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Killer Street

第三章『殺人衝動』3

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「向こうの出方を待つしかないが、撒き餌は多い方がいい」

笈川が言うと、橘が鼻で笑った。

「例の先生に、直に揺さぶりをかけられねぇのが辛ぇとこだな?」

橘の言い草に、今度は笈川が顔を顰めた。

「当たり前だ。もともと、これは新城の叔父貴が持ち込んだシノギだぞ。高目*13に泥を塗るようなマネができるか」

それを聞いて、慧は思いついたことを口に出してみた。

「その先生っていう人は新城さんの知り合いなんやろ? 新城さんはなんか知っとんのとちゃうんか? 聞いてみたら…」

「ばかやろう」

「……――」

慧のセリフは、橘の罵声と、笈川の盛大な溜息にかき消された。

「高目の兄貴分にそんなモサ*14つけるようなマネしてみやがれ、殺し屋にタマ獲られる前に、橘組の看板がなくなっちまう」

橘がうんざりした表情で、咥えていた煙草のフィルターを齧った。

慧は、そんな橘を狐につままれたような気持ちで見つめた。

ヤクザの理屈とやらは、まったく良く分からない。

橘を狙う殺し屋を雇ったのは、自身の不正行為を漏らされかねないと危惧した横浜市の議員だろう、と推測をしているのは橘たちだ。

その議員が持ち込んだ土地開発の情報を利用した儲け話の直接の窓口は兄貴分の新城しんじょう あきらだが、慧は、なにも新城を責めたてろと言っているわけではない。ただ、新城はその議員と面識がある筈なのだから、なにか知っているかもしれないのだ。

それを聞いてみればいいと思っただけなのだが。

「自分が持ち込んだシノギのネタが元で、舎弟分の裕貴が命を狙われてるなんて聞けば、なんだ、責任をこっちになすりつけるつもりか、となるのがこの世界の流儀だ。新城さんはああいう人だし、まぁ裕貴との関係もあるから、そうは思わないにしても、自分の仲介で弟分が狙われたとあっちゃあ、メンツは丸潰れだ。当然、ケジメは取らなきゃいけなくなる」

それならばむしろ、願ったりではないのだろうか。

橘組とは格も規模も違う新城組が手助けをしてくれれば、その殺し屋を突き止めるのももっと容易かもしれない。

そう思った気持ちが顔に出たのか、笈川は慧の顔を見て、首を横に振った。

「そんなにうまくは行かない。その先生は、新城さんにとってはオイシイ*15サイフ*16だ。できれば長く引っ張っておきたいだろう。けど、メンツを潰されたとあっちゃ、そうはいかない。今後、エグれる懐のことは忘れて、取りたくもないケジメを取らざるをえなくなるんだ。そんなこと、新城さんが喜ぶわけないだろう」

「こんなことで兄貴分に損をガメさせたなんてことになったら、こっちのおとこが立たねぇ」

橘がふんと鼻を鳴らした。

狙われているのは自分なのに、こんなこと、はないと思うが、なんとなく渡世の理屈は理解できた。

つまり、新城を巻き込むということは、兄貴分に揉め事の責任を問うことになり、メンツを潰すか、損をさせることになるので、それはできないということなのだろう。

まったく、極道の世界というのはややこしい。

命の次に金が大事だ、などと言いながら、それよりメンツが大事だったりもする。

橘に言わせれば、メンツがメシの種だから、一度、ナメられれば、もうそのヤクザはヤクザとしては喰っていけなくなる、だからメンツは目先の金より大事なのだ、ということらしいが、慧にはさっぱり理解できない。

しかも自分の命が懸かっているこの時に、渡世の義理なんてことにまで、良く気が回るものだと、慧は半ば呆れた思いだった。

「…ま、相手がどこまで喰いつくか分からないが、できるだけのことはしないとな」

話が終わったのか、笈川は、小さく息を吐いてから立ち上がった。

「待てよ」

そこに橘が声を掛けた。

「慧、ちょっと表行ってろ」

再び吸っていた煙草を、灰皿で揉み消しながら、橘が言った。

それから、橘のマンションに詰めていた組員に向かって、おまえらも出てろ、と言うと、橘はソファの上から笈川ににやりと笑いかけた。

組長の命を守るため、というより、落ち着きのない組長をマンションに止めておくために詰めていた組員たちが、橘の命令に従うべきか、迷うように若頭の笈川の顔を見た。

「心配すんな。どこにも行きゃしねぇ」

そんな舎弟たちの杞憂を察知した橘が、ふんと鼻を鳴らす。

「大丈夫だ。出てろ」

笈川は小さく溜息を吐くと、舎弟に金を握らせて、息抜きをしてこい、と言った。

組員たちが玄関に向かう中、慧はソファで薄笑いを浮かべている橘を見ていた。

橘は、慧と舎弟たちをマンションから追い出そうとしている。

慧たちが出て行けば、ここに残るのは、橘と笈川のふたりだ――橘の意図が若頭、笈川との密談である筈もない。

はっきりと言われなくても、もう慧には橘の真意が分かっていた。

殺し屋の探索と、組長の不在で、多忙を極めていた笈川に、橘が会うのは久しぶりだ。

きっと、ふたりきりの時間が欲しいのだろう――

たとえその時間を作るために、自分を愛していると知っている慧をあからさまに追い出すような真似をしたとしても、それを責めるつもりもなかった。

所詮、自分だって橘の愛人のひとりに過ぎない。

他の誰とも違う信頼感と絆で結ばれているふたりの間を、慧に邪魔する権利など、ない――

慧は、組員たちに混じって、なにも言わずに部屋を出て行った。




*13… 格上。
*14… 文句。無理難題。
*15… 魅力のあるの意。
*16… 金を引き出せる相手。
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