるな――

考えれば考えるほどろくなことを思いつかない――

もともと頭で考えることなんて、裕貴は苦手なのだ。

裕貴は水の出の悪いシャワーの下に、頭を突っ込んだ。

脱衣所でTシャツまで着てから、内藤のいる和室に戻った。暑いけれど、とても裸でなんか戻れない。

「おまえも呑むか?」

いつものように内藤がビールを勧めてくれた。

はい、と曖昧に頷いて缶ビールを受け取ったが、相変わらず内藤と目が合わせられなかった。

こんな態度は良くない――気がする。

けれどなにが正解なのか分からない。

裕貴はプルタブを開けて、勢いよくビールを喉に流し込んだ。

「おいおい、そんな一気に呑んだら、また酔うで」

また酔う――酔ったら、また――

再び、一気に顔に血液が集まるのを感じた。

なんなんだよ、もう――

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第二章『暗くなるまで待って』 13

大阪 Baby Blues



「ヤクザなんぞになってまうようなガキの家庭環境なんて皆、似たようなもんや。どいつもどっか寂しいんや。そういうガキをあいつは手なずける。誰でも、必要とされたいとか、頼りにされたいとかあるやんか。あいつはそういうガキの気持ちにつけ入るんや。おまえはできる、頼りにしてんで、ってな」

これまでどこに行っても役立たずとつまはじきにされてきたガキにはてきめん、 、 、 、だ、と磯村は言った。

「亮も手塚もあいつの手下になってから、内藤に心酔してもうてるわ。あいつら、内藤に死ね、言われたら喜んで死ぬで…あんな、人生始まってもいないようなガキどもやのに…」

そう言うと、磯村はふっと下を向いた。

「もう何人も死んでんねん…。そりゃ内藤はたいした男や。このマチガイの戦果はほとんどあいつが出してるようなもんやしな。でも当たり前やで。あいつの周りは鉄砲玉で死んでもいいってガキどもだらけやからな」

いくらでもリスクの高い作戦を実行できる、と磯村は嫌悪感を露わにした。

なるほど。内藤 啓介という男は少年たちの心を巧みに掌握して、自分の意のままに操るのがうまいということか。裕貴とともにここを訪れていた沼田組組員の亮と手塚の内藤に対する心酔しきった態度を思い出して、一臣は納得した。

しかし、よく分からないのはあの舎弟の言ったハーレムという言葉だ。

「…ハーレムってどういうことですか?」

一臣の問いに、磯村はうんざりした表情を見せた。

「それや、それがホラやって言うてんねん。たしかにあいつは人を操るのはうまいけどな、体でタラシこむようなことはせぇへんわ。そんな必要ないねん、あいつには」

そんなことしなくても、あいつは口先だけでいくらでガキどもを死地に追いやれる、と磯村は眉を顰めた。

「どうしてそんな噂が…。だって男同士でしょう?」

一臣が訝しげに苦笑い混じりに言うと、磯村がちらりと一臣を見た。

「そうなんやけど…、内藤は両刀やって公言してるからな」

「それって…」

「あいつは男もイケるらしいで、知らんけど」

そう言うと、磯村は肩を竦めた。

「まぁ、俺も実際…、あいつがそういう男と歩いてんの見たことあるしな…」

そう言った磯村は少し気まずそうだった。

内藤に纏わる噂のすべてを否定しきれないからだろう。

磯村の話は一臣の不安をますます大きくさせた。

非行に走る少年たちの寂しさにつけ込んで、自分の意のままに操る――そんな男の下にいて、裕貴は大丈夫なのだろうか。

バイセクシャルだという嗜好も気になる。

裕貴がなにも知らなければ、警戒もしないに違いない。

まぁ、裕貴のことだから、嫌だとなれば相手を殺すぐらいの勢いで抵抗するだろうけど――

それよりもまるでマインドコントロールのような内藤の手口の方が、一臣にはよほど気になった。

一臣は、先ほど訪れた裕貴の様子を必死に思い起こそうとした。

一臣を見て、再会を喜んでいた。いつものように一臣のインテリぶりを揶揄していた。横尾親分の刺青を見て、素直にはしゃいでいた。

内藤 啓介に対してはどうだっただろう。裕貴は、亮や手塚ほど内藤を崇めてはいないように見えたけれど。

裕貴が内藤の下へ赴いてまだ数日だ。

なにも――変わったところはなかった、筈だ。

一臣の思考を破るように、磯村が再び口を開いた。

「内藤はもともと先代の真島親分が連れてきたんや。真島親分の直盃で、あいつは山内組で漢を売っとんねん。せやけどあいつは組持つんでもないし、舎弟を抱えるんでもない。その辺、フラついてるガキの寄せ集めを使い捨てしとるだけや」

「そんなんじゃあ、ろくなシノギにもならないんじゃないですか?」

一臣の問いに磯村は吐き捨てるように言った。

「さっきの鞄、見たやろ。あいつはホンマにたいした極道やねん。使い捨てのガキどもでも、あいつが使うとなれば、とんでもない利益リツ出してきよる。反吐が出るような外道やけど…山内組にとっては切るに切れん男やねん」

内藤 啓介――

派手で軽薄なアロハシャツとハーフパンツにサンダル履きの安っぽい身姿と、トレードマークのようなパナマ帽――初めて渡会組で会った時の印象も同じようなものだった。

たしかあの時も、渡会組若頭の橋本は、内藤に裕貴を任せることにいい顔をしていなかった。皆、知っているのだ。内藤が危険な男であるということを。

裕貴は大丈夫なのだろうか――

一臣は、内藤と共に去っていった裕貴の華奢な後ろ姿を思った。

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第二章『暗くなるまで待って』 12

大阪 Baby Blues

********

裕貴たちが沼田組の事務所を去ったあと、横尾は他の幹部組員たちと隣室の小部屋に籠もってしまった。ちょっと休憩などと言っていたが、実際はなにか話があったのだろう。

小部屋の方で主に仕事をしていた一臣はそこに戻ることもできず、仕方なく、親分のお茶の後片付けを始めた。その横で沼田組の組員のひとりが舌打ちをした。

「…けっ、ハーレムかっちゅうんじゃ、けったくその悪い」

組員は、内藤と裕貴たちの出て行った出入口を睨みつけている。

「やめろや」

磯村が、その組員を嗜めるように唸った。

兄貴分のヤクザに弟分たちがつき従うのは極道の常だ。それもヤクザとしての修行のうちだし、そうやって渡世の礼儀やルールを学んでいくものだろう。

あの内藤 啓介という男の元に客分として遣わされている少年たちもまた、盃を交わしていないとはいえ、世話をしてくれる直属の高目の哥兄を慕うのは当然だろう。だから、沼田の舎弟が言うようなハーレムなどというのは大袈裟だし、いっそ的外れだ。

「ハーレムって…」

一臣は苦笑した。

「笑てる場合ちゃうわ。あいつらもともと、沼田組ウチトコの舎弟やで。それがこっちはすっかりないがしろで、内藤なんぞにべったりや…」

「やめぇ、言うてるやろ」

磯村が不機嫌そうに再び唸った。

「兄貴、いいんですか? あの野郎、ガキども体でタラシこんでる、 、 、 、 、 、 、 、 、って噂やないですか」

「ええかげんにせんかいっ」

磯村は、文句を言う舎弟を、とっとと仕事に戻れ、と片手で追い払った。

ガキどもを体でたらしこんでいる――?

一体、なんの話だろう――

沼田の舎弟の意味不明の物言いは、一臣を不安にさせた。

内藤 啓介の下には今、裕貴がいるのだ。

「磯村さん…、今の話…」

片付けの手を止めて一臣がそう問うと、磯村は苦々しげに顔を顰めた。

「…ったく、あいつ、余計なペラ*10回しよって…」

磯村は溜息を吐いて、先ほど横尾が座っていたソファに腰をおろした。

「おまえ…、内藤トコにおる橘とは親しいんか?」

磯村の問いに一臣は頷いた。

親しいどころではない。たとえ誰と盃を交わそうとも、一臣にとって、自分の命を本気で懸ける相手は裕貴しかいない。

そこまでは言わなかったが、それでも磯村はそうか、と溜息を吐いた。

「あいつが言うてたこと、丸っと信じたらアカンで」

まだぶつぶつ言いながら、それでも仕事に戻った舎弟の後ろ姿に、磯村は顎をしゃくった。

あんなもんは半分がゴロツキのホラ話だ、と磯村は言った。

「ほんでも…内藤あいつがヤバい男やっちゅうのはホンマやけどな」

「ヤバい?」

聞き返すと、磯村は一臣の顔を見た。

「おまえ――カルト宗教の教祖、言われて想像つくか?」

そう言われて、大昔、カルト団体が地下鉄で起こしたという毒ガス事件を思い出したが、あの時、一臣はまだ中学生くらいだった。それでも世間を騒がせた大事件だから、ぼんやりとした薄気味の悪さは覚えていた。

「内藤のやり口は…、ありゃあゴロツキのやり口っちゃあ、やり口やねんけど…、あいつはなんちゅうか…人の心を掴むのがうまいねん」

磯村は溜息を吐いた。

「ヤクザは人を見るのが仕事みたいなもんやからな。脅したりすかしたりして、相手をいいように転がすのがうまいヤツなんて仰山おるけどな。内藤は人の心の隙間っちゅうか、寂しさみたいなもんにつけ込むのが得意なんや。あいつはそれを、よりによってガキにやりよる。ガキをいいようにするなんてなぁただでさえ簡単なもんやけど、こんな世界に落ちてくるようなガキは皆、家も学校も居場所なんてよおないようなヤツらばっかりやからな。そういうガキどもの心の隙間みたいなんにあいつはうまいこと入り込むんや」

磯村が煙草を取り出したので、一臣は新しいお茶を入れたグラスを差し出した。

「お、すまんな。ほんまに気が利くのぉ――おまえ、親はなにしてんねん」

「親…ですか? ウチは…普通のサラリーマンですよ」

まったくの嘘だったが、特に問題はないだろう。

磯村はそうか、と頷いた。

「おまえは大学出ぇやっていうしな。親とも縁切りされたっちゅうわけでもなさそうや。なんやったら育ちも良さそうやもんな」

親に縁を切られたか、と問われれば、一臣は親とは絶縁状態だ。もっとも縁を切ったのは一臣の方からだが、家を出てから四年間、一度も連絡を取っていない。けれど、磯村の言いたいことはそういうことではないだろう、と一臣は思った。

多分、磯村は育児放棄のような家庭の話をしているのに違いない――そう、裕貴の家のような――



*10…お喋り。

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第二章『暗くなるまで待って』 11

大阪 Baby Blues



「これなぁ、おまえんとこの沖賀親分の仲介でわざわざ三崎みさきまで行って刺れてもろてんで」

三崎は横浜からほど近い三浦半島にある漁港の街だ。魚がうまく自然も豊かで、観光地としてもなかなか人気があるが、郊外は閑静な住宅地が拡がっている。横浜を拠点とする裕貴には馴染みのある土地だった。

三崎の彫豊――

裕貴もヤクザ志願の不良少年らしく、刺青に対する憧れを持っていたが、小さなタトゥなどは刺れたくなかった。どうせ刺れるなら誰もが見惚れるような背中一面を覆う和彫を刺れたい。

しかし、そういう本物の、 、 、彫物は何百万単位の高級品で、とても今の裕貴が購えるような代物ではない。

裕貴が横尾の見事な彫物に見とれていると、不意に入口のドアが開いた。

「あれぇ? 親分さん、来てはったんですか?」

「内藤」

入口に、トレードマークのパナマ帽を頭に乗せた内藤 啓介が立っていた。

まただ――

横尾に緊張感が戻ってきた。

横尾が纏う空気が再び変わったことを、裕貴は敏感に察知していた。

しかし、その理由が分からない。

舎弟に湿布を貼らせ終わった横尾は、素早く着物を直してしまった。

「内藤さん」

内藤 啓介の姿を見とめて、亮と手塚があからさまに嬉しそうな声を出す。

「ちゃんと兄さんに挨拶したか?」

そう言われて、ふたりは素直に内藤に向かって頷いている。

この様子を見れば、先ほどの磯村の怒りも納得できるところがある。たしかにこれでは、誰が盃を交わした哥兄なのか分からない。磯村にしてみれば、兄貴としての体面を潰されたと感じているのかもしれない、と裕貴は想像した。

「あ、磯村さん、これ」

内藤はそう言って、机の上にどんと黒い革鞄を置いた。一昨日の夜、倉庫街で早川一家のネタ取引を急襲して奪った鞄だった。

それに気づいたのだろう。亮と手塚が顔を輝かせて、その鞄のジッパーを開けた。

中からは、あの晩見たとおりの札束の山が現れた。

「これ、なにかの足しにしてくれなはれ。まぁ、敵さんは三人ほどしか獲れまへんでしたけどなぁ」

内藤はにやにやしながら言った。両脇で、亮と手塚が、どうだと言わんばかりの表情を浮かべている。

「ご苦労やったな」

せっかくの味方の手柄なのに、磯村は苦々しげにそう言うと、一臣に向かって顎をあげた。

一臣は相変わらずの無表情で、その鞄を奥の部屋へと運んだ。

内藤はそれを見ながら、ふんと鼻で笑うと裕貴を見た。

「裕貴」

「はい」

呼ばれた裕貴が返事をすると、それを遮るように横尾が声を掛けた。

「内藤」

また空気が緊迫する。

「へぇ、なんでっしゃろ、親分」

内藤のいつもの軽い返事も、奇妙に上滑りして聞こえた。

「この若ぇのは俺の唯一無二の五分兄弟、沖賀からの大事な預かりもんや――頼むで」

横尾は内藤を見据えて言った。

この若いの、とは裕貴のことだろう。

変な話だ。

音羽会からの腕貸しはなにも裕貴ひとりのことではない。一臣だってそうだし、裕貴が知る限りでも、新城しんじょうのところからも鶴田という古株が送り込まれている筈だ。

どうして自分だけこんな風に――いや、内藤にだけ釘をさしている、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、のか――?

それだけ内藤の請け負っている仕事が危険で、そこに配属された裕貴の身を特に心配してくれているということだろうか。

「もちろん。承知してまっせ、親分さん」

内藤はそう言って笑顔を見せたが、横尾はにこりともしなかった。ついさっきまで、気さくに自分の背中の彫物を裕貴に見せてくれて、顔に浮かべていた少年のような笑みはその表層から消えていた。代わりに深い皺が眉間に刻まれている。

「――磯村さん、もういいでっか? ほな行こか」

自分から磯村に尋ねたくせにその返事も待たず、内藤は亮と手塚を従えて事務所を後にしようとした。

「一臣、俺も行くわ」

裕貴は一臣に声を掛けて、内藤たちの後を追いかけた。

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第二章『暗くなるまで待って』 10

大阪 Baby Blues



「――おまえら、誰がなのか、忘れてんのとちゃうやろなっ」

突然、怒声が聞こえて、裕貴と一臣は驚いて声の方を振り返った。

見れば、亮と手塚が、先ほど裕貴たちを部屋に招き入れた兄貴に怒鳴りつけられているところだった。

「すみません」

亮は殊勝に頭を下げていたが、顔には反抗的な色が浮かんでいる。ヤンチャな手塚に至っては、不貞腐れた表情のまま、詫びを口にする気もない様子だ。

「あのふたりは?」

一臣が、仏頂面で下を向いている亮と手塚のことを尋ねた。

「――ああ、啓介さん――俺がついてる兄貴のとこで動いてる手下てかだよ。沼田組ココの若いのらしいぜ。――あっちはよ?」

裕貴は少年たちのことを簡単に説明して、ふたりに説教をしている男について尋ねた。

「ああ、沼田組の金庫番の磯村いそむらさんだよ。おまえも渡会組の事務所で会っただろ? 面倒見のいい人で、俺も世話になってる」

「――おまえらが盃受けて漢誓ったんは、あの外道の内藤やないで、沼田の親爺さんや。おまえらの青いケツの面倒、最後まで見てくれんのも親爺や、それを分かっとんのか――…」

金庫番だという磯村がそこまで喚いた時、部屋のドアがノックされて別の男が顔を出した。

「失礼します、磯村さん。横尾の親爺さんがお越しです」

横尾――こちら側の総大将ではないか――

思わぬ大物の登場に、裕貴と一臣も思わず顔を見合わせた。

磯村は小さく舌打ちをすると、亮と手塚におまえらも挨拶せぇ、とふたりの頭を小突いて部屋を出ようとしてから、思い出したように裕貴と一臣にも振り返った。

「おまえらも来い」

「は、はい」

裕貴と一臣も、慌てて磯村の後に続いた。

「ご苦労さんです」

先ほどまで男たちが入り乱れて仕事をしていた部屋は静まり返り、全員、立ち上がって直立不動の姿勢で頭をさげている。

事務所のドアの前には着流しの着物を着た初老の男が立っていた。

男は静かに部屋の中央まで進み、設えられたソファにゆっくりと腰をおろした。

「皆、ご苦労やな。気ぃ遣わんでええわ。ちょっと近くまで来たから休憩に寄っただけやから」

着物姿の男は、他の連中に、仕事に戻れというように手を振った。それを合図に、幹部らしき男が頭を下げて御意の意を示し、若い衆たちに仕事の再開を指図した。

「失礼します」

聞き覚えのある声が裕貴の横を通った、と思ったら、一臣が氷の入ったお茶とおしぼりを乗せた盆を片手に横尾の前に進み出ていた。

一臣は数日ですっかり沼田組に馴染んでいるようだ。まるで新入り組員のように振舞っている。もともと一臣は育ちもいいから、礼儀について哥兄たちから説教を受けているところなど、裕貴は見たことがなかった。本当に要領のいい男だ

音を立てずに一臣が冷たい麦茶とおしぼりを置くと、それを手に取った横尾は笑顔になった。

「おしぼり冷やしてあるとは気ぃ利くな。なんや見たことない顔やけど、新しい若いのんか?」

横尾の問いかけに磯村が答えた。

「音羽の沖賀親分さんからの腕貸しです」

おまえも挨拶しろと促されて、裕貴は一臣とともに名乗った。

「こっちの笈川おいかわは頭の出来がいいんで、今は俺の下で働いてます。――こっちは」

そこまで言って磯村は、ちらりと裕貴を見た。

たちばなは…内藤のところで…――」

横尾は、表情を変えずに磯村の説明を聞いていた。黙ったまま懐から煙草を出したので、裕貴は、一臣に負けず気の利くところを見せようと、急いでライターの火を差し出した。最初の一服を深く吸い込んで、それをゆっくりと吐き出してから横尾は言った。

「――そうか、沖賀には礼を言わんとな。しっかり働いてくれよ」

当たり障りのない返答だ。

それなのにこの緊迫感はなんだろう――

裕貴がはい、と頷くと、横尾の緊張がふっと緩んだように感じた。

「おい、ちょっと悪いんやけどな、さっき医者せんせいから貰おた膏薬、背中に貼ってくれんか。もう腰が痛ぁてしゃあないねん」

横尾は後ろに控えていたお付きの舎弟に声を掛けた。舎弟は脇に抱えていた鞄から、処方箋の袋を出した。

横尾が舎弟に背中を向けて麻の着流しの両肩を落とすと、下から見事な唐獅子牡丹の刺青が姿を表した。

その彫物を見て、裕貴は思わず息を呑んだ。

物凄い迫力だ。横尾の背中に描かれた唐獅子は、今にもそこから躍り出て裕貴たちに喰らいつきそうなほどの躍動感だ。その咆哮さえ、聞こえる気がした。

「すげぇ…」

思わず漏らした感嘆を聞きつけたのだろう、横尾が振り返った。

「お、これか? こりゃあ彫豊ほりとよ渾身の唐獅子や」

そう言うと横尾はふっと笑みを漏らした。

「こないな遊びは若いうちにやるもんなんやろうけどな、わしは若い頃にこういうもんをれる機会がのうてな。こんなもんでも巡り合わせっちゅうのがある。まぁ、この歳になって、わしもようやく渡世で人生まっとうしようてケツが決まったってとこやな」

横尾は照れ臭そうに笑った。

関西の大親分はまるで少年のような表情をする。

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第二章『暗くなるまで待って』 9

大阪 Baby Blues

********

次の日、昼過ぎから内藤はひとりで出掛けてしまった。

暇を持て余した裕貴は、仲間の亮に連絡を入れた。

「おう。俺ら、これから兄貴んとこ行くねん。おまえも来るか?」

ふたりは兄貴分から、定期的に報告と顔見せをしに来いと言われているらしい。

「俺らの兄貴、うるさいねん」

亮が苦笑いを漏らすと、手塚が口を尖らせた。

「ちゃうわ。兄貴、内藤さんが気にいらんだけやん。内藤さんが手柄立てまくってるからよぉ」

亮と手塚は沼田組の組員だった。そこから客分のかたちで内藤の下に受け出されていたのだ。

「沼田組…」

「なんや知っとんの?」

沼田組組事務所に向かう道すがら、手塚が尋ねた。

「俺のツレ、多分、そこにいると思う」

大阪で最初に出向いた渡会わたらい組の事務所で、裕貴と一臣はバラバラの兄貴分に振り分けられてしまった。これが通常の腕貸しの扱いかどうかは分からない。もしかしたら、ふたりがもう少し名のある極道で自分の舎弟分を伴ってきていたのなら、また扱いは変わっていたのだろう。でも、ともかくヤクザになりたてで、どう転んでもパシリ以上に使い途はないと判断されたに違いないふたりはバラバラにされてしまった。裕貴は内藤の下に送られ、一臣がついた哥兄はたしか沼田組だと言っていた。

亮と手塚に連れられて、裕貴は沼田組の事務所を訪れた。

「失礼します」

ふたりが挨拶をしながら事務所のドアを開けると、そこには十数人の男たちが集まって、それぞれ電話を掛けたり、ノートパソコンを開いて仕事をしていたりと慌ただしい喧騒の最中だった。

「こっちや」

奥のドアが開いて、そこから男が手招きをした。裕貴はその男に見覚えがあった。渡会組の事務所で、一臣を拾い上げたあの男だ。人の顔を覚えるというのは、街をぶらついていた不良少年時代からの習慣になっている。裕貴もふたりについて、手招きをする男の元へと行った。

男は三人の少年たちを奥の部屋に招き入れた。そこにも数人の男たちが仕事をしていたが、隣の部屋の慌ただしさからは隔絶されていた。

「裕貴」

部屋の隅に置かれた事務机の前に立っていた一臣が、入口から入って来た裕貴を、驚きをもって見た。

やっぱりここだった。

「よお」

裕貴は亮と手塚の兄貴分に挨拶をしてから、ぶらぶらと一臣に近づいた。

一臣は、スーツ姿で書類の束を片手にしていた。

「なんだよ、リーマンみてぇだな」

裕貴がからかうように言うと、一臣はいつもと変わらず表情の乏しい顔のまま肩を竦めた。

「こっちは参謀本部らしいんだ。金の話ばっかりだよ」

三下の使いっ走りをさせられているかと思いきや、一臣はなかなか大事な仕事を任されているようだ。

「けっ、インテリはいいよなぁ。こっちは肉体労働専門だぜ」

そうは言っても、裕貴だって昨夜、デカい仕事を任されたばかりだ。自然と笑みが零れる。

「おまえはなにをさせられてるんだ?」

「なにを…って」

しかし、一臣にそう問われて裕貴の脳裏に蘇ったのは、内藤に命じられ成し遂げた仕事ではなかった。唐突に、昨夜、内藤にさせられた、 、 、 、 、ことが思い出されて、裕貴の顔がかっと熱を持った。

「裕貴?」

「なんでもねぇよ」

手の甲で慌てて顔を擦る。

「違う。口のところ――」

口のところ――そう言われて裕貴は、咄嗟に口元を拭った。昨夜の内藤の吐精の痕が残っている筈もないのに、そんな錯覚に陥る。

「――痣になってる」

一臣が言った。

痣――? そうか、昨夜、内藤に横っ面を張り飛ばされたっけ――

「殴られたのか?」

一臣が痣に触れようと手を伸ばした。

「大丈夫だよ」

裕貴がその手を邪険に振り払うと、一臣は諦めたような表情で手を引っ込めた。

裕貴の意地っ張りには慣れっこになっているのだ。

「あんまりとんがったマネするなよ。俺たち、ヨカタなんだし…」

「分かってるよ、うるせぇな」

一臣のお節介は相変わらずだ。

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第二章『暗くなるまで待って』 8

大阪 Baby Blues



その言葉を聞いた瞬間から、裕貴の頭は真っ白になっていた。

おまえならできる――

内藤の声だけがこだましている。

目の前に露わになった見慣れた男のそれ――裕貴はゆっくりと唇を近づけた。

内藤の男はすでに堅く屹立していた。舌を伸ばしておずおずとその先端を舐める。

先に滲んでいた雫が舌に染みた。

「…っ」

内藤がびくりと体を震わせた。

「おまえ…っいきなりそんなエロい舐め方、すんなや…」

そう言われて裕貴は顔が熱くなった。

覚悟を決めるように、裕貴はそれを一気に口の中に飲み込んだ。

舌と唇で擦り上げるように動かす。

立ったままの内藤の股間に、膝立ちで縋るように吸いついている自分の姿を想像するだけで、恥ずかしさで死にそうになる。裕貴はなにも考えまいと、その行為だけに集中した。

「…っげほ…っ」

「アホ…、奥まで挿れすぎや…」

勢い余って喉の奥まで内藤を呑んでしまい、裕貴は吐きそうになった。

「…落ち着けって」

ふわりと髪が撫でられた。

自分の金色の髪を撫でる内藤の手――

体に電流が走ったような気がした。

「――おまえも男なんやから、どうしたら気持ちよおなるか、分かるやろ?」

内藤にそう言われて、裕貴はそれを飲み込みながら舌先でその裏側を舐め始めた。

「…う…っ、そうや…うまいやないか」

内藤が悦びの声を漏らすのを聞いて、裕貴は目を開けた。

気持ち…いいのだろうか――

内藤は快感を堪えるように眉間に皺を寄せ、こちらを見下ろしていた。

「…おまえ…、そんなエロい顔でこっち見んなや、イってまうやろ」

「…っ」

飲み込みきれない唾液が裕貴の口の端から溢れ、顎を伝う。

でももう裕貴はそれをやめなかった。

今度はえずかないように慎重に奥まで飲み込んで、ゆっくりと吸い上げる。

内藤の指先が髪の間を梳くたびに、体がぞくぞくと震えた。

不意に内藤の雄が痙攣したように震えた、と思ったら、喉の奥に液体が飛び込んできた。

「…げほっ…」

思わず内藤から口を外すと、今度は顔に生温かい液体がかかるのを感じたが、喉が苦しくてそれに構っていられなかった。

「すまん、すまん、おまえ、うまいんやもん…」

内藤が苦笑して気がついた。

これ――啓介さんの――

内藤が裕貴の口の中で射精したのだ。

慌てて、液体のかかった頰を拭うと、手の甲に白濁した粘液がこびりついていた。

顔がかっと熱くなる。

その頰が温かい手に包まれた。

気がつけば内藤は裕貴の前にしゃがみこんでいた。

「…よおできたな、裕貴」

そう言って、内藤は裕貴にくちづけをした。

今度は驚きも動揺もしなかった。

そうして欲しいと、自分も思っていたから――

挿し入れられた内藤の舌に自分のそれも絡めていく。

甘い唾液が流れ込んでくるのが分かった。

「おまえならできるって、俺の言うとおりやったやろ――?」

唇を離した内藤が微笑んだ。

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第二章『暗くなるまで待って』 7

大阪 Baby Blues



「す、すみませんっ」

裕貴は慌てて、身を正した。しかし、次の瞬間、裕貴の体が横倒しに飛んだ。

顔面に衝撃を受けて、頭がくらくらした。

「――おまえ、俺のことナメてんのか?」

内藤の低い唸り声に、裕貴は震えた。

「ち、違います…っ。すみません…っ」

顔を殴られたことよりも、今まで一度も怒りを見せたことのなかった内藤を怒らせてしまったことが怖かった。

女を追い返しても笑っていたのに――

内藤の手が素早く伸びて、裕貴のTシャツの襟首が鷲掴みにされた。

「――…っ」

襟首を捕まえられて捩じ上げられ、裕貴の体が半ば引き摺られるように宙に浮く。

「啓…介…さん…っ」

息が苦しい――

本気で怒っている――

「ごめんなさい…――俺…っ」

「裕貴…」

内藤の声に呼ばれ、裕貴の背中がぞくりと震えた。恐怖――なのか――

「おまえ、哥兄の女を追い出しておいて、なんの責任も取らへんつもりか?」

「すみません…っ」

謝罪の言葉しか浮かばない。

唐突に襟首を掴んでいた内藤の手が離れた。裕貴の体が畳に転がる。

締め上げられていた喉に突然、空気が入り込んで、裕貴はむせた。

呼吸の苦しさに涙が滲んだ目を開けると、薄く微笑みながらこちらを見下ろしている内藤と目が合った。

「啓介…さん…」

「しゃぶれや」

「え――…」

なにを言われたのか理解できなかった。

しかし、内藤はもう一度、同じことを言った。

「しゃぶれって言うてんねん。おまえが女を帰したんやからな、責任取れよ、裕貴」

今度は裕貴にも理解できた。

けれどそんなこと、いくら兄貴の頼みでもできるわけがない。

裕貴は震えながら、首を横に振った。

「そ…そんなこと…俺…っ」

ふっと内藤の顔から表情が消えた。

「…ふん。そっか。ならええわ」

内藤はふいと外方を向いた。

「ほんならさっきの女の子、もういっぺん呼び戻すわ。携番、聞いてるし…」

内藤は卓袱台の上に放り出してあった携帯電話を手に取った。

もう裕貴のことなど忘れたかのように、携帯に見入っている。

冷たい顔――もう裕貴のことを見ようともしない――

ついさっきまで笑顔を向けていたのに――

――おまえならできる

――おまえを信じてんで

そう言って笑っていたではないか――

大きくて温かい手で裕貴の髪を掻き回してくれた――

「ま、待って…っ」

嫌だ――

こっちを向いて――

「俺…――、や、やるから…――」

台所の明かりが内藤の顔の半面だけを照らしている。

残りの半面は暗闇に溶けていた。

「え? なんて?」

その顔に薄笑いが戻ってきた。

「――女…、呼ばないでよ…。俺…、やるから…――」

莫迦みたいに震えているこの声は自分の声なのか――?

やるって――?

本気かよ――

やっぱり酔っているのかも――

それでもあの女たちが戻ってくるのだけはごめんだった。

女にのしかかっていた内藤を思い出すたびに反吐が出そうになる。

内藤は立ったまま、裕貴に向かってにっこり笑いかけた。

「――そないにビビらんでも大丈夫やって、おまえならできんで、 、 、 、 、 、 、 、 、

そう言いながら、内藤はゆっくりと自身のパンツのジッパーを引き下ろした。

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第二章『暗くなるまで待って』 6

大阪 Baby Blues



そのとき、暗がりから内藤の声がした。

「――な? ええやろ?」

女が焦らすように、でも、と甘えた声を出す。

かっと頭に血が昇った。

裕貴は、自分が押し倒した女の頰を張り飛ばして、バネ仕掛けの人形のように立ち上がった。

「出てけっ! おまえら、出て行けよっ!」

裕貴に殴られた女は悲鳴をあげて泣き出した。内藤の体に纏わりついていた女も驚いて、身を起こす。

その女に近づいて、裕貴は腕を掴んで内藤の下から引き摺り出した。

「出て行けって言ってんだろうがっ! おまえもぶっとばされたいかっ!」

女たちは悲鳴をあげながら、転がるように部屋から飛び出して行った。

なんなんっ! サイテーっ! という罵声が外から聞こえたが、裕貴は叩きつけるようにドアを閉めた。

閉めたドアに寄りかかって、荒い息を吐く。

さっきまで女たちのいた部屋は急に静かになった。

頭がぼうっとしている――

そこで裕貴は我に返った。

兄貴が連れ込んだ女を追い返してしまった――

急速に頭から血の気が引いた。酔いが一気に冷めていくのを感じる。

自分のやらかしたことの重大さに今さらのように気づいた。内藤にヤキを入れられても文句は言えないことを自分はしてしまった。

「裕貴」

ドアの前で立ち尽くしている裕貴に、まだ暗い和室から声が掛かった。

恐怖に体が竦んだ。

「――はい…」

建てつけの歪んだ板の間がぎしりと足音を軋ませる。内藤の影が近づいてきた。

「す、すみませんでした…、俺…」

内藤が怒りを爆発させる前に、とにかく詫びを入れなければ、と裕貴は頭を下げた。

しかし、暗がりからは思いもよらず、くすりと笑い声が聞こえた。

「いつまでそんなとこに突っ立ってんねん」

手に内藤の指先が触れた。

内藤は裕貴の前を素通りして、台所に置かれた冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の明かりが内藤の横顔を浮かび上がらせる。その顔に怒りの表情はなかった。

「飲み直そうや」

内藤は薄笑いを浮かべていた。

裕貴はのろのろと和室へと戻り、再び卓袱台の前に座り込んだ。

「――おまえ、その座り方…クセなんか?」

内藤が笑いながら尋ねた。

座り方――裕貴は両膝を抱えるようにして座っていた。

一臣にも言われたことがある――子どもみたいだぞ…

「あ…」

裕貴は慌てて、膝に絡めていた両手を外した。

不意に内藤の手が伸びて、裕貴の頭を抱き寄せた。

怒ってない――

胸に安堵が拡がった。

ほっとした瞬間、違和感を覚えた。

内藤の唇が裕貴の耳許をくすぐる――

「…ちょ…、ちょっと…っ。え…?」

驚いて内藤の体を押し返した。

「――なんや、おまえ、ヤキモチ妬いとったんとちゃうんか?」

暗い部屋に慣れた瞳に、内藤のからかうような薄笑いが映った。

「ち、違いますよ…っ。そうじゃなくて…っ」

そうではない――ただ内藤とふたりで話がしたかっただけだ――

――あの人、どっちもイケるらしいで

お好み焼き屋で聞いた亮の噂話を唐突に思い出した。

「違いますっ」

思わず後退さってしまう。

「なんや、おもろないな」

内藤がくくっと喉の奥で笑った。

女を追い返されて不機嫌でないのはいいが、とんでもない勘違いは困る――

そう思った瞬間、内藤の顔が近づいてきて、あっという間もなく唇を押しつけられた。

「…っ! や…っ、やめて…ください…っ」

思わず力任せに抗った手が、内藤の頰を打った。

「あ…――」

頰を殴ったつもりはない。ぶつかったというのに近かった。でも結果的に兄貴分の――漢の顔を殴ってしまった。

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第二章『暗くなるまで待って』 5

大阪 Baby Blues

**********

漢になった記念の祝杯だといって、内藤はそのまま裕貴をキャバクラに連れ出した。

「せっかくオシャレしてんやし。おまえと行ったら俺もモテそうやからな」

いつもなら哥兄のご相伴で女の子のいる店に行かれるなど、喜んでお供をする裕貴だったが、今夜は気が進まなかった。

もっと内藤と今夜の戦果について話したかったし、裕貴の話も聞いて欲しかった。

でも、兄貴分の好意を無碍にはできない。裕貴は仕方なく内藤について市内のキャバクラに行った。

大阪のキャバクラは思っていたよりも楽しかった。女の子たちは皆、可愛いし、明るくノリも良かった。

けれどその帰り道、裕貴は機嫌が悪かった。

大いに盛り上がった後、店の女の子ふたりをアフターに誘い出すことに成功した内藤が、両手に花とばかりにはしゃぎながら裕貴の前を歩いている。

店にいる数時間くらいなら全然、構わなかった。裕貴だって男だから、可愛い女の子たちにちやほやされることも嬉しかった。でも家に連れて帰るのは別の話だ。

家に帰ったら、内藤は裕貴の話を聞いてくれると思っていたのに――

「はいはい、狭いトコでごめんなぁ」

内藤は相変わらず調子のいいことを言いながら、靴を脱ぎ捨てて部屋に上がって行った。女の子たちもお邪魔しますと可愛らしい声を出しながらそれに続く。

裕貴は仏頂面のまま、最後に部屋に入った。

裕貴はそのまままっすぐ和室に入ると、卓袱台の前に座り込んでしまったが、内藤は女の子たちに席を勧め、冷蔵庫からビールを出したり、途中で立ち寄ったコンビニで買った甘い缶チューハイ用にグラスなどを用意してやったりしている。

普通ならこんな仕事は下目の裕貴の仕事だ。兄貴分である内藤を立てて、自分が立ち働かなくてはいけないことは分かっていた。

でも裕貴はとっくに不貞腐れた気分で、これで内藤が機嫌を悪くして殴られるならもうそれでもいいという気持ちだった。

しかし内藤はまったく気にしていない様子で甲斐甲斐しく女の子たちをもてなしている。

内藤の家で再び飲み会が始まって、裕貴もビールを口にしていた。女の子のひとりは、優しくて話も面白い内藤にべったりだったが、もうひとりは裕貴に気を遣って話しかけたりしてくれる。

しかし裕貴は女の子と楽しく話をするような気分ではなかった。内藤が出してきた缶ビールをとっくに飲み干し、勝手にお代わりを持ち出して煽るように呑んでいた。

「飲みすぎちゃうん?」

「うるせぇよ」

裕貴の隣に座った女の子が心配そうに声を掛けてくるのもわずらわしかった。

そのうち内藤の側に座っていた女が、わざとらしく酔ったなどと言いながら、しなだれかかり始めた。

内藤も鼻の下を伸ばして、女の肩に腕を回したりしている。

たしかにここ数日、裕貴が泊まり込んでいて女っ気もなかっただろうから、内藤の欲求不満も理解できる。しかし裕貴はムカムカと吐き気を覚えていた。

だらしなく男の気を引いている女も気に入らないし、そんな見え見えの手口に引っかかっている内藤を見ているのも情けない。

裕貴は無造作に立ち上がった。少し足元がふらついた。

「あん、どこ行くの〜?」

内藤と友だちに置き去りにされている女の片割れがわざとらしい鼻声で問いかける。

「便所」

それだけ言って、裕貴はトイレに入った。用を足して、顔を洗う。

めんどくせぇ――

裕貴だって女が嫌いなわけではない。むしろ積極的に好きな方だ。

やれるならいくらだってやりたいし、そういうところはがっついている、と自覚もある。

が――今夜は嫌だった。

今夜は裕貴の男としての初仕事だったのだ。それは女の入る世界じゃない。

ひとりの男として、極道として、内藤に認めてもらえた日だった。

兄貴としての内藤の言葉も欲しかったし、自分がどれだけ高揚していたか、そんな話をしたかったのだ。

子どもじみた感傷だと分かっているけれど、機嫌は治らない。

裕貴は不貞腐れたままトイレを出て、和室に向かった。

室内に入ろうとして、目に飛び込んできた状況にぎくりと動きが止まった。

いつの間にか部屋の明かりは暗くなっており、畳の上で女と内藤が折り重なってひとつの影になっているのが見えた。

裕貴はかっと顔に血液が集まるのを感じた。恥ずかしいわけではない。頭に血が昇ったのだ。

女と寝ることも、それが目の前で起きていることも別に照れ臭いとは思わないが、頭の中は訳のわからない怒りでいっぱいになった。

裕貴は気を遣うこともせず、ドタドタと足音を立てて部屋に入り、さっきと同じ場所に腰をおろして、両膝を抱えこんだ。

ビールを飲んで煙草に火を点けると、もうひとりの女がにじり寄って来て、上目遣いに裕貴を見た。

「…あたしもいいよ…、別に」

さも、どうせ裕貴だってしたいんだろう、と言わんばかりの態度だ。

「うるせえな、欲情しサカってんじゃねぇよ。あっち行ってろ」

裕貴が凄むと、女はなんで意地悪言うの、と甘えた声を出した。

めんどくせぇ、ホントに――

視界の隅に女と戯れる内藤の姿が入る。

女の品のない喘ぎ声が聞こえた――

唐突に暴力的な衝動が起きて、裕貴は側に来ていた女の腕を引いて強引に押し倒した。

嫌だ、と言いながらまったく抵抗する素ぶりを見せない女のスカートの中に乱暴に手を入れる。

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第二章『暗くなるまで待って』 4

大阪 Baby Blues



塚原が後ろを通りすぎた――裕貴は後先を考えずに、闇雲に男に掴みかかって行った。

「なんだてめぇは…っ」

篠田の舎弟が唸るような声をあげた。ここで騒がれてはまずい。

裕貴は力任せに壁に男の体を押しつけると、その口を手で塞いだ。

撃たなければ――早く――

拳銃を持っていたっけ――手の中にある――

暴れる塚原を押さえつけながらだから、どこを狙えばいいのか分からない。

その時、後ろから声がした。

「裕貴――撃て」

内藤 啓介の声――

裕貴の指が引き金を引いた。裕貴と男の体の間でくぐもった破裂音が響く。

腕の中の男の体が急激に重くなって、裕貴は手を離して後退さった。男の体が壁に沿って、ずるずると崩れ落ちる。

「裕貴」

後ろから腕を引かれて振り返ると、内藤が立っていた。

「手を洗え、早く」

言われて自分の手を見下ろすと、至近距離で撃ったせいか、両手が血塗れだった。

「裕貴、チャカよこせ。それ持ってたら手洗えへんやろ」

内藤が裕貴の手から拳銃をもぎ取ろうとしていたが、指が固まったようになって動かなかった。

「裕貴っ」

声を殺したまま内藤が鋭く言ったが、裕貴の手は言うことを聞いてくれない。

「あ…――」

もう体から力が抜けそうだ――

指先は固く握られているのに、膝から崩れ落ちそうになる。その体を支えるように内藤が抱き締めた。

「裕貴」

名前を呼ばれて顔をあげると、顎を内藤に掴まれた。

そのまま内藤に唇を塞がれる。

「…――っ」

唇の隙間を舌でなぞられて、反射的に開いた口にその濡れた舌先が滑り込んできた。

内藤のくちづけに頭が痺れたような眩暈を感じて、裕貴は思わず目を閉じた。

唇がそっと離れる。

「落ち着いたか――?」

囁くような内藤の声に裕貴はぎこちなく頷いた。

手に握り込まれた拳銃が、ようやく内藤に渡る。

「早く手ぇ洗え」

言われるままに手を洗うと、内藤が腕を引いて裕貴を化粧室から連れ出した。

そのままロビー直通のエレベーターに乗り込む。

唇を噛み締めたまま乗ったエレベーターがロビー階に到着し、ふたりはそのままホテルを出た。

エアコンの効いていたホテルとは裏腹に、外はむっとする熱い空気に満ちていた。

暑いと思った瞬間、裕貴の体は後ろから内藤に抱きすくめられていた。

「よおやったな」

振り返ると内藤が笑顔を向けていた。

「啓介…さん…」

「よおやった、よおやったで、裕貴」

内藤ががしがしと乱暴に裕貴の金髪を掻き回した。

「ちょ…痛いって…」

内藤の笑顔を見た瞬間、緊張していた体から不意に力が抜けた。裕貴も思わず笑顔になる。

「たいしたもんや、裕貴。おまえもこれでおとこやな」

そう言うと、内藤は裕貴の肩に腕を回し、しっかりと組んだ。

「俺は信じてたで。おまえは絶対、できるってな」

「啓介さん…」

あまりにも手放しで内藤が褒めちぎるので、裕貴は照れ臭くなった。

「で、でも…啓介さんが来てくれなかったら、俺、やり損なったかも…」

「なに言うてんねん。あそこまでできれば立派なもんや」

肩を抱く内藤の手に力が籠もって、裕貴は体が熱くなった。

――おまえはできる

そんなことを言う人間はこれまで誰もいなかった。

おまえはできない――

このできそこない――

役立たず――

そんな言葉なら数えきれないほど浴びせかけられて来た。

けれど、裕貴に向かって、おまえはやればできる、と言った人間は内藤 啓介が初めてだった。

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第二章『暗くなるまで待って』 3

大阪 Baby Blues

*********

次の日の夕方、ふらりと出掛けていた内藤が、片手に洋服をぶら下げて帰って来た。

「なんすか、これ?」

「知り合いのホストに借りてきてん。これ着て、おまえはお出掛けや」

「俺?」

それは洒落た黒いパンツとグレイのシャツだった。綺麗にアイロンがかけられている。

「お、ぴったりやな」

借りてきた服を着た裕貴を見て、内藤は満足気に言ったがすぐに顔を顰めた。

「しかし、その品のない金髪、なんとかならんか? 今時、流行らへんぞ」

「いいんですよ、これは俺のトレードマークなんだから…」

裕貴が膨れて外方を向くと、内藤の手が顎にかかって、無理矢理、顔を前に向けられた。

「アホウ、いつまでガキのヤンチャのつもりでおんねん。ヤクザのトレードマークは自分の顔と名前と背負うてるカンバンやぞ」

間近で内藤に睨まれて、裕貴は黙り込んだ。

「そんなアタマやったら、ええ的やろが。若いんやから命は大事にせんとあかんで」

内藤はぽんと裕貴の頭を叩いた。

この人、俺の心配してんのか――?

会ったばかりでも、一応弟分として気遣ってくれているのかもしれない。

「…どこ行くんすか?」

裕貴が上目遣いのまま聞くと、内藤はにっこり笑った。

「デートやな」

内藤が裕貴を連れてきたのは、ホテルの最上階にあるバーだった。今夜はあの目立つパナマ帽は被っていない。あれだって裕貴の金髪同様、流行遅れだし、なにより目立って仕方がない。

バーのカウンターに座って注文を済ませると、内藤が小声で囁いた。

「あの窓際の席の男――見えるか?」

窓際には、スーツ姿の中年男が座っていた。ハスられた*9傷痕なのか、頰に微かな引き攣れのある男となにやら談笑している様子だ。

裕貴が頷くと、内藤は前を向いたまま言った。

「あれは篠田しのだの右腕の塚原っちゅう大物や――おまえの獲物やで」

「え…――?」

「チャカ、持って来てるやろ?」

――おまえの獲物…

つまりあの男を拳銃で討ち取ってこい、ということか。

裕貴はごくりと唾を飲んだ。

「あいつが便所に立ったらついていけ。終わったらそのままホテルを出て行けよ」

裕貴は唇を噛んだ。

初仕事――になるのか――これが――

裕貴ひとりに任された仕事だ――

使いっ走りじゃない、一人前の男の仕事――

「裕貴」

表情を変えないまま、内藤が囁くように言った。

「これは大事な仕事や。おまえやから任せられるんやで」

膝の上に内藤の手が伸びてきた。温かい大きな手が力強く裕貴の手を握る。

「啓介さん」

「おまえならできる――信じてんで」

裕貴は小さく頷いた。

ちょうど注文した酒を飲み終わる頃、頰に傷痕のある男を残し、塚原だけが立ち上がった。カウンターに座った裕貴たちの後ろを気づかずに通り過ぎて行く。

「――よし行け、裕貴」

内藤の合図に、裕貴は弾かれたように立ち上がった。不審な行動を取るな――落ち着いて動け――自分にそう言い聞かせながら、わざとのんびり化粧室へと向かった。

化粧室のドアを開けて中に入ると、脇に並んだ小便器の一番奥に塚原が立っていた。それぞれの便器の間に衝立が設えられており、体が隠れている。

裕貴は鏡の前で髪を直す振りをしながら、塚原を窺った。こちらを気にしている様子はない。

塚原に見えないように、ゆっくりと腰に挿してある拳銃を抜く。思わぬ重さに手の力が抜けそうになる。そっと安全装置を外すと、その音の大きさに思わず体がぎくりと震えた。しかし、篠田の舎弟はそれに気づく様子はなかった。

平静を装ってゆっくりと塚原に近寄った。隣の便器の前に立ち、用をたす振りをする。

早く撃たなければ――男の方が出て行ってしまう。

しかし、裕貴の体は固まったように動かなかった。手に握られた拳銃から力が抜けそうだ。

用が終わったのだろう。篠田の舎弟が体を揺すって、ジッパーをあげている気配を感じた。このままでは逃げられる――



*9…切られる。

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第二章『暗くなるまで待って』 2

大阪 Baby Blues



内藤は冷蔵庫を漁ると、包丁を器用に使って野菜を刻み、フライパンで焼きそばを炒めた。

「すげぇ…。啓介けいすけさん、料理なんてできるんすね」

後ろから覗き込んだ裕貴が感心したように言うと、内藤が飽きれたような声を出した。

「アホか。こんなんで料理なんて言うかい。焼きそばなんてインスタントに毛ぇ生えたようなもんやろ」

できあがった皿を、片付けた卓袱台に運んだ。内藤に言われて、裕貴は新しいビールを冷蔵庫から出した。

食え食え、と言われて早速箸をつけて掻き込むように食べ始めた裕貴を、内藤はじっと眺めていた。その視線に気がついて、裕貴は顔をあげた。

なにを見ているんだろうと思ったが、口の中が焼きそばでいっぱいで喋れない。

「…おまえ、親はどうしてんねん」

不意に内藤がそんなことを言い出した。

「…別に」

口の中の焼きそばをもぐもぐと噛んで、飲み込んでから裕貴は言った。

親のことで話すことなどなにもない。

大阪こっちに来てること、言うてきたんか?」

内藤の言葉に裕貴は苦笑した。

「そんなこと気にするような女じゃないっすよ。俺が生きてるか死んでるかも知らないんじゃないですか?」

「なんや、おまえ。おふくろさんやろが」

内藤はそう言って自分の焼きそばを食べ始めた。

「おふくろ? まぁ、産んではくれましたけどね。男ができりゃあ、俺のことなんてほっぽっていなくなっちまうような女ですから。もう何年も連絡もしてないし…。良く考えたら、こっちもあの女が生きてるか死んでるか、知らないや」

裕貴がそう言って笑うと、内藤が静かに言った。

「――おまえ、名前は誰がつけてくれたんや?」

「名前?」

思ってもみなかった問いに裕貴が顔をあげると、内藤がじっとこちらを見ていた。

「そうや、名前や。裕貴ってつけたの、おふくろさんか?」

「多分…」

裕貴は自分の父親が誰かを知らなかった。母親も、酔うたびにあんな男と愚痴って裕貴に八つ当たりしてはいたが、男出入りの激しい女だから、当人も実際には誰が裕貴の父親なのか分かっていないんじゃないか、と思っていた。

母親は自分の実家とも疎遠なようで、裕貴は祖父母にも会ったことはない。だから、きっと裕貴の名前をつけたのは母親だったのだろう。

「ええ名前やんか」

「え…?」

「裕貴――ええ名前やんけ。適当につけたような名前とちゃうやん。今のおまえのおふくろさんがどうか知らんけど、おまえを産んで、おまえの名前をつけた時は、きっとおまえのこと可愛かったんやろ」

裕貴――

母親に名前を呼ばれたのはもう何年前だっただろう。家を出る最後の頃は、おまえだの、あんただの、罵倒と怒鳴り声しか覚えていない。

邪魔なのよ――

あっちへ行って――

今、忙しいの、見て分かんないの――

あんたなんて産むんじゃなかった――

新しい男ができるたびに裕貴を邪魔者扱いしていた。出入りする男たちも、裕貴を無視するか、酔って殴りつけるか――

真冬に一晩中、外へ放り出されたこともあった。食べ物のないまま、何日も母の帰りを待っていたこともあった。

それでも――ほんの数回――いやもしかしたらたった一回くらいのことなのかもしれない。

酔った母が裕貴の布団に潜り込んで、泣いていたことがあった。裕貴を抱き締めて、静かに嗚咽を漏らしていた。

――おかあさん、どうしたの?

――ごめんね…、裕貴…

酒臭い息だった。苦しいくらい裕貴を抱き締めていた。温かい胸――

不意に内藤の手が伸びてきて、裕貴の頰に触れた。指先で拭われて、自分の頰に涙が零れていることに気づいた。

内藤の手を振り払って、裕貴は慌てて手の甲で顔を擦った。

――バカじゃねぇの。ガキじゃあるまいし

十九にもなって、母親のことを持ち出されて泣くなんて、こんなに恥ずかしいことはない。

あんな女、もうとっくに母親だなんて思ってもいないのに――

ふっと内藤が笑った。

「ほら、もっと食え。腹減ってんねやろ、俺のも食え」

内藤は明るくそう言うと、自分の皿から焼きそばの塊を裕貴の皿に移した。

「ちょ…っ、いいっすよ。そんな食えないって…っ」

断っても、内藤はええから、ええから、と裕貴の皿に焼きそばを山盛りにした。それからその手が裕貴の髪に伸びてきた。

くしゃくしゃっと髪を掻き回して、内藤が笑った。

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第二章『暗くなるまで待って』 1

大阪 Baby Blues



次の日、裕貴ゆうき内藤ないとうの指示で、りょうと手塚の見廻りを兼ねた情報収拾に同行した。知らない場所のことだから土地勘をつけとけ、いざという時に役に立つから――内藤はそう言って裕貴を送り出した。

亮は少年グループでは最年長のリーダー格で、百九十センチメートル近い大男だが、痩せているのでひょろ長いといった印象だった。

内藤の前では口を謹んでいるようだが、お調子者の手塚はすぐに裕貴にうち解けて、テッちゃんって呼んでやと言いながら、浪速っ子らしく冗談を口にするようになった。

ふたりは裕貴を港近くの観覧車のある公園に連れてきた。緑地の中の遊歩道を抜けて見晴らしのいい広場に出る。

海が常に身近な横浜で生まれ育った裕貴にとっては、親近感を覚える場所だった。

「ここ…いざという時に俺らが集まる場所やから覚えとき」

海に臨んだ背の高い石塔の前で亮が言った。

「いざという時?」

裕貴はそう言いながら辺りを見廻した。海傍の公園といっても周囲には緑が多い。たしかに身を隠すにはいい場所だが、一方で海側に追い詰められれば逃げ場所がないことが、ふと気になった。

――まぁでも実際は、こんなところで大人数に追い詰められることなんかねぇか…

どちらかと言えば市内のここかしこで小競り合いが散発しているという状況だ。

いずれどちらかが負けを認めれば手打ちとなるに違いないのだが、押され気味の横尾方が先代の遺言を背負っているため、引くに引けない状況に過ぎないのだ。

だから大勢でやりあうような可能性はまずない。なにかの襲撃に失敗して逃げ出した時に、誰かが後をつけられればまだしも、ここが緊急集合場所だということを敵側は知らないのだから、少人数なら木立と緑の中に身を隠すことは簡単だ。

「おまえ、こんなとこまで腕貸しに送りこまれるなんて、哥兄あにぃたちに相当見込まれてんのとちゃうか?」

笑顔を浮かべて言うテッちゃんこと手塚に、どう返事をしようか迷う。

音羽おとわ会から見れば、これは横尾方の負け戦だ。こうしてその渦中に入り込んで、ましてや末端で命のやりとりをしていると実感はないが、外から大局を見ている音羽会の判断はそうだった。そして、親分になるほどの者たちは、戦局をけっして見誤ったりはしない。だから秋津組の島村は命惜しさに、裕貴と一臣かずおみに慌てて盃をくれてやって、自分の身代わりにここにふたりを送り込んだ。

しかし戦いの只中で、現実に命を危険に晒している亮と手塚に、そんなことは言えなかった。

「いや…、俺は他の兄貴たちのおまけみたいなもんだからよ」

と、言葉を濁した。

昼過ぎから夕方までの一番暑い時間帯に大阪市内を歩き回ってからふたりと別れ、内藤の家に戻った裕貴は全身、汗だくだった。

「おお、おかえり〜…って、おまえ、びちゃびちゃやないかい」

アパートにいた内藤は、汗まみれで戻った裕貴をひとめ見るなり、そう言った。

「もう…暑くて…」

夏は横浜だって暑いが、大阪の暑さは比ではなかった。なんというか空気がもう熱い。

襟足からも汗が滴って、金色の髪の毛が顔にべたべたとまといついてくるのが鬱陶しい。

裕貴はすぐに風呂に飛び込んだ。シャワーで汗を流して出てくると、内藤が裕貴に缶ビールを差し出した。

「ありがとうございます」

裕貴はぺこりと頭をさげて、ビールを受け取った。

こんなところは、内藤は本当に気さくだ。普通、ヤクザの兄貴分というものは舎弟をパシリに使っても、こんな風に気遣ってくれることなどない。

シャワーを浴びた先からまた汗が滲み出てくるようで、裕貴はハーフパンツだけの上半身裸のまま和室に座り込んだ。

「どや、亮たちと仲良うなれたか?」

内藤もビールを片手に卓袱台の前に座った。喫いかけの煙草が灰皿の縁に乗っている。

裕貴はビールを缶から直接、啜りながら頷いた。

「あちこち案内してくれました。なんかずっと歩きっぱなしっだったっすけど」

「大阪は狭いからな。歩きで大抵のところは行かれんで」

内藤は楽しそうに笑った。

「だから、裏道、路地、そういうのんが頭に入っとらんと、いざという時、逃げ切れへんねん。また案内してもらい」

内藤が、まだ濡れたままの裕貴の金髪をひと撫でした。

「なんやおまえ、頭びちゃびちゃやんけ。ちゃんと拭けや」

濡れた手を大袈裟に振ってから、内藤は裕貴が首からぶら下げていたタオルを取り上げて、髪をゴシゴシと拭きだした。

「…ちょ…っ、いいっすよ。自分でやるから…っ」

裕貴は慌てて逃げようとした。こんな風に世話をやかれることには慣れていない。

「ええからおとなしいしとけ。ほら…っ」

哥兄にそう言われて、裕貴は仕方なく黙って下を向いて、内藤のなすがままになった。

身動きをやめた裕貴の頭を内藤はタオルで良く拭いてから、ぽんと頭を叩いた。

「よっしゃ」

目をあげると、頭に被せられたタオルの間から内藤の笑顔が覗きこんでいる。

「あ…、ありがとう…ございます…」

裕貴の礼に、内藤は優しい笑みを向けた。

「腹減ったやろ? 今日はおまえも疲れたやろから、俺がなんか作ったるわ」

内藤はそう言うと立ち上がって狭い台所に向かった。

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第一章『 俺たちに明日はない』16

大阪 Baby Blues

**********

少年たちと別れて、裕貴は内藤にアパートに戻った。

「あっつ、あっついわ〜」

内藤はパナマ帽で顔を扇ぎながら、三和土につくを脱ぎ散らかすとドタドタと部屋にあがって行った。

「汗だくやな。俺、風呂入るわ」

そう言うと、内藤はおもむろに着ていたアロハシャツを頭から引き抜いた。

「わっ」

突然、上半身裸になられて裕貴が驚いた声をあげると、内藤の方がびっくりした顔で振り向いた。

「わぁっ、なんやなんや」

――落ち着け、俺っ!

慌てて自分に言い聞かせる。アパートの脱衣場は狭いのだ。昨日だって内藤は、キッチンで服を脱いで風呂に入っていたではないか。

亮が変なことを言ったから、妙に意識してしまっているのだ。

「な、なんでもないです…っ」

自分の動揺を誤魔化すようにへらっと笑った裕貴を、内藤は胡散臭そうに見てから風呂場に消えた。

小さな卓袱台の前に座って、裕貴は煙草に火を点けた。

内藤が両刀だろうとなんだろうと、少なくとも自分には関係ない。

昨夜も内藤は裕貴に妙な真似をしたりはしなかったし――

それに――そう――内藤には淳子という女がいる。

裕貴は後ろを振り返った。

隣の部屋の隅にはベッドが置かれている。ひとり用にしては大きい。この狭い部屋に不釣り合いなくらいだ。

このベッドで内藤は淳子と寝ているのだろう――

「裕貴」

「うわっ」

突然、声を掛けられて、裕貴は文字どおり飛び上がった。

前を向くと、風呂からあがった内藤が立っていた。

「な、なんやねん、おまえ…。今日は変やぞ? 酔っ払っとんのか?」

内藤は怪訝な顔をしながら卓袱台の前に座り込んだ。

手には缶ビールを持っている。

「――まぁ今日は派手に遊んだからなぁ。楽しかったやろ?」

内藤はにやにやしながら裕貴の顔を覗き込んだ。

楽しかった――のだろうか――

たしかに高揚感はあった。拳銃を撃ったときの興奮は覚えている。

あの衝撃と暗闇に飛び散る火花――

内藤に撃て、と言われた瞬間、身体中に電流が走ったかのように感じた。

無意識のうちにごくりと唾を飲み込んだ。

――内藤さんってホンマにすごい極道やねんで

亮が憧れを込めて語った言葉がふと蘇った。

この男の下でなら、自分は本物の漢になれるかもしれない――

「――はい」

裕貴は今度は力を込めて頷いた。

裕貴の答えを聞いて、内藤は満足そうににっこり笑った。

「よっしゃよっしゃ、おまえはホンマにええ子やな」

手が伸びてきて、裕貴の髪が掻き回される。

最初は子ども扱いか、と思ったこの仕草にも慣れてしまった。

脱色のしすぎで乾燥した金色の髪を撫でられて、裕貴は笑顔を零した。






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第一章『 俺たちに明日はない』 15

大阪 Baby Blues



「――なぁ、おまえ、どこに泊まってんの?」

不意に亮が言った。

「え? 俺? えっと…啓…、な、内藤さんのとこ…」

「ふーん…」

亮は少し考えるような表情でビールを飲んだ。それからちらりと内藤の方を見てから、裕貴に顔を近づけた。

「気ぃつけや。内藤さん、両刀って噂やで」

「えっ…ごほ…っ」

予想もしていなかった言葉に、裕貴はむせてビールを吹き出した。

「きったな…っ。静かにしろや」

「ご、ごめん…っ」

慌てて内藤の様子を窺ったが、こちらの会話には気づいていないようだ。

吹き出したビールをおしぼりで拭いてから、亮がもう一度言った。

「いや、ホンマ。俺もよぉ知らんけど。内藤さん、どっちもイケるねんて」

「へ…え…」

我ながら間抜けな返事だとは思うが、かといってどう返したらいいのか分からない。

「で、でも啓…内藤さん、女いるじゃん。俺、会ったよ」

「ああ、淳子さんやろ。だから言うてるやん、両刀。どっちもイケんねんて」

亮は軽い調子で言って、煙草に火を点けた。

「でもよぉ、内藤さんなら抱かれたってええよなー」

「はぁっ!?」

今度こそ、裕貴は間抜け丸出しの声が出てしまった。

一体、なにを言い出すのだ。

しかし、亮はしらっとした様子で続けた。

「おまえ、横浜やったら知らんのかもしれへんけど、内藤さんってホンマ、すごい人なんやで。今度のマチガイやって、敵をぶち殺してんのほとんど内藤さんやからな」

亮はまるで自分の手柄のようににやにやしている。

「こんなすごい極道、なかなかおれへんで。俺、ホンマの兄貴は別やけど、内藤さんのためやったらなんでもするわ」

そこで裕貴は、内藤の武勇伝よりも別のことが気になった。

「本当の兄貴は別?」

亮は頷いた。

「うん。俺ら、皆、あちこちの組からの寄せ集めやねん。相原なんて、カンバン持ちでもないで。その辺、フラフラして空気銃で鳩やら撃ってたヤバいガキなんやけど、射撃の腕がめっちゃええのん、内藤さんが目ぇつけてん」

そういえば内藤も、この少年たちは舎弟ではない、借り受けた兵隊たちだ、と言っていた。

「でも俺もう、元の兄貴のとこには帰りたないわ。内藤さんとこにおる方が全然、おもろいもんな。組に戻っても、どうせ使いっぱとかそんなことしかさせてもらえへんし、なんかっちゃあすぐ殴られるし…。内藤さんは俺らにもホンマの仕事させてくれはるもんな」

亮はそう言うと、灰皿に煙草の灰を落として笑った。

「おまえもラッキーやったな。大阪こっち来て、内藤さんのとこで動けるなんてよ」

「うん」

裕貴は頷いて、ビールを飲みながら、隣の内藤をまた盗み見た。

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第一章『 俺たちに明日はない』 14

大阪 Baby Blues

********

一時間後、裕貴は内藤に連れられ、他の少年たちと小さなお好み焼き屋にやってきた。

座敷の一角を陣取った少年たちは、先ほどの襲撃の成功に沸き立ち、興奮した様子だった。それぞれにビールジョッキが配られ、おどけた乾杯のあと、小柄で華奢な小宮がコテを使って器用にお好み焼きを焼き始めた。

一応、新参者としての自覚のある裕貴が手伝いを申し出ると、背の高い少年が笑ってそれを制した。

「こいつに任しとけ。お好み焼くのうまいねん、こいつ」

背の高い少年はりょうと名乗った。裕貴とあまり変わらないくらいの歳かと思っていたら、もう二十三歳だという。一臣よりひとつ歳上だった。

あいつは歳の割にじじいだからな――

そんなことを思いながら、裕貴はふと笑みを漏らした。

一臣は落ち着いているというか、分別臭いところがある。だから年齢よりも上に見られることが多い。

今頃、どうしているかと気になったが、一臣のことだからきっとうまくやっていることだろう。

「いつ大阪こっち来てん?」

ビールを飲みながら亮が尋ねた。

「昨日…」

「東京?」

「ううん、横浜」

「もうこっちでお好み食うたか?」

「いや、まだ…」

昨日はあれから近所の定食屋で食事を済ませてしまった。全部、内藤持ちだったが、大阪に来て名物を食べようか、などという余裕はまだなかった。

ふたりの会話を聞きつけたのか、裕貴の逆隣に座っていた内藤が振り向いた。

「そやねん。まだこいつ、お好みも食うてへんからな。いっぱい食わしたってくれ。ここのはうまいで」

そう言うと、内藤が焼けたお好み焼きを裕貴の皿に取り分けてくれた。他の少年たちも、それぞれお好み焼きにコテをいれる。

「初めてチャカ撃った気分はどうや、裕貴」

ビールを飲みながら、声を顰めて内藤が耳許で尋ねた。

「どう…って…」

内藤の声に弾かれたように最初の引き金を引いた後、自分が撃った銃弾がどこに飛んでいったのか、誰に当たったのか、そんなことはまるで分からなかった。銃弾は四方から飛んでいた。雨あられと飛んでくる銃弾の中で、車の脇の人の塊は、地面の塊になっていった。

「全弾、撃ったな」

内藤がにやりと笑った。

思わず目を伏せて裕貴がぎこちなく頷くと、内藤は再び裕貴の肩に腕を回した。

「よおやったで、よおやった。俺が見込んだだけのことはある」

手放しで褒められて、裕貴はなんと答えていいのか分からなかった。不意に胸が苦しくなったような気がして、裕貴はビールを飲んだ。

内藤は最後にもう一度、裕貴の肩を抱く手に力を込めてから、その腕を離した。

酒を飲んでいるせいか、そこだけ妙に熱を持っているような気がして、裕貴は内藤に握られた肩をそっと撫でてみた。

他の少年たちと楽しそうに笑っている内藤を盗み見る。

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第一章『 俺たちに明日はない』13

大阪 Baby Blues



深夜の住之江の倉庫街は車も人気もなかった。

人気のない通りに車を駐めて、内藤と少年たちは音もなく通りを歩き出した。

「どこやねん」

「こっちです」

早川一家の麻薬取引情報をもたらした背の高い少年が、内藤に答えて先に立って案内する。

倉庫が建つ角まで来ると、その少年は立ち止まって建物に身を寄せ、曲がった先の道をそっと覗いてから、内藤を手招きした。

「あそこです」

「暗いなぁ…何人おんねん」

「六人…ですかね…」

内藤と背の高い少年は小声で囁き合った。

「ふん…なら一気に片つけようや。俺、腹減ってもうたわ」

内藤はそう言うと、小宮、と声を掛けた。小柄な少年が内藤の側に駆け寄る。

「あっこ…あの倉庫の外階段、見えるか?」

内藤の問いかけに小宮と呼ばれた少年が頷いた。一体、いくつなのか、まだ子どもの面影を残す華奢な体だ。

「相原連れて行け、ええな? おまえらが合図や」

小宮は再び頷くと、裕貴たちの方へ駆け戻りながらすれ違いざまに、固まって立っていた少年たちのひとりの腕を叩き、その少年とともに倉庫街を逆方向へと走り去って行った。

「手塚とおまえは向こう側へ回れ」

背の高い少年もまたその場を離れた。

「裕貴」

手招きされて、裕貴は弾かれたように内藤のもとへ走った。

「あれ、見えるか?」

二ブロックほど向こうに車が二台停まり、人影が見えた。

小さく頷くと、内藤はにっこり笑った。

「おまえは俺とや」

そう言うと、内藤は走り去って行った少年たちと同じ方向に歩き出した。隠れて様子を窺っていた建物をぐるりと大回りする形で、さらにもう一本、男たちに近い通りに抜ける。再びその通りの物陰で立ち止まると、内藤は横壁を見上げるようにした。その視線の先を裕貴も追う。

裕貴たちが隠れた建物の外壁には、非常階段が設えられていた。その二階の踊り場辺りに黒い影が動いているのが見える。

「よっしゃ、よっしゃ…うまいこと上がれたみたいやな」

内藤はそれを見てにやりとした。

「そろそろ始まるで、裕貴。――拳銃チャカあるな?」

頷くと、内藤が裕貴の肩を抱いた。

「気張るんやないで。頼りにしてるからな、裕貴」

暗がりで抱き寄せるように肩に力を込めて、軽く体を揺すられる。

裕貴はゆっくりと頷いた。

両手で拳銃を握り直した。慎重に構える。

次の瞬間、頭上から銃声が響いた。

「撃てっ、裕貴っ」

内藤の声に、まるで自分自身が引き金を引かれたかのように裕貴は指先に力を込めた。銃弾が発射される。その反動で思わずよろけると、後ろから内藤の手が背中を支えていた。

非常階段にあがった小宮と相原、男たちを挟み討ちするように反対側に回ったのはあの背の高い少年と手塚という少年――それから内藤と裕貴――一斉に発射された弾丸が暗闇の中で火花を散らし、その明かりに目が眩んだのか、もうなにも見えなかった。それでも裕貴は引き金を弾き続けた。

カチン…と軽い感触に変わり、全弾撃ち尽くしたことに気づいて、裕貴はようやく拳銃を握った手を下ろした。そして周囲はまったくの静寂となった。遠くに汽笛の音が響いている。

一ブロック先に停まった二台の車の周りにいた男たちの影は消え、代わりに地面に黒い塊が見えた。

カンカンと鋭い音がして、非常階段から少年たちが駆け下りて来た。小宮と相原はそのまま二台の車まで走り、すぐに内藤と裕貴のもとまで掛け戻って来た。

「内藤さん…っ」

ふたりの少年は興奮に頰を紅潮させながら、内藤の前に黒い革鞄を差し出した。ジッパーを開けると、中にはびっしり札束が入っていた。

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第一章『 俺たちに明日はない』 12

大阪 Baby Blues

*********

次の日、夜になると、裕貴は車の修理工場にあるプレハブ小屋に連れて行かれた。

「今日は俺んとこにおる若いのを紹介するわ」

「若いの?」

「舎弟とはちゃうねんけどな、まぁ横尾さんら親分衆から借り受けてる兵隊やな」

プレハブのドアを開けると、中は事務所のような作りになっていた。中央に事務机が四つ島のようにくっつけて置かれている。

「あ、内藤さん」

その周りに座っていた男たちが立ち上がって挨拶をした。男、といってもまだ裕貴とそう歳の変わらない少年たちのように見えた。

「おうおう、皆、まだ生きとったな」

軽口を叩きながら内藤は椅子に腰をおろした。

少年たちの視線が、自分が伴ってきた裕貴に注がれているのに気がついて、内藤は椅子のキャスターを器用に利用してくるりと裕貴の方を向いて両手を広げた。

「こちらは関東音羽会からおいでの橘 裕貴くんですよ〜。音羽会の親分さんの心づくしの腕貸しや〜」

相変わらずの巫山戯た口調であるが、他の少年たちも慣れているのか、笑いながら裕貴に挨拶をした。

裕貴も頭を下げる。

「ほんで? なんかええ情報ネタ入ったかいな?」

内藤が尋ねると、背の高い少年が前に出た。

「今夜、早川一家のネタの取引があるらしいですわ」

ネタぁ?」

内藤が片眉をあげた。

「あそこも相変わらずエゲつない商売しよるのぉ」

「あっちも戦争が長引いて資金繰りに苦労してるんとちゃいますか?」

「そんなん横尾こっちもおんなしやで」

内藤は肩を竦めた。

「――ネタのやりとりなら、向こうも小っさい所帯やろな…」

独り言のようにそう言うと、内藤は別の少年に声を掛けた。

「おい、高坂さんとこにドウグ取りに行ったか?」

少年は頷くと、足元の黒いボストンバッグを机の上に乗せた。

「ムダ使いすんなって文句言われましたよ」

そう言いながら、少年はバッグからいくつもの拳銃や銃弾の入った箱を取り出した。

「なに言うてんねん。戦争なんやからこんなもん後生大事に取っといてどうすんねんっちゅう話や。ウチが一番、戦果あげてんねんで。感謝して欲しいくらいや、なぁ?」

内藤の言葉に、少年たちはくすくすと笑っている。

事務机の上に無造作に散らばった拳銃を一丁取り上げ弾倉を確かめると、内藤は銃身の方を持って、その銃把を裕貴に向けた。

「ほら、これはおまえのや」

「え…――」

裕貴は目の前に差し出された黒光りする銃を見つめた。

「ドウグも持たずに戦争行く気か? ほら」

内藤に促されて、裕貴はそれを手に取った。

「安全装置外して、引き金引けばええねん。簡単や」

簡単――

自分の手の中にある拳銃をじっと見つめる。それはずっしりと重い。

ぺちっと頰を叩かれて、裕貴ははっと顔をあげた。

「大丈夫や。俺が傍におるから」

いつの間にか椅子から立ち上がっていた内藤が微笑んで、それから裕貴の髪をくしゃりと撫でた。

「ほな行きましょか?」

周囲の少年たちを見回して、内藤はにやりと笑った。

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第一章『 俺たちに明日はない』 11

大阪 Baby Blues



内藤の住まいは、喫茶店から三十分ほど歩いた場所だった。隣の家との境が拳一つ分ほどしかなさそうなくらい家々が肩を寄せ合うように建てられた場所に、ねじ込むようにその二階建ての古ぼけたアパートはあった。

アパートの一階の角部屋の前で、内藤はポケットから鍵を取り出しドアを開けた。

「ただいま〜」

相変わらず調子のいい声を出して、内藤は狭い三和土で靴を脱いだ。その肩越しに、狭い室内に座る女の姿が見えた。

古ぼけた和室の畳の上に座っていたその女は、玄関が開くと同時に立ち上がってこちらにやって来た。

「やっと帰ってきたんだ」

「おお、淳子じゅんこ。待っててくれたんか」

淳子と呼ばれた女は溜息を吐いた。

「――待っててくれって言ったのはあんたでしょ」

そう言うと、女――淳子は、内藤の後ろにいた裕貴をちらりと見た。

「ああ、こいつ裕貴や。音羽会からの腕貸し」

裕貴は無言で頭を下げた。

「これは淳子。俺の情人イロやね」

内藤がにやにやしながら紹介すると、淳子は眉を顰めた。

「やめてよ。情人だっていうならもっといい生活させなよね。あんたなんてヒモじゃない」

黒のキュロットに淡いレモンイエローのふわりとしたトップを合わせた淳子は、長い髪を搔きあげた。体のラインがうつりにくい服装ではあるが、短いキュロットから出た足は細い。痩せているというより、いっそ不健康そうな細さに見えた。まだ二十代も前半だろうに、その瞳は人生に倦み疲れたように見える。

「――もういいよね。あたし、行くから。しばらく友だちの家に泊めてもらえばいいんでしょ?」

淳子はそう言うと、玄関で靴を履いた。狭い玄関先で体がぶつかりそうで、裕貴が思わず後退さると、体が玄関の外に追い出されてしまった。

「ちょお待てや。送っていくから――」

裕貴の脇を摺り抜けて出て行ってしまった淳子の後を、内藤が慌てて追いかけた。

「裕貴っ、おまえ、中で待っとけっ! ええかっ!? 待っとけよ? おいっ、淳子っ、待てっちゅうねん」

淳子と裕貴の間で交互に待て待て、と喚きながら内藤は外へ飛び出して行った。

バタバタと淳子を追いかける内藤の後ろ姿を唖然と見送った後、裕貴は鍵の掛かっていないアパートのドアをそっと開けた。

狭く古ぼけた室内は、それでも片付いていた。部屋の正面に掃出し窓があり、その向こうに物干し竿が見える。庭らしきそのスペースは洗濯物を干したら、隣との境のコンクリートの壁に触れてしまいそうなほど狭かった。

部屋の中央には卓袱台が置かれ、そこに窓から射す西日が映っていた。

この部屋は女の部屋だ――

飾り気のない部屋だが、角には小さなドレッサーが置かれ、その前にはアクセサリーや安っぽい香水瓶のようなものが並んでいる。

内藤がこの部屋に住んでいるにしても、この部屋はおそらく、あの淳子という女のものなのだろう。

――しばらく友だちの家に泊めてもらえばいいんでしょ?

淳子のセリフが蘇った。

つまり淳子は、内藤にしばらく帰って来るな、と言い渡されたのに違いない。

ヒモ紛いに女にぶら下がって生きているくせに、自分勝手にしばらく帰って来るなと告げる男――つくづくヤクザなどろくでなしだらけだ。

裕貴はふっと息を吐くと、狭い三和土で靴を脱いでから部屋にあがった。

玄関から入ってすぐ狭い台所になっていて、卓袱台のある和室との間はガラス戸で仕切れるように作られていた。玄関からは分からなかったが、中に入ると和室の左側にもうひとつ小さい部屋があり、そこには畳の上に絨毯が敷かれて、隅にベッドが置かれていた。

不意に玄関の戸が開く音がして、裕貴は振り返った。

「お、そんなとこに突っ立ってなんやねん。遠慮せんでええねんで」

内藤が、靴を蹴飛ばしながら部屋に入って来た。ひょいと頭をさげてキッチンとの仕切りを越える。猫背に背中を丸めているから気づかなかったが、内藤は見た目より背が高いようだ。

内藤は卓袱台の前に腰をおろすと、脱いだパナマ帽を脇に置いた。

「当分、ここが俺らの隠れ家やな」

内藤はポケットから煙草を引っ張り出して一本咥えると、まだ立ったままだった裕貴を見上げた。

「なにしてんねん。座れって」

そう言われて、裕貴もやっと腰をおろした。

「おまえ、タバコは?」

内藤に問われて頷く。

「なら俺に遠慮はいらんで。一服しろや」

咥えた煙草に火を点けて、うまそうに煙を吐き出す内藤を見て、裕貴も煙草を出した。

「――さっきの人…、いいんですか?」

裕貴の問いかけに内藤は顔をあげた。

「ん? ああ淳子な。ええねん、ええねん。あいつは分かってるから、しばらく帰ってけえへんわ」

そう言うと、内藤は器用に裕貴に向かって片目を瞑ってみせた。

「だから、しばらくふたりっきりよ、よろしくね裕貴ちゃん」

部屋をきょろきょろと見回していた裕貴は、その言葉に小さく吹き出した。

「大阪では俺がおまえの兄貴分やからな。困ったことあったら、なんでもこの兄ちゃんに言うんやで〜」

裕貴は笑顔を見せたが、この男はついさっき、目の前で五人もの男を撃ち殺したばかりだ。おどけてみせてはいても、なかなか怖い哥兄には違いない。

しかし、こんな殺し合いの最中ではこれほど頼り甲斐のある兄貴もいないだろう。

裕貴ははい、と返事をするとしっかりと頷いた。

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第一章『 俺たちに明日はない』 10

大阪 Baby Blues



阪神山内組は西の広域暴力団組織で、その盤石の地盤の上に何代も続く歴史を保っていた。それがこんな跡目争いで大抗争をやらかすことになろうとは、誰が想像していただろう。つくづく確かなものなどなにもない世界だ。

大阪に来てすぐに、一臣と立ち寄った渡会組の事務所も浮き足立っていた。集まっていた男たちは長年、渡世の水に浸かった肝の据わったゴロツキたちの筈だが、それでも苛立ちが見え隠れしていた。

しかしそんな抗争の最中、裕貴の目の前のこの男――内藤 啓介はまったく動じたところも見せず、五人もの敵対組織員をあっさりと片付けてしまった。裕貴が出会ってから、まだ数時間と経っていないというのに。

その直前まで莫迦莫迦しい冗談を飛ばし、その直後に何事もなかったかのような顔で街をフラついている。

暢気にアイスコーヒーを啜っていた内藤が不意にこちらを見た。目が合って、じっと観察していたことを気取られたかと、裕貴はどきりとした。

しかし、内藤は裕貴に向かってにっこり微笑んだ。

「――おまえのおかげやで、裕貴」

テーブルの向こうから腕が伸びて来て、裕貴の金色の髪がくしゃっと掻き混ぜられた。

まるで小さな子どもを褒めるような仕草に、裕貴は顔が熱くなった。莫迦にしてるのか、とも思ったが、会ったばかりの哥兄にそんな口はきけない。仕方がないので、水を飲んで、顔が紅くなったのを誤魔化した。

「な、内藤さん…はいくつなんすか?」

話題を変えるように裕貴が尋ねると、内藤はぺろりと舌を出した。

「俺か? もう三十やね〜。ええ歳やのにこんな下っ端やねんから、ろくなヤクザやないな、俺も」

そう言うと内藤はへらへらと笑った。

――下っ端? 本当に下っ端なのか?

たしかに役付ではなさそうだ。事務所であった渡会組若頭も、一臣を引き抜いた沼田組組員も内藤について特になにも言っていなかった。

けど――こんな肝の据わったただの下っ端がいるかよ

水で濡れた口を手の甲で拭っている裕貴を見て、内藤がにやっと笑った。

「啓介って呼べや、裕貴」

「え…? は、はい…」

へらへらと笑いながら五人の人間をあっさり殺し、それでいて妙に人懐っこい笑顔で下の名前で呼んでくれなんて言ってる――こうして笑っている姿との落差が激しすぎる。

裕貴は思わずその笑顔から目を逸らしてしまった。

日頃、裕貴は年齢に似合わず、物怖じしないところがある。どんなに凶悪な目つきのゴロツキ相手でも、真正面から見据えることに抵抗を感じたことはなかった。

自分から目を逸らすことなんて――ないのに――

「ほんなら行こうか、裕貴ちゃん」

内藤はおもむろに立ち上がった。またどこかで敵陣営に殴り込みをかけるつもりなのだろうか。

「どこへですか?」

裕貴も慌てて立ち上がると、内藤は伸びをした。

「家に帰ろうや。今日はもうしんどいわ」

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第一章『 俺たちに明日はない』 9

大阪 Baby Blues



人気のない閑散とした喫茶店の奥の席に腰を下ろすと、裕貴は出された水を一気飲みした。店内のエアコンに汗が一気に冷やされ、寒気が走った。

これはヤクザの抗争だと分かっているし、抗争がどういうものかも理解していた。けれど、頭の中で分かっていることと、目の前でそれが現実に起こるのでは大違いだった。

あっという間に人が五人も死んだ――

年配のマスターが持ってきたアイスコーヒーを一口飲んでから、内藤が口を開いた。

「落ち着いたか?」

「はい…、すみません」

こんなことに動揺していてはとても腕貸しとして役には立たない。

裕貴は恐縮して頭を下げた。

「ええって、ええって。誰かて初めてのときはそんなもんや。むしろ落ち着いてた方やで、おまえ。なかなか根性あるな」

内藤に微笑みを向けられ、裕貴はほっとした。

こんなところで役立たずの烙印を押されたくはない。

「おまえ、いくつやねん」

「…十九…もうすぐハタチですけど」

「もうすぐ? 誕生日いつなん?」

内藤は煙草に火を点けながら、軽い調子で尋ねた。ついさっき、人を撃ち殺したばかりだというのに、そんなことはまるでなかったかのようにこの男は落ち着いている。

「来週…」

裕貴がぼそりと答えると、内藤は吹き出した。

「おまえ、誕生日やっちゅうのに難儀やなぁ」

それから不意にその笑みが優しいものに変わる。

「まだ十九か。ほんなら肝が座っとる方や、ホンマ」

裕貴は小さくはぁ、と曖昧な返事をした。

「まぁ、大阪は今は修羅場やけどな、俺とおったら心配あらへんから」

そう言うと内藤は、悪戯っぽく裕貴の顔を覗き込んだ。

「ハタチになれるとええね、裕貴くん」

――ハタチになれるといい

それを聞いて、裕貴は一瞬、凍りついたが、すぐにからかわれていると分かった。思わず、目の前でにやついている男の顔を睨みつける。

つまりその前に死ぬかもしれない、ということだ。

しかし、裕貴に睨みつけられても、内藤は面白がるようにこちらを見つめている。裕貴はなにも言わずに黙ってアイスコーヒーを飲んだ。

「心配せんでも大丈夫やで」

内藤はにっこりと微笑んだ。

あんなもん、 、 、 、 、そのうち慣れるわ」

内藤はそこで身を乗り出した、声を低くした。

「――慣れへんかったら、自分がられるだけやからな」

――殺らなければ、殺られる

今度は冗談などではなかった。

この男の言うとおりなのだろう、多分。

今時の極道が、常日頃からこんな荒っぽいことばかりしているわけではないことは裕貴だって知っているが、それでもいざというときに命を懸けなければいけない時があることも分かっている――頭では――それがこんなに早くに来るとは思ってもみなかったが、裕貴は不思議と怖いとは思っていなかった。

怖いというより――現実感が薄かったことに驚いた。目の前で人が死んだことよりも、死体が作り物めいて見えたことに身体中が総毛立った。

怖くはない――死ぬことなんて――

「それにしてもうまいこといったわ」

内藤の明るい声に、裕貴は顔をあげた。

パナマ帽を脱いで隣の椅子に置いた男は、満足気ににこにこしていた。

「あいつらは篠田さんトコの特攻や。散々、横尾組コッチの兵隊、喰い荒らされたからな。あいつらがいんでもうたら、少しは楽になるやろ」

篠田――横尾親分と山内組の跡目を争っている敵側の大将だ。たしかもともと、山内組の若頭だと聞いていた。

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第一章『 俺たちに明日はない』 8

大阪 Baby Blues



言われたとおりに内藤を先導して、裕貴が来たのはサウナ室の前だった。刺青さえも禁止されない小さな個人経営の風呂屋ではあるが、顧客のニーズになんとか応えようとして設えられたサウナだろう。

裕貴が振り返ると、入れ、というように内藤が顎をあげた。

ゆっくりとサウナ室の木製のドアを押す。蒸し暑い室内からは話し声も聞こえず、換気の機械音だけが静かに渦巻いていた。

中には三人の男たちが座っていた。こちらを向いた体の前面にもその背中から繋がる刺青が見え、ひとめでヤクザ者たちと分かる。

ドアが開くと、男たちはぎろりとこちらに目を向けた。

こいつら――誰なんだ…――

そう思った瞬間、裕貴の脇からだしぬけにパンパンと乾いた音が鳴った。目の前の男たちの体の表面から、紅い液体が飛び散る。男たちは声も立てずに木製ベンチから崩れ落ちた。

サウナ室の中は、裕貴が足を踏み入れたときと何も変わらない換気音だけがまだ響いている。

「…とまぁ、風呂屋では皆、油断してんねんよ」

その静寂の中で唐突に、裕貴の真後ろから内藤の含み笑いの声が聞こえた。

「あ…――」

喉が張り付いたようになって、裕貴は声が出なかった。

殴り合いなら散々、やった。ナイフで人を刺したことも、鉄パイプで殴ったこともある。それでもこれまで裕貴が相手にしてきた者たちは、呻き、血を流しながらも、生きていた。泣きながら、勘弁してくれと言える、生きた人間だった。

しかし、今、目の前に倒れた男たちに、その生命はなかった。

つい数秒前に、裕貴をぎろりと睨みあげた目は力なく虚空を見つめ、その体は血塗れのまま、床に倒れ伏している。静止画のように動かない景色の中で、流れ落ちる血だけが、徐々にその文様を変化させていた。

「のんびりしとる場合ちゃうぞ。行くで」

内藤に腕を引っ張られて、裕貴はたたらを踏んでその場を離れた。

手早く服を着なおして、ふたりは風呂屋の外に出た。サウナ室で硬直したように動かなかった体が一度動き出した後は、もうその場を早く離れたいという思いでいっぱいになった。

警察に捕まるとか、人に見つかったらとか、そういうことではなく、ただもうあの力無く空を見つめる瞳から離れたかったのだ。

しかし、外に出ると、内藤は身振りでそこで待ってろ、と裕貴に示した。どうしてと尋ねる間もなく、内藤は一台の路上駐車の車に近づき、窓ガラスをノックした。

スモークが貼られたパワーウィンドウが下降し、中から強面の男が顔を出した、と思った瞬間、そこに向かって内藤が拳銃を撃った。

真昼間の通りだからか、手にはさっき着ずにおいたアロハシャツが巻かれており、発射音は消されていた。

フロントガラスを通して、車の中でふたりの男ががっくりと頭を落とすのが見えた。また、人が死んだ。

内藤は薄く笑みを浮かべて開いたパワーウィンドウの中を覗き込んでいる。

それからくるりと踵をかえすと、そのまま裕貴の元へ足早に近づき、腕を取って歩き出した。

「はい、お疲れさーん」

大通りまで出ると内藤は裕貴の腕を離して、軽い調子でそう言った。

お疲れさん? この男は一体、なにを言っているんだ? 一体、今、なにが起きたのだ?

裕貴は呆然としたまま、パナマ帽の男の顔を見た。

「――なんや、おまえ、人をロクったん見るの、初めてか?」

内藤はきょとんとした顔を向けた。

「顔色、真っ青やで…しゃあないなぁ」

内藤は裕貴の頰を軽く叩くと、脇の喫茶店を指差した。

「ちょっと一服しよか。暑いし、喉も乾いたやろ」

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第一章『 俺たちに明日はない』 7

大阪 Baby Blues

**********

「仲良しなんやね」

古ぼけたビルの階段を降りながら、内藤が言った。

「え?」

「さっきのイケメンのお兄ちゃんやん」

事務所を去り際に一臣が言ったことが聞こえたのだろう。

ヤクザが死ぬな、などヌルいことを言い合っていたなんて、下手をしたらこの男にヤキを入れられかも、と裕貴は内心舌打ちをした。

「…ガキの頃からのツレなんで」

「大卒やって? カッコええなぁ」

しかし、内藤 啓介は根性の決まらない若造の戯言など気にもしていないような様子だった。

「今はゴロツキも頭の時代やからなー。いくら腕っ節が強くても、それだけやったら金になれへんしな」

そう言うと内藤 啓介はけらけらと笑った。

ビルの外に出ると、夏の日射しがまともにふたりを照りつけた。アスファルトの路面に濃い影が落ちる。

「今日も暑いなぁ」

内藤が目深に被ったパナマ帽の下から空を見上げた。

「――喧嘩なんて痛みに鈍感なヤツの勝ちやねん」

歩きながら内藤は軽い調子で続けた。

「どうせ殺し合いなんてよぉせぇへんねんから、痛いのがイヤやってビビったヤツが負ける。そんだけや」

内藤は横を歩く裕貴に人懐こそうな笑みを向けた。

「実際、殺し合いになってもうたら殴り合ってる場合ちゃうからなぁ。撃ち合いやもん」

内藤はにやりと笑った。

「あの…どこ行くんですか?」

どうでもいいような世間話をしながらも、内藤の足取りは目的地を持っているようだった。

裕貴の問いかけに、内藤はにっこり笑った。

「裕貴ちゃん、体はキレイ?」

「はぁ?」

内藤がやって来たのは、個人経営らしい風呂屋だった。なんのことはない、内藤は裕貴の刺青の有無を尋ねていたのだ。

風呂屋の前の道路は、何台もの路上駐車の車や自転車で埋め尽くされていて、いかにも下町といった風情だった。

「ここは刺青スミ禁止ちゃうねんけど、刺青がはいってもうてると、もうそれだけでヤクザ丸出しになってまうからなぁ」

内藤はそうボヤきながら、裕貴の頭に手を伸ばし、金色に染めた髪を掻き回した。

「ホンマはこれかてアカンわ。ヤンキーやん…とはいえ、俺もサラリーマンに見えるっちゅうわけやないからな…」

内藤は上目遣いに自分の頭に目を向けた。長髪というほどでもないが、内藤の髪は全体的に長めで、襟足も首を覆うほどだ。こんな髪型のサラリーマンはいないだろう。

「ま、トビの兄ちゃんたちってことでどうや?」

内藤は勝手に納得したように頷いてから裕貴を連れて、風呂屋の古臭い暖簾をくぐった。

中途半端な昼の時間だからなのか、風呂屋の中に客の姿はほとんど見受けられなかった。鍵のないロッカーもちらほらとしか見当たらない。ふたりは人目につきづらい角のロッカーの前を陣取った。

脱衣所で服を脱いでいると、内藤が裕貴をちらりと見た。

「お、さすが若者。ボクサーパンツやな、よしよし…」

内藤が妙に嬉しそうに笑うので、服を脱ぎ掛けた裕貴はそのまま固まった。

「な…なんすか…?」

いきなり風呂屋に連れてこられた意味もよく分からないし、半裸の自分の下着を見てにやつかれているのも不気味だ。

「そのパンツ脱ぎなや」

「え?」

「その上にタオル巻け」

意図は不明だが、言われたとおりに裕貴が下着を脱がずにその上にタオルを巻くと、いきなり後ろからパンツのウエストになにかが突っ込まれた。

「ひゃっ」

びっくりして飛び上がった裕貴の口を内藤が塞ぐ。

「アホ。デカい声出すな」

なにか堅いものが腰の後ろに挟まっている。手探りでそれを確かめて、裕貴ははっと内藤を見た。

「これ…――拳銃…っ」

「しぃっ」

内藤が唇の上で人差し指を立ててみせた。

「風呂屋は皆、裸で丸腰やからな。どいつもこいつも気ぃ抜けてんねん。せやけど、そんなもん前に隠していったら、俺、バケモノやんけ」

内藤はけけっと品のない笑いを漏らした。

「な、なんなんすか…」

「いいから、俺の前を歩け」

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第一章『 俺たちに明日はない』 6

大阪 Baby Blues



「あまり無理なことせんときや――内藤ないとう

内藤と呼ばれたアロハの男は肩を竦めて、へぇへぇと戯けた返事をしてみせた。

渡会組若頭は小さく溜息を吐くと、裕貴に向かって顎をしゃくってみせた。

「ほんならおまえはこいつのとこや」

「はい」

裕貴が堅い表情で頷いた。

「――あ…」

一臣は思わず声をあげてしまった。

ここでバラバラにされてしまうのか――そうなればもう自分は裕貴を守ることも、盾になることもできない――

「どうした?」

橋本が怪訝な表情を向けた。

しかし、ヨカタ*7の三下の腕貸しである自分たちが、横尾方幹部の決定に口を挟めるわけがない。

一臣は、唇を噛んで、裕貴を見た。

「――なんでもないです。よろしくお願いします」

一臣を見たまま、裕貴が代わりに答えた。

橋本は頷くと、すぐに他の組員との話し合いに戻っていった。のんびりしている暇はないようだ。

「おまえ、名前は?」

アロハの男――内藤が立ち上がって裕貴に向かった。

「橘です」

「下の名前はなんちゅうねん」

内藤はにこにこしながら尋ねる。

「え…、裕貴…ですけど…」

「ほんなら裕貴って呼ぼな。俺は内藤 啓介けいすけや。俺のことも啓介って呼んでや。仲良ぉしよな」

「はぁ…」

跡目争いで戦争だと言っていた割に、内藤 啓介と名乗ったアロハシャツの男は暢気な様子で裕貴に笑いかけた。

裕貴の方も拍子抜けしたような声を出す。

「なら行きましょか、裕貴ちゃん?」

アロハシャツの内藤 啓介は裕貴を伴って事務所のドアへと歩き出した。

「おい、内藤。ドウグ*8は揃ってんのか?」

後ろから他の組員の声が掛かった。

「足らんくなったら若いの寄越しますわ」

内藤 啓介は振り向きもせず、気安い調子で片手を挙げた。

「裕貴――」

部屋を出て行く裕貴に、一臣は声を掛けた。

「死ぬなよ――」

こんなこと言ってはいけないと分かってはいる。自分たちはヤクザになったのだ。盃を交わした親のために死ぬことを恐れることのないヤクザに――

けれど言わずにはいられなかった。ここで裕貴とは離ればなれになってしまう。一緒に死ぬのなら怖くはない――でも自分の目の届かない場所で裕貴を失うことは恐ろしかった。

しかし裕貴はふっと笑った。いつもの――初めて出会ったときから変わらない――器用に唇の片端だけをあげたあの皮肉な笑み――

「――おまえもな、一臣」

内藤 啓介と裕貴が出て行って、ドアがゆっくりと閉じた。





*7…余所者。
*8…武器。

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第一章『 俺たちに明日はない』 5

大阪 Baby Blues



「――覚悟しとけよ、一臣。大阪はマジの戦争らしいぜ」

そう言うと、裕貴はにやにやと笑った。

戦争だ――と言いながら、その状況を面白がっている裕貴の心臓には飽きれるが、こいつはこういう奴だ。昔から変わらない。ギリギリの命のやりとりが楽しくて仕方がない狂気――

ふたりに盃を投げ与え、大阪に送り込んだ秋津組の島村というゴロツキがなんだかんだと言っていたが、要は跡目争いの腕貸しだ。しかも島村のあの様子では、大分、負けが込んだ戦のようだ。

犬死必至の捨て駒――裕貴と一臣を慌てて組員に仕立て上げたのはそんなところだろう。

ふたりを迎え入れる大阪の陣営だって、名前も知れない若造のふたりなど、鉄砲玉以下の扱いをしてくるに決まっている。

裕貴についていくと決めたから、たとえ死んでも文句はないが、裕貴の命だけは守りたい――一臣は女から巻き上げた車を運転しながら、そっと小さく溜息を吐いた。

裕貴たちが行けと指定されたのは横尾組本部ではなく、横尾方についている渡会わたらい組の事務所だった。

ふたりが、大阪市の裏どおりにある小さなビルの二階の事務所のドアを開けると、中にいた数人の男たちが振り返った。

室内は殺風景で、いかにも暴力団の事務所といった雰囲気だ。正面の壁には組の代紋が掲げられ、その前には事務机が置かれている。空いたスペースにはソファセットが設えられていた。

頭を下げながら入室した裕貴と一臣が、関東音羽会秋津組を名乗ると、男のひとりが軽く顎をあげてよこした。

「遠いところをご苦労やったな。沖賀の親分さんには感謝してるで」

男は渡会組若頭だと名乗った。

「渡会の親爺は横尾親分のとこや。おまえらはこっちで動いてもらうからな」

渡会組若頭が奥の事務机の脇に立っていた男に小さく頷いてみせると、男はこちらにやって来た。

「笈川ってのはどっちや?」

「俺です」

一臣が頭を下げると、男はにやりと笑った。

「おまえ、大学出やって?」

「はい」

「ほんなら、おまえは俺んとこやな。ウチは作戦本部や。金勘定ができるヤツが足りへんからな」

男は沼田組の者だと名乗った。どうやら横尾側は組の垣根を越えて、共同で動いているらしい。

「橋本さん、こっちの金髪、どうします?」

沼田組の男が渡会組若頭を振り返って問うと、ソファに座っていたアロハシャツ姿の男が、被っていたパナマ帽を軽く持ち上げて声をあげた。

「そいつ、俺んとこに頼んますわ。兵隊、足らへんので」

それを聞いた橋本が眉を顰めた。

「おまえんとこにはこの間も若いのを送ってやったばっかりやないか」

するとアロハの男は困ったような顔で笑った。

「そらしゃあないですわ。橋本さん、こりゃチンケなマチガイ*6ちゃいますやん。もう戦争でっせ。俺ら下っ端から死ぬのが道理ですやろ」

アロハの男の言葉に、一臣はぎくりとした。

下っ端から死んで行く――やはりそういう状況なのだ。

どうやらこのアロハの男は、抗争の最前線を担っているようだ。こんな男の下で動かされる裕貴の身が途端に心配になる。




*6…抗争。喧嘩。

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第一章『 俺たちに明日はない』 4

大阪 Baby Blues



「おまえ、この車どうしたんだよ?」

橘 裕貴は、黒いヴォルクスワーゲンのシートの上でもぞもぞと身動きした。

「ゆりかに借りた」

横浜から大阪へ向かう車内でハンドルを握る笈川おいかわ 一臣かずおみは道路から注意を逸らさずに答えた。

「あのソープの姉ちゃんか」

助手席に座った裕貴は金色に染めた髪の後ろで両手を組んで、けけっと笑った。

「ったく、おまえはいいよなー。学費まで女に出させてよぉ。今住んでるマンションもゆりかのだろ?」

「いや…今は違うな――」

車線変更をしようと隣のレーンに気をとられて、笈川 一臣は上の空で答えた。

「てめぇ、ヤクザなんてやめて竿師*3になりやがれ」

裕貴は子どものようにべーっと舌を出して悪態を吐いた。

橘 裕貴は十九歳、笈川 一臣は大学を卒業したばかりの二十二歳だった。

ふたりが出会ったのは五年前。まだ裕貴が中学生、一臣は高校生だった。地元では名の売れた不良少年だった裕貴が、巨大集団の少年ヤクザグループと揉めた挙句、本物のヤクザ組織まで相手取って派手にやらかした大騒動に、ごく普通の高校生だった一臣は、奇特にも自ら首を突っ込んだ。

それから一臣は過保護だった親ともあっという間に疎遠になり、大学の学費も生活費もその時々の女に頼ってきた。

ふたりはヤクザ志願の少年たちだった。女の懐をこく*4のもヤクザの修行のうちだから、ふたりには女に生活の面倒を見てもらうことに罪悪感などまったくない。自覚のあるろくでなしである。

「おまえは金にならないガキのケツばっかり追いかけてるからだ」

一臣がしらっと言うと、裕貴は不貞腐れて頰を膨らませた。

「金溜め込んでる風俗女がそう簡単に財布の紐、緩めるかよ。あいつら、散々、痛い目見てるから警戒してるもんな」

そんなものは腕次第だという意味を込めて、一臣はふんと小さく鼻を鳴らした。

「――これで良かったのか?」

不意に真顔になって問いかけた一臣を、裕貴はちらりと横目で見た。

「なにが?」

「秋津さんの盃…受けて…」

そもそもヤクザなど外道の集まりだが、その中でも秋津が下の下の極道であることを、一臣は知っていた。もちろん裕貴も承知している筈だ。一臣には、裕貴がそんな男の盃を受けたことが意外だったのだ。

「秋津は外道だけど、外道の親分なら首取るのも簡単だろ? まずはカンバン*5背負わねぇとな」

笈川は黙ったままハンドルを握っていた。

「――おまえはイヤだったら、一緒に盃貰う必要なかったんだぜ?」

「いや――」

裕貴の言い分に、一臣は間髪入れずに首を横に振った。

この金髪の少年に出会ったあの日から、一臣はこいつと死ぬまで共に歩むと誓ったのだ。なにがあっても橘 裕貴についていくと。

だからそういう意味では、一臣に迷いはなかった。裕貴がそれでいいのなら、一臣にも文句はない。

「おまえがいいならいいんだ。俺はおまえについていくって決めてるから」

そう言われた裕貴は少し驚いたように目を見開いて一臣を見つめた。そんな顔をすると、十九歳どころか十五歳くらいに見えてしまう。

「――おまえってホント、変わってんな…」

一臣が高校を卒業して家を出たと言ったときも、裕貴は同じように目を見張ってそう言った。

小さいながらも医院を経営する医者の父親と、子どもを溺愛する専業主婦の母親。一臣の家庭環境は端から見ても、文句のつけようのないものだった。そのままおとなしく家で暮らし、大学に通っていれば、学費も親がかりで平穏に生きていかれる筈だった。一臣の人生のレールは成功に向かって敷かれていた筈だった。

それなのに一臣は、そのすべてを捨てて家を出た。どこに行くとも告げずに、ふいと出てきてしまった。

正式な組員ではないとはいえ、すでに暴力団組織に出入りしていた裕貴と共に行動するのに、実家にいては親の迷惑になるとも思ったし、なによりもう親の干渉はうんざりだったから。

裕貴に親はいない。正確には母親はいるらしいが、裕貴が幼い頃から男を作っては家出を繰り返していた母親は、子どもに関心がなかった。一臣が知り合った頃も、母親が家を出て行ったと言っていたことがある。それから帰ってきたのか来なかったのか――裕貴もまた家に帰ったり帰らなかったりの子どもだった。

気がつけば、家を出て一臣が転がり込んだ女の家に泊まりに来たり、出入りしていたヤクザの哥兄あにぃたちの寝ぐらを転々としていたりを繰り返し、いつの間にか裕貴の口から親の話は聞かなくなった。一臣も尋ねたことはない。

本来ならふたりの人生は交わる筈のないものだった。

親に見捨てられた子どもと、親に溺愛された子ども――

それでもふたりは出会ってしまった。

そして一臣は、もう裕貴のいない世界には戻らないと決めた。裕貴のいる世界で、裕貴のために生きて行く――親ですら明日、自分を捨てて行くかもしれない世界で生きてきた裕貴の、変わらない明日になると誓ったのだ。

だからそれがたとえどこであっても、一臣は裕貴の決めた行き先についていく、ということだけに否はなかった。



*3…性的関係を通して女性から金品を貢がせる仕事のプロ。
*4…金銭を巻き上げる行為。
*5…正式な組員になること。

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第一章『 俺たちに明日はない』 3

大阪 Baby Blues



葛西はそう言うと、ちらりと新城を見た。

「おまえ、なんであのガキに盃くれてやらなかったんだ? おまえのところで面倒見てやってりゃ、こんなことにはならなかっただろ――あいつ、死ぬぜ?」

「あいつはまだ十九だぞ。森組ウチは少年院じゃねぇんだ」

新城はそう言ってグラスの酒を啜った。

本音を言えば、新城はたしかにあの子ども――橘 裕貴を見込んでいた。だからこそ、裕貴に直盃を与えたくなかった。

裕貴を舎弟にすることは簡単だ。しかしそれをしてしまえばあの少年は、新城の下から出られなくなってしまう。

新城にとって渡世は、ただ生きるという場所ではなかった。金にも女にもそれほどの興味はない。それ以上に新城を惹きつけているのは、自分の才覚と能力でどこまで高みに登れるか、という挑戦に他ならなかった。

極道の世界は面白い。堅気の社会は頭の回る奴が出世する。しかし、この世界は頭だけでは駄目だ。腕っ節も必要だし、度胸も必要だ。男としての押し出しも良くなければ駄目だし、騙し討ちなど当たり前だから人を見る目も重要である。

この世界に落ちてくるのは、もうここ以外にどこにも行く場所がない者が大半だ。家にも帰れず、学校にも行けず、街の片隅にたむろしているうちにずるずるとこの世界に引き摺り込まれていく。

そうでなければ、表向きは羽振りの良さそうな哥兄あにぃたちの外見にたぶらかされて、自分もあんな風にいい車に乗りたい、大きな顔で街を歩いてみたい、あんないい女を抱きたい――そんな浅はかな憧れに惑わされた者たち――

新城はそのどちらでもなかった。新城は自分の力のすべてを試せる場所として、自らの意志でこの世界に飛び込んんだ。どこまで自分は這い上がれるのだろうか。俺は天辺を獲れるのか――

だから、新城 彰にとって、周囲の人間というのはすべて自分の駒だ。利用価値がある者、この先、役に立つ者――橘 裕貴はその価値があるのではないか、と新城は見ていた。

ただし――使える人間すべてを自分の手の内に収めてしまってはなにもならない。舎弟はその盃を交わした親兄弟に忠誠を誓って、その手足となって働くものだ。自分たちのおとこを懸けて、それに命を誓うのだから。もちろん薄汚い例外だらけの世界だが、それも結局自分たちの人を見る目に懸かっている。

新城は橘 裕貴を自分の手の外側で、 、 、 、 、 、 、 、、自分に忠誠を誓う男にしたいと考えていた。

まだ十九歳だ――どう化けるかは分からない。けれど新城は、橘 裕貴の中になにかを見ていた。

十四歳のほんのガキの頃から、あいつは人とは違うものをその目に映していた――

自分の人を見る目がどこまで通用するか――

これはひとつの賭けだ。この賭けもまた、新城の力を試すことになる。

「そんなに言うなら、おまえの舎弟にすればいい」

新城がにやりと笑うと、葛西はふんと鼻を鳴らした。

「生憎、俺はてめぇの命を賭けて面白ぇことをやるのが楽しいんでね。おまえと違って他人の命を駒に遊ぶ趣味はねぇよ」

それを聞いて新城は大笑いした。

葛西もまた、他のゴロツキとは違った生きがいを渡世に見出している男だ。学校の勉強はやってもやらなくても常に優秀。暇つぶしに悪さばかりを繰り返し、高校を三回も退学になっても、国立大学にあっさり合格してしまう。腕っ節も強く、押し出しもいい。なにをやっても人並み以上のこの男もまた、堅気の世界に飽きてしまい、こっちの世界で命のやりとりをすることを楽しんでいる。

あのガキ――橘 裕貴は渡世ここになにを求めているのだろうか――

一時のスリルか、金か、女か――それとも――

「――あいつはそう簡単に死んだりしないさ」

新城はそう言って煙草に火を点けた。

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第一章『 俺たちに明日はない』 2

大阪 Baby Blues



しかし、実際、現場の組員たちにとっては、これはなかなか厄介な問題となった。

阪神山内組元若頭の篠田の反旗は、当初、誰もが愚挙と捉えていた。闘病の長かった先代の生前から、横尾の跡目は決まっていたし、幹部たちもそれに叛意を見せた者はいなかった。横尾は渡世も長く、人望も篤い。多少、昔気質のヤクザではあるが、若い衆には集金力のある経済ヤクザも抱えており、関西の長い安定を考えれば横尾以外の選択肢などなかった筈だった。

しかし真島の死後、牙を剥いた元若頭は、その一見、安泰に見えた状況の裏で、着々と自分の足場を築いていた。真島の女房を取り込み、気がつけば山内組の下部組織は真っ二つに割れ、抗争は修羅場と化していた。

完全に足を掬われたかたちとなった横尾は、あっという間に劣勢に追いやられた。もともと、やってやろうと思っていた側と、まさかと思っていた側である。関西の勢力争いの様子を窺っていた関東音羽会も、手を貸そうという決断をする猶予もなく、あれよあれよという間に、現在いまに至ってしまったわけである。

大阪抗争は、横尾に分が悪い状況だ。ここに赴くというのは、行く者にとっては命懸けになる。とはいえ、音羽会会長直々のお達しであり、また会長の長きに渡る兄弟分の一大事に、下部組織としてはあからさまな捨て駒を送りつけるわけにもいかない。

音羽会に属する組織たちはなかなか厳しい選択を迫られているのだ。

森組ウチは鶴田さんが行くらしい」

「鶴田さん?」

新城が答えると、葛西は問うように片眉をあげた。

鶴田は森組長とのつきあいの長い古参ヤクザだった。森が組を構える前からの仲間で、組長となった後も、そのまま森組構成員となった。

しかし、どうも極道としての目が出ないタイプらしい。もう五十代も半ばを過ぎているのに親分どころか役付にもなれない。渡世は長いが出世はできないという典型のヤクザで、森組長もその手腕に期待してというより、むしろ長い渡世の最後の居場所のつもりで組に置いているゴロツキである。

「ああ。鶴田さんが志願したんだ。将来のある若いのを送り込んで、犬死させることねぇってよ。自分なら誰にも迷惑かけないし、むしろ花道になるからってな」

当初、鶴田の申し出に組長の森は首を縦に振らなかった。確かに鶴田は役に立つ小利口なヤクザとは言えない。それでも長年、自分に漢を懸けてくれたヤクザだ。その最後の最後にいばら道を進ませるのは忍びなかったのだろう。

だが、同時に鶴田の侠気おとこぎも充分に理解していた森は、結局最後にはその申し入れを有り難く受け入れた。

鶴田は、役はつかなくとも渡世も充分長く、組長である森との関係も深い。森組の代紋を背負って行くのが鶴田なら、森の顔は立つ。名代として大阪に腕貸しに行くのにふさわしいことを、誰よりも鶴田自身が良く分かっているのだ。鶴田にとっては、これが親分への最後の恩返しとなるのだろう。

「もちろん鶴田さんひとりで行くわけじゃない。若いのも何人かついていくことにはなってる」

「ふん…」

葛西も鶴田の事情は知っているからだろう。この決定を聞いても特に感慨を面に出すことはなかったが、代わりになにかを思い出したように言った。

「そういや… おまえが目かけてるガキ…ほら頭、まっキンキンにしてるヤツ。あいつ、名前なんだったかな?」

「ああ…、裕貴ゆうきか?」

裕貴は新城が時々、小遣いなどをやって使いっ走りに使っているヤクザ志願の少年だ。ほんの十二、三歳の頃から、裕貴は地元の警察署の常連のいわゆる不良少年だった。とてもまっとうな道に戻れるような少年ではないが、渡世を歩むのならば、なかなか見所があると新城は目をつけていた。

「そうそう、裕貴。あいつ、秋津あきつ組の盃を受けたらしいぜ」

「秋津さんの?」

新城が驚いて顔をあげると、葛西がグラスの酒を飲んで頷いた。

秋津組は新城たちが属する森組に続く横浜の組織だが、その成長は半ば棚ぼた的要素が大きかった。

もともと収入アガリの大きい横浜は、関東一体を統べる音羽会の中でも、いくつもの組がシノギを削る巨大都市だ。中でも羽振りが良く、縄張りシマが広域だったのが、森組と山本一家だった。

山本一家は数年前に組長以下幹部が麻薬取締法違反で逮捕され、そのまま解散に至った。その解散劇の裏で糸を引いていたのが、当時、若干十四歳のたちばな 裕貴だったことを新城は知っていた。*2影で裕貴に手を貸したのが、新城自身だったからだ。

山本一家の解散後、その縄張りシマの後をどうするかという段になって、森組と分け合ったのが秋津組だった。森組と張る組格だった山本一家のシマは大きく、そのすべてを森組が受け継ぐのは難しかった。それでは森組が強大化しすぎてしまい、他の組との釣り合いも悪いし、なにより親分衆が納得しない。同門とはいえ、そこは互いにシノギを削るヤクザ者同士だ。他人が得することなど、死んでも認めたくない。結局、山本一家の元縄張りは、その下に続いていた秋津組と分け合う形に落ち着いた。もちろん組としては下目になる秋津の取り分の方が少なかったのだが。

この一件を事前に察知し、裕貴に情報を流し、山本一家解散に裏で一役買っていた新城は、森組での地位が磐石のものとなった。(実際、裏で暗躍する以外はなかった。山本一家だって、同門組織なのだから、表だって潰しにかかっては大問題になってしまっただろう)

秋津組にしてみれば、なにもしていないのに突然、高目の組が解散し、その縄張りの一部が転がり込んできたようなものだ。

「秋津さんのところは大阪に島村を行かせるつもりだったらしいが、島村の野郎、それをてめぇの若いのに押しつけようとしたんだよ」

秋津組の島村もまた、森組の鶴田同様、いわゆる居食いのお荷物ヤクザだ。ただ鶴田と決定的に違うのは、そこに仁義も忠誠もなく、どうやら島村は親分である秋津の弱味を握っていて、それで自分の首を繋いでいるようなさもしい男だともっぱらの噂である。

秋津は大阪に送る腕貸しに島村を選んで、そのまま始末をつけてしまおうと目論んだようだが、島津は島津でそんな卑しい男だから、当然、命汚なさも天下一品だったようだ。親分の汚い絵図を見切って、それをさらに自分の下になすってしまおうとしたのだろう。

「だけど島村も人望ねぇからな。代わりに死んでくれるような手下てかなんかいやしねぇ。それでどこの盃も受けねぇでフラフラしてたチンピラの裕貴に目をつけたみたいだぜ。即席で盃くれてやって、秋津の名代、肩代わりさせるつもりなんだろ」



*2…本ブログ『Mid Night ヨコハマ』参照。

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第一章『 俺たちに明日はない』 1

大阪 Baby Blues



バブルが弾けた後、それでも生き意地の汚い下等生物のごとくじわじわと息を吹き返しつつある観光都市横浜でも、夜の世界はかつての隆盛の影もない。夜の繁華街には、消えたまま二度と明かりの灯されることのない看板がぽつぽつと見受けられた。それでもなんとか客をかき集めている店もある。淘汰されていくネオンサインの中で、まだその明るさを維持しているクラブのいくつかは、かろうじてその足場を確保していた。

「あいかわらず景気が良さそうだな」

その声に新城しんじょう あきらが目をあげると、兄弟分の葛西かさい 哲也てつやがポケットに手を入れて、にやついた顔で立っていた。

新城 彰と葛西 哲也は、ともに広域指定暴力団、関東音羽おとわ会森組の幹部組員で、五分盃の兄弟分でもある。森組は長く横浜を縄張りシマにしている組織だ。

葛西はいつものように薄笑いを貼りつけた顔のまま、断りも入れずに新城の席に座った。テーブルについていた夜の女たちが、葛西のためにスペースを空けるように身を寄せた。

「聞いたぜ、今から大阪に人をやるって?」

葛西の問いかけに新城は肩を竦めた。

去年、大阪を統べていた阪神はんしん山内やまうち組の大親分真島まじまが肝臓を患って死んだ。大体、どこの権力争いでも同じことだが、頭を抑える者がいたときはうまくいっていたことでも、その抑えがなくなると途端に我欲と闘争本能が剥き出しになるものだ。

大阪も例外ではなかった。

真島が死んだ直後は、遺言どおりに、直盃を受けて山内組傘下で組を任されていた横尾よこお組組長が跡目と誰もが納得しているかのように見えた。しかし、真島の葬式ギリゴトがつつがなく終了し、日が経つにつれ、大阪は徐々にきな臭くなっていった。

横尾組長の山内組組長襲名披露の案内状チラシがなかなか届かない、と思っていたところへ大阪での抗争勃発が知らされた。

横尾の襲名に横槍を入れたのは、真島の片腕であった若頭の篠田しのだだった。真島存命中は、たとえ白を黒というようなときでもその命令に背いたことなどなかった忠義の若頭が今や反旗を翻し、大阪は暴力団の大抗争地帯と化していた。

「しかも篠田さんの後ろには真島親分のあねさんがついてるらしいじゃねぇかよ」

元若頭の篠田が、親分真島の遺言に逆らってまで、己の出世欲、支配欲を剥き出しにしたのは、裏で真島の女房が発破をかけている、ともっぱらの噂だった。真島が生きているときからできていたのかいないのか定かではないが、今では篠田の女房気取りで争いを煽っているらしい。

そんな生臭い裏話も、葛西 哲也の手にかかっては笑い話になってしまう。

葛西はほんの子どもの頃から地元の少年課の顔だったほどの筋金入りの悪だった。少年院入院を含めた素行不良を理由に、高校を三回も退学になっているにも関わらず、某国立大卒という肩書きを持つインテリヤクザだ。

企業舎弟だの、経済マフィアだのが跋扈しているご時世には最早、珍しくもない存在だが、葛西の場合その経歴を微塵も感じさせないヤクザ丸出しの風態だ。

胸元に派手な喜平のネックレスをぶらさげ、誰も見間違いようのないヤクザの顔をして歩いている――ただし、小指はちゃんとついている。

これは別に葛西が、ヤクザとして下手を打ったことのない優秀な極道だからではない。音羽会会長沖賀おきが 龍一郎りゅういちろう――新城や葛西の大親分が、指詰めを嫌っているのだ。

ゴルフが趣味の沖賀は、小指がなくなるとクラブを握りづらくなって不便だから、などとうそぶいているが、本当のところは違う。変なところで昔気質の沖賀は、指は盃を交わした子の不始末の責任を取るために親が詰めるもので、本人の失敗を償うために詰めるものではない、という信念を持っているのだ。

だから、音羽会傘下の渡世人の中には、不出来な舎弟の落とし前として指を詰めた者もまったくいないわけではないのだが、沖賀自身はそれを積極的に推奨しない。それはもうひとつ理由がある。

いくら渡世だ、おとこを売る稼業だ、と力んでみても、極道が浮き沈みの激しい商売であることには変わりはない。極道社会は実力主義だから、長く水に浸かっていれば出世が叶う、というものでもない。

それになにより、こんな稼業は世間様に胸を張って威張れるような生き方ではけっしてない。水に合わない、目が出ない、いや子どもができたからこれを機にまっとうになりたい、いろいろな理由で足を洗いたいという者はどうしてもいる。親分になるぐらいの器を持った男たちはそういう理屈をよく分かっているから、実際にはヤクザ稼業から足を洗いたいという者を無理矢理、引き止めたりすることは滅多にない。

ただそんな時、小指がない、というのは堅気に戻るのに大きな障害になってしまう。刺青ならば服を脱がなきゃいいんだし、目つきだって、堅気をやっていればそのうち堅気の目つきになってくるが、一度、詰めた指は生えてはこないし、隠すことも難しい。

だから音羽会では自然と指詰めの機会が減り、小指のない極道は少ない。

組で金庫番を担当している葛西などは、小指なんて持って来られたって肉屋だって買い取ってくれない、落とし前なら現金を持ってこい、などと身も蓋もないことを言っている。

「――で? 森組ウチは誰を大阪にやるって?」

小指はついているが、それ以外はヤクザにしか見えない葛西が煙草を咥えながら言った。隣のホステスがすぐにライターの火をさし向ける。

大阪の跡目争いの一方の極である横尾組組長は、音羽会会長の沖賀の古い知り合いで、うんと若い頃に兄弟を誓い合った仲だった。お互い、関東と関西と、おとこを売る場所は違えど、その絆は今も続いている。ふたりとも人を見る目は確かだったようで、それぞれが順当に親分として組を預かるようになり、沖賀に続き、横尾も大阪を統べる長になるかと思われた矢先の抗争勃発だった。

先代の女房が敵に寝返っている状況で横尾の旗色は悪く、これまで様子を窺っていた沖賀もいよいよ兄弟の加勢に乗り出すことに決めた。その腕貸し*1に音羽会の主要な組織から、それぞれ構成員が名乗りをあげることになっている。



*1…抗争や喧嘩沙汰に助っ人に行く者。

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大阪 Baby Blues 【あらすじ & 登場人物】

大阪 Baby Blues

大阪 Baby Blues



たちばな 裕貴ゆうき、十九歳、ヤクザ志願――

ヤクザに憧れた裕貴は捨て駒と知りながら秋津組の盃を受けて、笈川 一臣とともに大阪抗争の真っ只中へ腕貸しへ行く。
ふたりはそれぞれの能力で別々の哥兄の下へと送り出された。

そして裕貴は運命の男、内藤 啓介に出会った――

裕貴の過去を握る男、内藤 啓介との出会いの物語。
男たちのひと夏の熱い戦いと裏切り――そして忘れることのできない恋のはじまり――

内藤x橘
笈川x橘
(裏アリ。各章ではありません(笑))


【登場人物】


橘 裕貴(たちばな ゆうき)(19〜20)
秋津組組員。大阪抗争では横尾方で働く。

笈川 一臣(おいかわ かずおみ)(22)
秋津組組員。裕貴の親友。

内藤 啓介(ないとう けいすけ)(30)
阪神山内組組員。
大阪での裕貴の兄貴分。


[大阪]

真島(まじま)(故人)
阪神山内組先代組長。

横尾(よこお)
阪神山内組横尾組組長。
真島の遺言により時期山内組組長候補。

篠田(しのだ)
阪神山内組若頭。
真島の遺言を無視して、反旗を揚げる。

橋本(はしもと)
阪神山内組渡会組若頭。

磯村(いそむら)
阪神山内組沼田組金庫番。
一臣の大阪での世話役。
亮と手塚の兄貴。

塚原(つかはら)
阪神山内組組員。
篠田の右腕。

亮(りょう)(23)
内藤グループのリーダー
阪神山内組沼田組組員。

手塚(てづか)
内藤グループの少年。
阪神山内組沼田組組員。

小宮(こみや)(17)
同上。

相原(あいはら)(18)
同上。堅気の少年。射撃の名手。


淳子(じゅんこ)(23)
内藤 啓介の愛人。


[横浜]

新城 彰(しんじょう あきら)(35)
関東音羽会森組若頭補佐。
葛西とは兄弟分。

葛西 哲也(かさい てつや)(33)
関東音羽会森組の金庫番。
新城とは兄弟分。

森(もり)
関東音羽会森組組長。

鶴田(つるた)
関東音羽会森組組員。
大阪へ腕貸しに。

秋津(あきつ)
関東音羽会秋津組組長。
裕貴と一臣の親分。

島村(しまむら)
関東音羽会秋津組組員。
裕貴と一臣の兄貴分。

沖賀 龍一郎(おきが りゅういちろう)
関東音羽会会長。




*このお話はフィクションです。特定の人物、団体、事件などとは関係ありません(笑)

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『Killer Street』あとがき

Killer Street



やっとここまでこぎつけましたっ!!!!

…長かったです…はい…(^^;;…ストーリーが…ではなく

執筆期間がっ!!!!←長すぎw

途中、何度も挫折しかけましたが、終わって良かった〜っo(^▽^)o

書くのがイヤになったとか、そんなことでは全然、ありませんで、もうただただ、

オチがつかなかった。。。orz


テーマも重すぎたんですよね^^;

今回のテーマは『生と死』です。
人殺しも厭わないヤクザの橘さんと、そんな人間を愛してしまった一般人の慧くんの『死生観』の違いを書いてみたかったんですが、むむむむむむ難しかった。。。

そしてやっぱり最終章にエロが入れられませんでした…すみません…

でも今回は珍しい橘さんと慧くんのベタないちゃいちゃwを書けたので、それで許してくださいw
(ちゃんとベタな邪魔も入りましたw)


最後の葛西さんの語りは、短編として慧くん入院中の橘さん失踪を書こうかしら…と思ったのですが、やめましたw w w
慧くんが入院しているのに、フラリと家出をして、そこで行きずりの男の家に転がり込む…というお話を書こうかしら?と思ったのですが……

当ブログは圧倒的に慧くんが人気なんですっ!(←お声が届いている範囲で、ですがw)

鬼畜で浮気性の橘さんは人気がないっ!w(慧くんと幸せになって欲しいとは思ってもらえているようですがw)

なので…

「慧くんの入院中に浮気しまくる橘 裕貴を誰が見たいんだっ!?」



…と思いまして、葛西さんのひとり語りで、ひとりでお家でお留守番できなかったヘタレの橘さんのお話は終わったのでしたw w w


あいかわらず素直じゃない & 鬼畜ドSで糖度ゼロの橘さんですが、ちょっとは慧くんへの愛も感じていただけましたでしょうか?w

今回は本当に期間が開いてしまって、申し訳ありませんでしたっ!
それでも読んでくださっている皆さま、コメントをくださる皆さまに励まされておりますし、本当に感謝しております゚゚゚・*:.。. .。.:*・とってもとっても嬉しいですo(≧ω≦)o

まだまだ書きたいお話はありますので、どうぞ懲りずにまたいらしてくださいね♪

これからもよろしくお願いしますm(_ _)m


飛炎魔     06/01/2018

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