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Killer Street

第三章『殺人衝動』6

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「バカみたいだって自分でも思います。婚約中の彼女に浮気されたのに、それでも彼女のことを忘れられないんですよ。諦められないんです」

未練がましいですね、男はそう言って、再び溜息を吐いた。

慧は掛ける言葉を見つけられずに、手の中の婚約指輪を見つめた。

慧に掛ける言葉などある筈がない。

愛する人にどれだけ裏切られても諦められないのは、慧も同じだ。

この冴えない平凡な男は、慧自身なのだ。

しかし、そんな慧の事情など知る由もない男は、ふっと笑顔を向けた。

「あなたみたいな人には、こんなバカみたいな話、訳分からないですよね。モテそうですもん」

「そんな…」

慧は思わず、下を向いた。

モテそうどころの話ではない。慧自身が、橘の奔放な不貞に、振り回されているのだ。この男のように、感情的になって別れを言い出す勇気すらない。

「同じようなもんです、僕も…」

慧が俯いたままそう言うと、男が不思議そうな顔をした。

「僕なんて、恋人と認めてすらもらえへんですよ。別れるなんて…、冗談でもそんなこと言ったら、本当にいなくなってまうでしょうね」

慧がそう言うと、男は驚いたような顔をした。

「…そんな、同じような立場だなんて、なんだか妙な偶然ですねぇ」

男の言葉に、慧は思わず笑った。

確かに妙だ。愛する人に裏切られた男同士が、こんな公園でばったりと出喰わすなんて。おまけに見も知らぬ他人に、互いに身の上相談をしている。

「こんなことを聞いて、頭がおかしいんじゃないか、なんて思わないで欲しいんですけど…」

男は不意に真顔になった。

「あなたも恋人に浮気をされているんでしょう? 思ったことはないですか――殺してしまいたいって――」

慧は驚いて、男の横顔を見つめた。

真剣な目つきで前を見据えていた男は、ふと笑顔になって慧を見た。

「もちろん、そんなこと本当にできやしないんでしょうがね。でも、あいつが死んでしまえば、もう誰かに奪われてしまうなんて不安もなくなるでしょう?」

男は、顔を歪めると、微かな怒りを浮かべた。

「これから結婚って時に、浮気って…。結婚しても、あいつを俺だけのものにできないんだったら、もう殺すしかないじゃんって…。まぁ、どうせできやしないんですけどね、そんなこと」

もう、殺すしかない――

男の言葉が、妙に現実味を持って響いた。

どうせできやしない、と男は言ったが、慧たちが生きる世界で、死はあまりにも身近だ。

それはいつでも起こり得る現実となる。

橘が死ぬ――

死んでしまえば、もう失うことはない――

橘 裕貴は、永遠に慧のものだ――

それは、奇妙に甘く慧の心に響いた。

どこにも行かない――

誰にも奪われることはない――

この胸から流れる血も、痛みも、なくなる――

橘が死んでしまえば――

「――…どう…しました?」

男の声で、慧は我に返った。

橘の死の夢想が遠くなる。

「あ…、すみません。なんでもないです…」

慧が慌てて、ぎこちない笑顔を作ると、男はふと慧の頰に視線を止めた。

「…怪我ですか?」

「え?」

男は、慧の頰を指差した。

殺し屋の銃弾が掠めた傷跡だ。

もう出血は止まってはいたが、それはまだ慧の頰にくっきりと引き攣れた傷を残していた。

「あ…、ちょっと…」

慧は傷跡に手を当てて、曖昧に頷いた。

見ず知らずの堅気の人間に、ちょっと銃で撃たれたんです、とは言えない。

突然、男が立ち上がった。

「いきなり見ず知らずの方をこんなお話につきあわせて、申し訳ありませんでした」

男は、慧に振り返って微笑んだ。

「でも、話してなんだかすっきりしました」

男はありがとうございました、と言うと、慧に手を差し出した。

慌てて立ち上がって、男の手を握る。

「良く考えたら、自己紹介もしないで、本当に失礼しました。僕、斉藤といいます」

男は、特徴のない顔に笑みを浮かべてそう言った。
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