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New Moon

Mid Night ヨコハマー夜明 6

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次の日は土曜日だった。

一臣は学校の帰りに、途中でファストフードのハンバーガー店に寄って、昼食を買ってから、アパートへと向かった。

注文する時になって、ふと、裕貴はちゃんと食事をしているだろうか、と思いたち、ふたり分、購入した。

アパートのドアを開けると、畳の上に二本の足が投げ出されているのが見えた。

ドアが開く音に呼応して、だらしなく畳に転がっていた裕貴が、自堕落に頭だけ持ち上げてこちらを見た。

「メシ、買ってきたけど」

そう言いながら一臣が紙袋を掲げてみせると、裕貴はぱっと表情を明るくして起き上がった。

「ラッキー。腹減ってたんだけど、もう金がなかったんだよな」

裕貴は、子どものような顔で、一臣の手渡した紙袋を開けて、中を覗き込んだ。

「外に出られれば、金なんていっくらでも手に入るけどよ。今、タイタンの連中と会っちまうと、めんどくせぇからなぁ」

それを聞いた一臣が、ちらりとその顔を見ると、こちらに目を向けた裕貴と目が合った。

裕貴が、悪びれずにやりと笑った。

ようするに、外に出られればカツアゲでもなんでもやって、金を手に入れられるという意味だろう。

まったく、ろくなことを考えていない。

不良少年の思考回路など、こんなものだろうが、裕貴の場合、まったく良心の呵責など覚えていないようだ。

一臣は返事の代わりに軽く肩を竦めると、自分の分のハンバーガーを口に運んだ。

しばらく黙って買ってきたハンバーガーを食べていた。

午後のアパートには、徐々に西日が差し込んでくる気配が漂っていた。

時折、外から車の排気音や、子どもたちの喧騒が聞こえて来る。

それ以外は、まったく静かな午後だった。

今夜、行動に移そうとしている、二百名の構成員を抱えると吹聴する横浜最大不良少年集団との衝突が、とても現実のものとは思えなかった。

「…浩輝こうきは、準備できてるかな…」

なんだか沈黙に耐えられずに、一臣がそう言うと、裕貴は手元のハンバーガーから目もあげずに、ふんと鼻を鳴らした。

「あいつも死にたかねぇだろうからな。気合い入ってんだろ」

裕貴の言うとおりだ。

浩輝の役割は囮だから、万が一、横浜タイタンに捕まれば、過酷な制裁が待ち受けているに違いない。命の保証もない。危険といえば、浩輝が一番、危険なのだ。

そんなことを考えながら一臣が、顔をあげると、ハンバーガーを食べ終えた裕貴が、包み紙をクシャクシャと丸めていた。口の周りがソースで汚れている。

くち

と、一言だけ言って、一臣が自分の口の辺りを指さすと、裕貴は慌てたように手の甲で口元を拭った。

「ナプキンが入ってるだろ」

小さく溜息を吐いて、一臣は自分の食べかけのハンバーガーを畳の上に置くと、紙袋から使い捨てのナプキンを取り出して、裕貴に差し出した。

裕貴は、あからさまに面倒臭いという表情を見せたが、おとなしくナプキンを受け取ると、ゴシゴシと口の周りを擦った。

「そんなに擦ったら、擦りむけるぞ」

一臣はそう言って、思わず顔を顰めた。

案の定、裕貴の唇の周りがピエロのように紅くなっている。

まだ皮膚が柔らかいのだ――

そう思った瞬間、寝ていた裕貴に、思わずくちづけをしてしまったことを思い出した。

ふいと裕貴の口元から目を逸らす。

内心の動揺を顔に出さないことには、慣れている。

それに――自分でも意外なことに、まだ子どもとはいえ、男の裕貴にくちづけをしたことに、一臣はなぜかそれほど動揺していなかった。

一臣は、これまで同性に興味を抱いたことはない。

十代の男子として、人並みに女性への興味もある――ただ、どの女も、好きだと思ったことは、一度もなかったけれど――

ふと笑いが込み上げてきた。

髪を金色に染め、盗難車を乗り回し、不良グループどころか、ヤクザまで引き摺り出して、戦争まがいの揉め事を起こそうとしている少年とつきあっていることだけでも、母が知ったら大騒ぎに違いない、と想像していた。

その母が、少年が眠っている隙に、自分の息子がくちづけをした、などと聞いたら、どう思うだろうか――

それを想像するとなんだかおかしかった。

自分が同性愛者だという意識はなかった。

そういうことではない――

ただ、確かめたかっただけだ――

裕貴の柔らかさを――

裕貴の幼さを――

裕貴が名もない少年Aなどではなく、一臣たちとなにも変わらない、たった十四歳の子どもなのだということを――

反抗期のわがままを言い、親に感謝を示すこともなく――それでも毎日、小言を言いながら自分の世話をしてくれる庇護者のある毎日――

誰もが、当たり前のように享受している幸運と幸福――

それを得る権利が、裕貴にだけないなんて、思いたくはなかった。

裕貴の唇は柔らかかった。

熱く熱を持っていた――子どもの体温――

柔らかい頰にはまだ産毛が光り、肌理の細かい肌は乱暴に擦れば、あっという間に紅くなってしまうほどにやわい。

その子どもが、一臣の世界を根底から覆し、その欺瞞を暴いた。

世界は、レースの中に生まれた幸運な一部の人間のためのものだと――

その子どもが、一臣の背中を押した。

脆いレースで飾られた蜃気楼の幸福から、踏み出す一歩を――

裕貴と、同じ場所にいたい――
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