スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←第五章『死ぬまできみを愛してる』8 →第五章『死ぬまできみを愛してる』10
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
【第五章『死ぬまできみを愛してる』8】へ  【第五章『死ぬまできみを愛してる』10】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

Killer Street

第五章『死ぬまできみを愛してる』9

 ←第五章『死ぬまできみを愛してる』8 →第五章『死ぬまできみを愛してる』10
***********

食事を終えて、店を出た橘組の面々は、それぞれ街へと散っていった。残った若い衆が、車を店の前まで移動してくる。それに、幹部たちが乗り込んだ。

焼肉屋の前に列をなした高級車の前で、橘は煙草を咥えた。

「冨樫」

「はい」

呼ばれた冨樫が、素早く組長の傍に寄る。

「慧を送ってやれ」

組長としての仕事があるときや、他の愛人との逢瀬など、理由はさまざまだが、橘も、四六時中、慧を連れ回しているわけではないから、慧を別の車で帰らせることは特に珍しいことではなかった。

慧も慣れているから、特に深く考えることをせずに、冨樫の後について車に向かった。

こういう時に深く考えないことは、すでに慧の習い性になっていた。

誰に会いに行くのか、どこへ行くのか――知ったところで、慧になにができるはずもない。知れば、自分が傷つくだけのことも多い。

だから、この時もなにも考えずに、慧は、冨樫と車に乗り込もうとした――その時、後ろから橘の声が聞こえた。

「一臣」

思わず、橘を振り返った。

黒塗りのメルセデスの後部座席のドアに手を掛け、橘は、振り向くようにして、笈川の方を向いている。

笈川は、一瞬の間の後、黙って橘の車へと歩き出した。ふたりが乗り込むと、車は静かに走り出した。

冨樫の車に乗りかけた姿勢のまま、慧はふたりを乗せて走り去るメルセデスを見つめていた。

仕事――かもしれない――橘と笈川は、ともに組長と若頭でもある――そこまで思って、慧はその考えを打ち消した。

仕事なら、他の舎弟も連れて行くはずだ。よほどのことでない限り、組長と若頭だけで行動することなどないことは、慧もこの半年の経験で学んでいる。

「慧?」

橘と笈川を乗せて去っていった車の姿が消えた通りを見つめたまま立ち尽くしていた慧に、冨樫が訝しげに声を掛けた。

「あ、ごめん」

我に返って、慧は、急いで車に乗り込んだ。

冨樫は、行き先も聞かず、慧を橘のマンションに送って行った。

部屋の明かりを点けると、冴え冴えとした空気が際立った。広いリビングは、まるで映画のワンシーンのように作り物めいて見えた。

慧は、ジャケットも脱がずに壁に寄りかかって、ぼんやりとそれを見ていた。

笈川の家に行ったのだろうか――それとも、密会用だという本牧のマンションへ――

考えても仕方のないことを、わざと考えてみる。

その都度、沸き起こる、胸の痛みをひとつひとつ噛みしめるように――

――他のどの愛人とも、笈川は違う

笈川は、橘にとって、けっして手放すことのできない存在だ――失うことのできない者――

その想いが、慧の心を、嫉妬と独占欲で黒く染めていく。

目を閉じて、その黒い欲望に身を任せた。

ちりちりとひりつくような心に、ふたりの姿が浮かんだ。

誰とも違う、代わりのない存在――

慧がどれほど願っても、到底、行き着くことのできないその場所に、笈川はいる。

そこから橘を奪うことなんて、きっと誰にもできないに違いない。

そして、こんなに醜い想いを掻き立てられているのに、不思議と、慧自身にも、笈川から橘を奪おうという気持ちは湧いてこなかった。

橘 裕貴には、笈川 一臣が必要なのだ――それだけは、分かる。

分かるから――苦しい――

笈川の代わりになりたいわけじゃない――

笈川のその場所を、奪いたいわけじゃない――

ただ、自分も、せめて橘にとってかけがえのない存在になりたいと願ってしまう――

橘の心は、誰にも手に入れられない、と思っていたが、そういう意味では、笈川だけは橘の心を手にしているとも言える。

それが、貞操を誓うことではなくても、橘の心の中に、笈川は常にいるのだろう。

俺はいるんやろか…――

そう思って、慧は、自嘲気味に笑みを浮かべた。

――おまえ以外の人間の命なんて、どうでもいい

笈川の言葉が蘇る。

それは笈川の本音だろう。真実、笈川にとって大事なのは、橘だけなのだ。

でも――そんなの俺かて、同じや…

慧だって、気持ちだけなら、けして笈川に負けたりなんかしない。

橘よりも大事に想う人間なんて――

そう思った瞬間、慧の胸に、妹の結佳の姿が去来した。

恋人の借金を返すために、橘組の管理する風俗店に勤めることを余儀なくされている、妹――

もしも、橘と結佳の命が天秤にかけられたなら――自分は、結佳の命を差し出すことができるのだろうか――
関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
【第五章『死ぬまできみを愛してる』8】へ  【第五章『死ぬまできみを愛してる』10】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【第五章『死ぬまできみを愛してる』8】へ
  • 【第五章『死ぬまできみを愛してる』10】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。