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Killer Street

第四章『殺したいほど愛したい』1

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けいは、隣に眠るたちばなを起こさないように気を使いながら、そっと寝返りを打った。

なんだか寝付けない――

慧は、ベッドの中で小さく溜息を吐いてから、静かに体を起こした。

同じベッドで眠る橘の背中にちらりと目をやったが、起こしてしまった気配はない。

職業柄なのか、本人の元々の性質なのか、橘は寝ていても、人の気配に敏感なのだ。

慧は、長い間、寝付けずにいたせいで、すっかり闇に慣れてしまった視界に、うっすらと映る寝室の輪郭を頼りに、気配を消したままドアを探り当て、そっと部屋を出た。

リビングに出て、ようやく大きく息を吐く。

遠くに見える港の灯りが、カーテンのない大きな窓から入り込み、リビングに薄明かりを投げ込んでいた。

橘の部屋は、高層マンションのペントハウスだから、このユニットも二階建てだ。寝室も上下合わせて三部屋あり、広いマスターベッドルームが二階にあるのに、なぜか橘は、リビングの隣の部屋で寝起きをしている。

以前、そのことについて質問したことがあるが、橘の答えは簡潔だった――面倒くせぇ――

いちいち一階と二階を行ったり来たりするのが面倒だ――という意味らしい。

橘らしいと言えば、橘らしいので、慧もそれ以上は尋ねなかった。

その話題を慧が持ち出した本当の理由は、別にあったのだが。

なし崩しの形で橘の家に転がり込んでしまった時、慧は、巻き込まれた抗争事件で、銃で撃たれた直後だった。怪我を負った慧は、舎弟の牛丸うしまるあおいに運び込まれるまま、橘の寝室で寝起きをしていた――しばらくは寝たきりだったので、世話に訪れる舎弟たちにとっても、リビングの隣の部屋は都合が良かったというのもある。

それに、傷が癒えた後、橘の下に留まる決心をした慧は、会社は辞めるつもりではあったが、――そうでなくても、抗争事件に関わってしまったせいで、遅刻と無断欠勤続きだった慧に、会社での居場所はとうになくなっていたのだが――橘の自宅に世話になるつもりはなかったのだ。だから、橘の部屋で寝起きしていたのも、本当に一時しのぎ、傷が癒えるまで、というつもりだった。

しかし、元気になった後、東京のアパートから横浜まで通うつもりか、と橘に嫌な顔をされ、組長の愛人という立場に納まった慧のひとり暮らしを危惧した組員たちもいい顔をせず、結局、慧は、周囲に言われるままに東京のアパートを引き払い、橘のマンションに居候をすることになってしまった。

当初は、ほんの一時期の居候生活、と思っていたが、ひとり暮らしそのものを未だに許してはもらえず、結局、こうして慧は橘のマンションに住んでいる。

慧にしてみれば、自分が想う相手とともに暮らすことができるわけだから、不満もない。

もちろん、その相手が、浮気性で気分屋の極道者であるから、生活をともにしていれば、彼の不貞行為も常に目の当たりにせざるを得ないところは、共同生活の短所でもある。別々に暮らしていれば、見なくてもいいものをこんなに見てしまうことはないだろう、と思うこともある。

それでも慧は、常に橘の傍にいることのできることが幸運だとも分かっていた。

その主な理由が、橘の愛情からというより、愛人という立場を敵方に利用されないようにするための護衛で、それは慧のためというより組のためだと分かってはいたが、それでも好きな相手の傍にいられることは素直に嬉しい。

しかし、橘個人から見たら、この状況はどうなのだろう、と考えることもあった。

気ままにひとりで暮らしていた自分の家に、突然、同居人が転がり込んできたのだ。慧は、橘に、鬱陶しいとか、面倒だ、と思われても仕方のない立場である。

ひとりでいたい時もあるのではないか、と慧は、自分の私物を二階の小さな寝室――といっても、その部屋だけで、慧がもともと住んでいたアパートと同じくらいの広さがあるのだが――に移し、そこで寝起きをするつもりだった。

ところが、なぜか橘は、慧が別の部屋で寝起きをすることを許してくれなかった。

部屋は余っているのだし、大体、組長という立場の橘の家は、人の出入りが激しい。下っ端の若い衆が、毎日、掃除や雑用のために訪れるし、若頭の笈川おいかわも、業務連絡を兼ねて、ほぼ毎日のように、橘を起こしにやってくる。

そんな環境で、橘と寝室をともにしていることが、慧は落ち着かなかった。

組員たちは、男も女も問わないという橘の性癖も知っているし、慧が愛人であることも了解済みだ。しかし――というか、だからなおさら、部屋を出入りする舎弟たちの前で、ふたりが寝室をともにしていることを、あからさまにするのは恥ずかしい、と思うのは、ごく普通の羞恥心だと思うが、そんなことを理解してくれるデリカシーを、橘 裕貴という男は持ち合わせてはいないようだ。

――あいつにデリカシーなんて、期待せえへんけどな…

だから、荷物の大半は、二階の寝室に置いてあるのだが、寝起きはリビングのすぐ隣の橘の部屋で――というのが、今の慧の生活だった。

まあ――慧としては、嬉しい。

日頃から、橘と寝起きをともにしていれば、彼が帰らない日も、それがはっきりと身に沁みてしまうことはあるけれど、それでも、彼がここにいる時は、その温かさを隣に感じながら眠ることができる。
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