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Killer Street

第四章『殺したいほど愛したい』2

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けれど、今日のような日は、隣に眠る橘の存在が、むしろ気になって仕方がなかった。

慧は、暗いリビングで、灯りもつけずにソファに腰を下ろした。

窓の外をぼんやりと眺めながら、昼間、山下公園で出会ったサラリーマン風の男――名前を聞いた筈だが、どこにでもあるようなその名を、慧はもう覚えていなかった――の話を思い出す。

――あなたも恋人に浮気をされているんでしょう? 思ったことはないですか――殺してしまいたいって…

婚約者に浮気をされ、喧嘩の果てに婚約指輪を投げつけられた、と溜息を吐いていたあの男は、平凡な顔に似合わない冥い目でそう言った。

そういえばあの指輪――と、慧は思い出した。

結局、彼はあの婚約指輪を受け取らずに、去ってしまった。

それに気がついたのは、彼の姿がすっかり見えなくなってからだった。捨てるわけにもいかず、仕方なく慧はそれをパンツのポケットに入れて、持ち帰ってきた。今は、慧の荷物の置いてある二階の部屋のタンスの上に置いてある。

――死んでしまえば、もう誰かに奪われるなんて不安もなくなる

男は、そうも言っていた。

その言葉を聞いた瞬間、心の隅にぶくりと湧き上がった、橘の死という妄想が、まだ慧を捉えていた。

そんなものはくだらない妄想だ。ほんの一瞬、あの男の言葉に引き擦られて湧き上がった莫迦げた幻惑――それは分かっていた。

現に、今、慧は本気で橘の死を願っているわけではない。

死んで欲しい筈がない。

橘が、いなくなってしまったら――そう想像しただけで、心臓がきゅっと縮む気がする。

それなのに、一方で、あの男の言葉が恐ろしいほどの吸引力を持って、慧を捉えて離さない。

――死んでしまえば、もう、誰にも奪われない

もう、失うことはない。夜毎、日毎、他の誰かと逢瀬を重ねる橘 裕貴は、永遠に慧だけのものになる。

どこにも、行かない――

そこまで思って、慧は慌てて頭を振った。

莫迦莫迦しい妄想だ。

死んでしまっては、奪われるもなにもない。

もし、橘が死ねば、それは慧の下からもいなくなってしまうということだ。

もう、あの皮肉な笑みを見ること、あの熱い体温を感じることもなくなってしまう。

そんなことが、幸せだとは思えなかった。

そういうことやないねん…――

慧は、溜息を吐いて、ソファの背に体を預けた。

そういうことじゃない――

慧が苦しいのは、橘が誰かに奪われてしまうとか、そういう不安があるからではない。

そういう意味では、橘は誰のものでもない、 、 、 、 、 、 、 、のだから――

橘の心は――誰のものでもない――

気が向けば、誰にでもその身体を許すくせに、誰も橘 裕貴の心を――想いを――手に入れることはできないのだ。

それが――つらい。

橘は、慧に身体を許しても、心まではけっして与えてはくれない。

ただの錯覚だ――慧の想いを、その一言で軽く受け流す――

冷たい目つきと冷たい微笑――

慧に抱かれているその時は、欲望に潤み、熱い吐息を漏らす、その同じ瞳と同じ唇が、刃の光を放ち、毒を吐く――

本当に、身体だけなのだ――

自分と橘の間にあるのは――セックスだけの――虚しい関係――

それを虚しいと感じつつも、自分が、橘との行為に溺れて、己れを見失っているという自覚もあった。

他の誰とも、あんな快楽は得られない――

慧は、それを他の誰にも抱いたことのない愛があるからだと信じているが、彼の不貞に怪しい疼きを覚えてしまう自身に、心が揺らぐ。

愛しているから、他の誰にも覚えたことのない渇望を抱き、彼に溺れていくのだ――そう信じている心を、裏切りに燃える身体が冷笑を投げかける。

――本当にそれだけか? 橘に与えられる責苦を、他の誰からも与えてもらえないということを知っているから、離れられないのじゃないのか?

違う――

そう心が否定する。

裏切りの苦しみを、慧の身体が待ち望んでいるなんて、そんなことは――

自身の奥底に隠された冥いさがから、目を逸らす。

こんなにつらいのに、身体の悦びに流されてしまう自分――

――橘がいなくなってしまえば…死んでしまえば、もうこんな風に心を掻き乱されることもない…あの身体に、狂わされていくことも…

ふとそんな考えが頭をよぎる。それを慌てて打ち消した。
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