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Killer Street

第三章『殺人衝動』9

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山下公園で春海はるみ けいと別れた後、斉藤は自分の住居に戻っていた。

斉藤の住居には、最小限の生活用品しか置いていなかった。布団が一組、それと洗面道具だ。

斉藤は、同じ場所に長く住んだことがない。斉藤の住居は、仕事の目標物に迅速に近づくための足場という意味合い以外はなかったので、ひとつの仕事が終われば、その住居も用済みとなる。

斉藤は殺し屋だった。

金で殺しを請け負う、プロの殺し屋だ。

斉藤、という名前も本名ではない。仕事上の名前のようなもので、無個性で、周囲に溶け込みやすい凡庸な自分に、ぴったりの名前だと思っている。

斉藤が殺し屋を職業として選んだ理由は単純だった。

それが自分に唯一できることで、かつ収入になる――ただ、それだけの理由だ。

斉藤は、殺しに恍惚感を覚える、とか、人が苦しむ姿を見るのが楽しいというタイプの人間ではない。

斉藤は、殺人になんの感慨も抱かない、そういう種類の人間だった。

初めて人を殺したのは十五歳の時だった。

理由はもう忘れてしまった。

怒りや感情の暴走の結果などではなかったことは覚えている。

多分、相手がうるさいとか、喚き続けるその声を止めたいとか、そんなようなことだったと思う。

ものも言わずに、相手の首を締めた。相手は声をあげずに呼吸を止めた。ネジの止まったからくり人形のように、相手は斉藤の足元に崩れ落ちた。

白目を剥いて、口の端から泡のようなよだれを垂れ流し、相手は静かになった。

なんだ、人が死ぬというのは、こんなものか――

斉藤は、青白くむくんだ死人の顔を見て、そう思った。

今、思えば、あれは斉藤の母親という生き物だったようだが、それももう曖昧な記憶だ。

死んでしまえば、人間はただの死人だ。

それから斉藤は、人を殺すことを生業とするようになった。

世の中には、斉藤のような職業を必要としている人間が多くいるようで、これまでに仕事がなくて困ったことはなかった。

依頼があって、報酬が折り合えば、斉藤は仕事を受けた。

対象がどんな人間であるか、などということに興味はなかった。

斉藤は、高い報酬を受ける代わりに、確実に対象を仕留めることを心掛けていた。この仕事は、評判が重要だ。一度しくじれば、次の仕事はなくなる。

本当は金にもあまり興味はなかったが、生活ができなくなるのは困る。

しかし、実際には斉藤の所持金は、数年は遊んで暮らせるほど貯まっているはずだった。それでも斉藤は、依頼があれば仕事を受けた。

仕事がなくなった将来に備えようとか、早いリタイアをしようなどと考えているわけではない。

仕事は、斉藤の生活の一部だっただけだ。

朝、起きて、仕事に行く――当たり前のことだ。依頼を受けなければ、仕事がなくなってしまう。仕事がなくなってしまったら、斉藤は一日をどうやって過ごせばいいのか、さっぱり分からないだろう。

だから、仕事をするのだ。

大抵の仕事は、依頼から、対象の身辺調査を経て、一番、成し遂げやすい時間と場所と方法を選び、それを実行して終わる。

ところが、今回に限っては、その手順が狂ってしまった。そのことを考えると、斉藤の表情は曇った。

こんなことは滅多になかった。仕事は、大抵、計画どおりに完遂される。

珍しいことだが、これまでまったくなかったわけではない。それに、今回の失敗は、斉藤のミスというわけでもないのだ。

今回の対象は、暴力団組織の組長だった。それならば、抗争事件やなにかで銃で狙われることもあるだろう、銃で撃たれて死ぬことは不自然ではない、と、斉藤は、今回の仕事に狙撃という方法を選んだ。

スコープを覗いて、対象の眉間に照準を合わせ、引金を引く――それで終わる簡単な仕事の筈だったのに、斉藤が引金を引いた瞬間、対象の脇にいた男が、なにかに足を取られてよろけ、対象者にぶつかった。

斉藤が引金を引いた瞬間、スコープの中の対象者が照準から消えた。

斉藤が放った銃弾は、よろけて対象者にぶつかった間抜けな男の頰を掠めた。予定外のことが起こったら深追いはしない――それが斉藤の仕事における鉄則だった。斉藤は、狙撃場所を速やかに立ち去った。

間抜けな男は、春海 慧といった。対象者、橘 裕貴の愛人だ。

対象者の橘 裕貴という男が、バイセクシャルであるということは調査済みだったので、男の愛人の存在に驚いたりはしなかったが、春海 慧が斉藤の仕事の邪魔をしたことに変わりはなかった。

こんなことでは、斉藤の評判に関わる。

斉藤の仕事の邪魔をした春海 慧も始末しなければならないだろう。

報酬は、橘 裕貴ひとり分しか貰うことはできないから、まったく余計な労働になってしまうが、それは仕方がない。仕事に失敗はつきものだし、失敗は自分で補わなくてはならない。
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