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Killer Street

第五章『死ぬまできみを愛してる』4

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若いけれど機転が効いて頭のいい葵は、組長、橘 裕貴のお気に入りの若い衆のひとりでもある。

久しぶりに顔を合わせた橘は、好きなものを食わせてやると上機嫌で葵を食事に連れ出した。

いくら顔が女の子のように可愛らしくても、若い男であることに変わりはないようで、なんでも好きなものをという橘に被せ気味に、焼肉、と叫んだ葵とともに、慧たちは関内の焼肉屋に来た。

目の前で次から次へと焼きあがる霜降り牛肉を前に、葵が嬉しそうに、早速、箸を伸ばそうとすると、隣に座った牛丸うしまるが、不機嫌そうにその頭を小突いた。

「ったく、てめぇは礼儀を知らねぇな。組長より先に箸出すんじゃねぇよ」

「いって」

葵は、小突かれたことが納得いかないという顔で、牛丸の強面を見上げた。

「構わねぇよ。遠慮すんな」

橘は、ビールを飲みながら向かいに座った葵に笑いかけた。

葵は、我が意を得たりとばかりに牛丸に舌を出してみせたりしている。

ここのところ、殺し屋の探索で、牛丸と離れて都内で走り回っていた葵だが、顔だけでシノギになると言われるほど凶悪なご面相の、この年季の入ったヤクザとはいいコンビで、他のどの哥兄にも、絶対にきかない軽口を、牛丸だけには叩いたりする。それだけこの哥兄を慕っているということで、牛丸も、年若い葵を可愛がっていた。

牛丸の反対隣で、葛西も、ふたりのやりとりに笑いを噛み殺しながらビールを飲んでいた。

橘たちの後ろのテーブルにも、橘組の若い衆が陣取っており、こちらは組長も若頭も同席していない気楽さで、男たちが食事を楽しんでいる声が聞こえてきた。

普段なら、これほど大勢で外に出ることは滅多にない。

大体、ヤクザというものは見栄っ張りだし、気前のいいものだ。さらに橘は、万事に大雑把だから、事務所にいる舎弟なら誰でも連れ出して、食事に行くことは良くあることだが、それでも舎弟には舎弟のシノギというものがある。

ヤクザはサラリーマンではないから、組から支給される給料などというものはない。むしろ兄貴分や、組に上納金を納めなければいけない立場だ。それらの金や自分のシノギは、己れの器量で稼がなければならない。もちろん、組に大きなシノギがあれば祝儀が出ることもあるが、それも幹部組員くらいのもので、下っ端の組員たちは日々、自身のシノギに走り回っているのが日常だ。

だから、大抵の場合、橘が食事にでも行こうか、などと思う頃に組事務所でふらふらしているのは、橘つき運転手を買って出ている牛丸と、幹部組員が数名、あとはまだそこまで自分のシノギを持てない若い葵くらいのものなのだ。

他の組では、見習いの若い衆などが側に控えているということもあるらしいが、当局の取り締まりの厳しくなった昨今、ヤクザ志願の少年は激減している。その上、橘が歳の若すぎる舎弟を嫌っているせいで、橘組では、そんな若い衆が同席することは稀だった。

しかし、今は少し事情が違う。

組長の命が殺し屋に狙われている上に、その手掛かりも皆無といった状態だ。ほとんどの組員たちは、その探索に出払っているが、交代で組長の盾になろうと、必ず数名の組員が橘の周りを固めていた。なんなら標的の橘の周囲にいた方が、殺し屋を捕まえることができるかもしれない、という期待もあるようである。

そんなわけで、橘の周囲は、普段に比べて大分、賑やかであった。

橘は、もともと若い衆と賑やかにやるのが好きらしく、自身の命が狙われている状況であるにも関わらず、それを楽しんでいるようにも見えた。

「そういえば、橘さん」

口の中を霜降りカルビでいっぱいにしたまま、葵が言った。すかさず牛丸から、飯を食いながらしゃべるんじゃねぇとお叱りが入る。それに素直に従って、口の中の肉をごくりと飲み込みながら、再び葵が口を開いた。

「橘さん、慧に寂しい思いさせないでやってくださいよねー」

突然、とんでもないことを言い出した葵の言葉に、慧は飲んでいたビールを吹き出しそうになってしまった。

同じテーブルに座っていた笈川と葛西も、むせておしぼりで口元を押さえている。

橘は、ぽかんと口を開けて、焼肉のタレで口の周りを汚している葵を見つめていた。

「なに言ってんだ、おまえはっ」

牛丸が慌てて、葵を黙らせようとした。

「だって、牛さん、こいつ、公園とかで知らないヤツの悩み相談とかに乗ってんだよー。いくら橘さんに構ってもらえないからって寂しすぎない?」

それを聞いて、葛西が吹き出した。某国立大学出というインテリヤクザのくせに、どこからどう見てもヤクザにしか見えない葛西は、見かけによらず笑い上戸なのだ。今も、笑いが止まらず、苦しげに腹を押さえている。

牛丸が、葵の頭を押さえつけて、すみません、しっかり躾しておきますんで、と、橘に頭を下げた。

「なんだ、そりゃ。リストラサラリーマンにグチでも垂れられたのかよ」

葛西が、笑いすぎて、目尻に浮かんだ涙を拭いながら言った。

もともと堅苦しいことが嫌いな橘の性格のせいなのか、橘組は、組長にも気安い舎弟が多い。

堅気の生活の方が長かった慧にとっては、気楽でありがたいことだが、こんなときは困ってしまう。

「え…、あの…、そうやなくて…」

しどろもどろでそう答えながら、慧は、余計なことを言った葵を睨みつけた。

当の葵は、なにを勘違いしているのか、俺はおまえの味方だぞ、と言わんばかりに、片目を瞑って、テーブル越しにウィンクを飛ばしている。

「なんだ、寂しかったのか、おまえ?」

橘が、にやにやと笑いながら、隣に座った慧の顔を覗き込んできた。

「ち、違…っ」

かーっと頰に血が昇るのが分かる。こんな風に紅くなったり青くなったりしているのはまずい。
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