スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←第五章『死ぬまできみを愛してる』1 →第五章『死ぬまできみを愛してる』3
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
【第五章『死ぬまできみを愛してる』1】へ  【第五章『死ぬまできみを愛してる』3】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

Killer Street

第五章『死ぬまできみを愛してる』2

 ←第五章『死ぬまできみを愛してる』1 →第五章『死ぬまできみを愛してる』3


サラスヴァティは、組事務所から歩いて十五分ほどのところにある。組長の命が狙われている今、橘組は厳戒態勢とも言えるが、所詮、愛人の慧には直接、関わりのないことだ。あれだけの腕があれば、慧を拉致して利用しようなどという小細工も必要ないに違いない。

慧は葵と連れ立って、空気の中に冬の冷たさが混じる街を徒歩で会社に向かった。

道の角まで来て、慧は立ち止まった。

「ちょっと寄りたいとこあんねんけど、ええかな?」

慧の申し出に、きょとんとした顔をしながらも、葵は頷いた。

慧は、その角を海に向かって曲がった。この道の突き当たりには山下公園がある。

先日、公園で出会った男に返しそびれた婚約指輪のことが気になっていたのだ。また偶然、会えるとは、いくら楽天的な慧でも、思ってはいなかったのだが、せっかく近くに来たのだから、公園を覗いてみようという気になった。

慧は公園の奥、海に向かって歩いた。平日の昼間だというのに、公園の中には若いカップルや子連れの母親たちの姿が見える。

遠くに、あの男と出会ったベンチが見えたが、当たり前のように、そこは無人だった。

やっぱり、偶然を期待していても、再会できそうにはない。

慧は、パンツのポケットに手を入れて、そこに収めてある婚約指輪を軽く握った。

その時、後ろから、男の声がした。

春海はるみさん?」

振り返ると、そこにあの男が立っていた。

「あっ!」

あまりの幸運に、慧は思わず声をあげてから、はっとした。

アカン、この人、名前、なんやったっけ――

平凡な見かけのこの男は、確か名前もどこにでもあるような平凡なもので、慧はすっかり忘れてしまっていたのだ。

「えと…」

「斉藤です。偶然ですねぇ」

男は親しげに笑いかけながら、慧に近づいた。

そうだ、斉藤――

慧は、慌ててポケットから手を取り出した。

「これ。この間、僕、持って帰ってもうたんです」

男――斉藤は、慧の掌に乗った華奢な指輪を覗き込んで、ああ、と小さく笑った。

「――先日は…、すみませんでした」

斉藤が、照れ臭そうに、軽く頭を下げた。

事情を知らない葵が、少し後ろの方から、訝しげにふたりを見ている。

「いえ…」

先日、ここで会った時、通りかかっただけの慧を、婚約者の浮気などという気まずい打明け話につきあわせたことを詫びているのに違いない。慧は、斉藤に気を使わせまいと、強くかぶりを振った。

恋人の不貞に悩む斉藤の煩悶は、慧には痛いほど分かったし、見知らぬ他人だからこそ打ち明けやすかったのだろうと想像していた――その気持ちも分かる。

斉藤は、再び頭をさげると、慧の手から指輪をつまみあげた。

「――どうですか、あの後…」

自分の手に戻ってきた指輪に視線を落としながら、斉藤は言葉を濁して尋ねた。

斉藤の打ち明け話を聞いた時、慧もまた、斉藤に自分の境遇の片鱗を漏らしていた。

自分だって同じような立場だ、と――恋人――橘は、慧にとって、恋人ですらないが――の裏切りに苦しんでいるのは、自分も同じなのだ、と慧は思わず口にしていた。

斉藤が尋ねているのは、そのことに違いない。近くにいる葵を気にして、言葉を濁してくれているのだろう。

慧は、曖昧に頷いた。葵は、慧と橘の関係を知っているし、堅気の長かった慧が、愛人の数が男の甲斐性などという、不埒な極道社会の常識に苦しんでいることも、知っている。

だから慧は、葵の存在を憚って、曖昧な態度に出たわけではないのだが、橘との関係は、こんな立ち話で表現できるほど単純なものではない。自分でも、どう説明していいのか分からないほど、慧の心を乱すことだらけだ。

しかし、斉藤は、そうは受け取らなかったようで、横で立っている葵の方をちらりと見てから、さらに声を顰めた。

「――いろいろと大変なようですね、まだ…」

それは間違いない。

慧は、再び頷いた。

「――あまり、思いつめないで下さいね…。こんなことを言うべきじゃないんでしょうけど…、短慮はいいことありませんからね――お互いに」

短慮――

斉藤がなにを言おうとしているのかを察して、慧の顔からさっと血の気が引いた。

――死んでしまえば、もう誰にも奪われない

――殺して――しまえば――

先日、この山下公園で出会ったとき、思いつめた表情でそう語っていた斉藤を思い出した。

斉藤がふっと笑った。

「――なんて…、春海さんに言ってるようですけど、本当は自分に言い聞かせてるんですよね」

慧は、自嘲気味にそう言った斉藤の横顔を、はっとして見つめた。

「――あんなことしておいて…、平気な顔をしているあいつを見てると…、たまらなくなるときがありますよ…」

「斉藤さん…」

斉藤は、ほんの一瞬、辛そうに顔を歪めると、片手で顔を撫で、その表情を消し去った。

「でも、僕たち、結婚することになってますから。もうあいつもバカなことはしないと思うんです」

斉藤はそう言うと、春海さんも頑張って、と慧の肩をぽんと叩き、離れて立っていた葵に軽く会釈してから公園を出て行った。
関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
【第五章『死ぬまできみを愛してる』1】へ  【第五章『死ぬまできみを愛してる』3】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【第五章『死ぬまできみを愛してる』1】へ
  • 【第五章『死ぬまできみを愛してる』3】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。