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Killer Street

第三章『殺人衝動』5

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カチン…――

もう何度目になるかわからない溜息を吐いた慧の足元で、微かな金属音がして、何かが爪先にぶつかった。

ふと足元を見ると、そこに指輪が転がっていた。

慧は何気なしにそれを拾い上げた。

繊細な金属の輪に、透明な石が嵌っていた――それは小ぶりながらダイヤモンドだった。

婚約指輪――?

慧は、慌てて顔を上げて、その落とし主の姿を探した。

目の前のベンチに、スーツ姿の冴えない男が座っている。

二十代――? 三十代だろうか――

なんだか特徴のない平凡なその男は、年齢さえも曖昧な印象だった。

けれど、慧の近くにこの男以外の人間はいない。

指輪を落としたのは、きっとこの男に違いない、と、慧はベンチに近寄った。

「あの…」

なにやら物思いに沈んでいる風の男の様子に、遠慮がちに声を掛けると、その男は驚いたように顔を上げた。

「これ…、落としませんでした?」

そう言って、慧は男の目の前にダイヤの嵌った指輪を掲げた。

「あ…」

男は冴えない表情のまま、目の前に差し出された指輪をぼんやりと見つめた。

そのまま男は、それを受け取ろうともせず、ただ慧の指先に視線を落としている。

彼の指輪ではないのだろうか、それとも少し精神状態が不安定なのかもしれない。

「あ、あの…?」

男の茫洋とした様子に戸惑った慧の声に、男は我に返ったように、慧を見上げた。

「あ、すみません」

自身のただならぬ様子に気づいたのか、男は苦笑いを漏らした。

「その指輪、僕のじゃありません」

男は寂しげに笑ってそういった。

「え…? でも…」

慧は周囲を見廻した。

慧の元まで指輪が転がってきそうな距離にいるのは、ベンチに座ったこの男だけだ。

「捨てたんです、それ」

男が言った。

「だから、もう僕のじゃないんです」

どこにでもいるサラリーマンのような男は、寂しげに笑った。

「捨てたって…」

ダイヤモンドのついた婚約指輪を投げ捨てるなど、普通の状況とは思えない。それはこの男の様子からも見て取れる。なにか事情があるに違いない。

「なにか…あったんですか?」

大きなお世話だと思いつつも、聞かずにはいられなかった。男の様子は、とても、黙って立ち去れる雰囲気ではなかった。

「…つまらない話ですよ」

男は再び、寂しげな笑みを浮かべた。

「す、すみません。なんか俺、関係ないのに…」

慧が、他人のプライバシーに踏み込んでしまったことを詫びると、男は少し表情を和らげた。

「いえ…。お時間があったら、むしろ誰かに聞いて頂きたいです」

時間なら山ほどある。今、橘のマンションは、慧が帰れるような状態ではない。

男は、どうぞ座ってくださいと言いながら、体を横にずらし、慧にベンチのスペースを空けた。

「本当につまらない話なんですけどね」

慧が隣に腰を下ろすと、男は言った。

「婚約解消になったんです」

男は自嘲気味に笑った。

「彼女、浮気してたんですよ」

浮気――

他人事ではないその言葉にどきりとして、慧は顔を上げて、隣の男を見た。

「浮気していたのは自分のくせに、あいつ、寂しい思いをさせた僕のせいだって言うんですよ。勝手ですよね」

その時の婚約者との会話を思い出したのか、男は苦々しげに言った。

「浮気をしておいて謝りもせずに、そんな言い訳ないですよね」

「…浮気…、許せなかったんですか?」

慧は尋ねてから、莫迦なことを聞いていると思った。

普通の恋人同士なら、そんなに簡単に許せることではないだろう。

橘とは違うのだ。

しかし、そう聞かれた男は、つらそうに顔を歪めた。

「…分かりません。その時は許せないと思いました。こんな女、殺してやりたいって…」

男は視線を公園の石畳に落としたまま、小さく溜息を吐いた。

「開き直るような彼女の言い分に、ついカッとなって、もう婚約解消だって言ったら、指輪を投げつけられました」

そう言うと、男は少し黙って、ぼんやりと公園を眺めた。

「…他の男となんて…殺してやりたいと思ったのに…、――諦められないんですよね」

「え…?」

男は、困ったような顔をして、慧を見ると苦笑した。
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