スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←第三章『殺人衝動』3 →第三章『殺人衝動』5
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
【第三章『殺人衝動』3】へ  【第三章『殺人衝動』5】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

Killer Street

第三章『殺人衝動』4

 ←第三章『殺人衝動』3 →第三章『殺人衝動』5
***********

橘の住む高層マンションを出た慧は、黙って組員たちとは別の方向に歩き出した。その様子を、ともにマンションを後にした幹部舎弟の村尾が気にしているのは分かっていたが、慧は村尾と行動する気になれなかった。

組長の愛人としてひとりで出歩くことを避けなければいけないことも分かってはいたが、今だけはひとりでいたい。

醜い嫉妬を押し隠して、笑顔を見せるなんて、できそうもない。けれど、村尾の前で沈み込んでいれば、人のいい村尾は気にするに決まっている。

村尾も、そんな慧の気持ちを汲みとってくれていたのだろう。背後から躊躇う空気が漂ってきたが、ひとり立ち去る慧の後を誰かに追わせようとはしないでくれた。

慧はあてもなく、ふらりと歩みを進めた。

気がつくと、以前、笈川に連れられてきた山下公園まで来ていた。

そういえば、と慧は思った。初めて、橘と笈川の関係を突きつけられた時も、慧はこの場所でひとり、泣いた。

橘に命を懸けて生きる笈川の愛と、愛を拒絶し、極道の代紋に命を懸けて生きる橘――

笈川の愛は、慧にはとても純粋に思えた。

橘 裕貴を愛し、その男の幸せのためならば、きっと笈川はどんなことでもするだろう。橘の邪魔になるのなら、自分自身の存在すら消してみせる、と笈川は言った。

その言葉はきっと真実だ。

もし、笈川自身が本当に橘の障害となれば、彼が迷わず自分の頭を撃ち抜くだろうことは、慧にも分かっていた。

笈川の愛はシンプルだ――とてもシンプルで潔い。

見返りを求めず、ただ与えるだけの愛――

笈川のそれに比べれば、自分の欲の深さと矮小さが目立つだけだ。慧は溜息を吐いた。

橘の愛が欲しい。橘の心が欲しい。

橘の――体が――

――この変態野郎…

昨夜、橘に浴びせられた罵倒が唐突に蘇ってきて、慧は頰の熱があがるのを感じた。

橘 裕貴を愛している――

その想いに偽りはない。

それは慧にとって、疑う余地のない事実だった。

だからこそ、今この瞬間、橘と笈川がなにをしているのか――考えるだけで、息が止まりそうな苦しさを覚える。

慧はそっとシャツの胸元を握り締めた。

極道の男である橘 裕貴が、たったひとりの誰かに愛と貞操を誓うなど、儚い願いと分かってはいても、複数の愛人たちと、その体を共有するという現実に、慧は常に胸の疼きを覚えていた。

もう――体が千切られるような苦しみはない――ただ、息が止まってしまいそうな胸の痛みを覚えるだけだけれど――

自分だけを見て欲しい、自分だけを愛して欲しい――

そんな願いはもう捨てた――

どうせそんなことが現実に起こるはずはないのだ。

分かってはいても、心の痛みは別だ。

愛する人が帰らないまま、冷たくなっていくベッドにひとりで横たわって、何度、眠れぬ夜を過ごしただろう。

醜い嫉妬と独占欲に苛まれた惨めな自分を、冷ややかに見下ろす冷たい月が、朝焼けの中に溶けていくのを、何度見送っただろうか――

けれど――

昨日のようなことがあれば、そんな自分の心まで信じられなくなりそうだ。

昨日の情事を思い出した途端、胸が痛んで、慧は思わず唇を噛んだ。

――他のヤツに抱かれた俺に欲情してんじゃねぇのかよ

橘の容赦のない言葉が胸に突き刺さる。

そんなわけはない、と頭で否定はしても、体がそれを裏切る。

苦しみだった筈なのに――

痛みだった筈なのに――

他の男に抱かれる橘の妄想が、慧の心を裏切って、体を濡らしていく――

それは、知りたくはない――知ってはならない甘美な禁断の味だった。

違う、愛しているから――愛していなければ――こんなに情欲を掻き立てられることなんて…――

それならば、どうして自分は愛している男の不貞に、あれほどまで卑猥な欲望を掻き立てられてしまうのか――

どんなに自分を誤魔化そうとしても、誤魔化しきれるものではなかった。

昨日――自分は――明らかに、自分を裏切る橘の体に欲情していた、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、――

それを思うと、もう途端に自分が分からなくなる。

橘の不貞に身を切られるほどつらい思いをしているのに、どうしてその事実に狂おしいほど燃え上がってしまうのか――

自分で自分が分からない。

もう頭がおかしいとしか思えなかった。
関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
【第三章『殺人衝動』3】へ  【第三章『殺人衝動』5】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【第三章『殺人衝動』3】へ
  • 【第三章『殺人衝動』5】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。