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Killer Street

第五章『死ぬまできみを愛してる』6

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葵の綺麗な顔立ちは、ただの女顔というわけではなく、その辺のアイドルなら裸足で逃げ出すくらいの美貌だから、その顔を間近で見た男たちは、大抵、驚きを露わにしたり、顔を紅くして照れたりする。

しかし、あの時、山下公園で、斉藤と名乗ったあの男は、葵を目の当たりにして、なんの動揺も見せなかった。

「――おまえのツラを前から知ってたのかもしれねぇな」

自身の吐き出した煙に眉を顰めながら、橘が言った。

「――あ…」

慧は声も出なかった。

「会ったのは二回だけか、慧?」

笈川に鋭い声に尋ねられても、慧はうまく頭が回らなかった。

あの平凡なサラリーマンのような男が、橘の命を狙う殺し屋である、という事実がうまく飲み込めない。

慧の手の中で、繊細な指輪が鈍い色を放っている――

「お、俺…――っ」

「落ち着け、慧」

「で、でも――」

「ちゃんと思い出せ。会ったのは二回だけか?」

笈川の詰問に、慧は頷くだけで必死だった。

「お、俺――、また――…」

また――

まただ――

人の裏側の顔が分からない――人の隠し持った悪意に気づかない――

そうしてまた――橘に危険を招き寄せてしまう――

「俺――、ど、どうしよう…っ」

体の震えが止まらなかった。

また、自分のせいで橘を危険な目に遭わせてしまう。どうして自分はこんなにも間抜けなのだ。

自身の失態で、橘の存在をこの手の中から捥ぎ取られてしまうかもしれないという恐怖に、慧は心臓が凍りそうだった。

うまく呼吸もできない――慧は胸苦しさを覚えて、何度も息を吸い込んだ――手の中から指輪が落ちる。しかし、空気を求めてどれだけ喘いでも、その苦しさは楽にはならなかった――まるで、慧の周りだけ酸素が薄くなったかようだ。

短い呼吸を繰り返す慧に気づいた笈川が、はっとしてその背中を叩いた。

「バカっ、落ち着けっ」

青冷めた顔で苦しげに息を吸おうと、口をパクパクさせている慧のただならぬ様子に、腰を浮かしかけた葵に、笈川は短く、「過呼吸だ」と言った。

葛西が、舌打ちをしてから、ビニール袋をもらってこい、と言いつけると、葵は椅子を蹴り倒しそうな勢いで立ち上がり、店の奥に飛んで行った。

その時、突然、橘が慧の腕を引いた。強引に腕を引かれてよろけた慧の唇が、橘に塞がれた。

「――……っ」

橘の濡れた舌が、素早く慧の咥内に忍び込んだ。

唐突に、目の前で自分の愛人にくちづけを始めた橘に、牛丸たちも思わず息を飲んだ。

荒い呼吸が甘く塞がれ、目の前が一瞬、暗くなる。眩暈を覚えた慧は、背凭れに力なく体を預けた。

押しつけられる熱い唇と、流れ込む甘い吐息で頭の芯がクラクラする――

それでも、橘の吐息と、絡みつく舌が、慧の心を少しずつ静めた――実際には、塞がれた唇から過剰に酸素を吸い込めなくなったせいだろう。

橘の体が離れ、慧は目を開けた――呼吸も元に戻っている。

テーブルの脇で、店からビニール袋をもらってきた葵が、ぽかんと口を開けて、慧と橘を見つめていた。

「落ち着けってんだ、バカ」

慧の呼吸が落ち着いたことを確認してから、橘は、ふんと鼻を鳴らした。

「俺はまだられちゃいねぇ」

「たち…ばな…」

一時のパニック状態からは脱しても、不安が消えたわけではなかった。自分の隣でふてぶてしい表情を見せている橘から目を逸らすことができない。

その姿を見失えば、まるで魔法のように消えてしまうのではないか、という理屈に合わない錯覚に陥る。

微かに震えの残る手を抑え込むように、慧は両手組んで、テーブルの下で握り締めた。

「一臣、慧の周りに若いの集めとけ」

何事もなかったかのように煙草を咥えて、火を点けながら橘が言うと、笈川は無表情のまま、ふとテーブルの下に屈み込んだ。

体を起こした笈川の手には、慧が落としたあの指輪があった。

「――それはダメだな」

そう言いながら、笈川はその指輪をテーブルに転がした。

「ダメってのはなんだ。殺し屋が周りをうろちょろしてんだぞ」

橘の表情が、再び険悪なものになる。

「だったらなおさらだ」

気色ばんだ橘に、笈川は、冷静に返した。

「慧に近づいてくるならちょうどいい。陰から見張らせる。堂々と強面がウロついてたんじゃ、警戒されるからな」
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