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Killer Street

第五章『死ぬまできみを愛してる』11

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**********

笈川は、橘とともに本牧の別邸の前で車を降りた。

ここは、橘が、行きずりの相手との密会などに使うために、笈川がわざわざ用意したマンションだった。

本能の赴くままに欲望を満たすことになんの躊躇もない橘は、後先を考えずに手を出して、後々、騒動を引き起こすことが、ままある。そんなとき、相手に自宅を知られているといろいろと厄介だから、という理由で、笈川はここを購入した。

これまでは、ふたりでこの場所に来ることなど滅多になかったのだが、橘の自宅に慧が同居するようになって以来、ここを訪れるようになった。

たかが情人イロの嫉妬など、気にする橘ではないが、慧は、マンションから追い出されてしまうと、行くところがなくなってしまう。

傍若無人な極道者にもそのぐらいの気遣いはあったようで、橘はしばしば笈川を伴って、別宅に来るようになった。

別宅と言っても、広さも十分にあるし、それなりの家具も設備も用意してある。

部屋に入った橘は、リビングのソファに体を投げ出すように座ると、いつものように煙草に火を点けた。

笈川は、スーツのジャケットを壁際に置かれた椅子に放ってから、氷を入れたグラスに酒を注いで、ひとつを橘の前に置いた。

焼肉屋でも飲んではいたが、きっと橘は飲み足りないだろう。

その予想は当たっていたようで、橘はなにも言わずに、目の前に置かれたグラスを取り上げて、笈川の用意した酒を啜った。

「――あの野郎、なにが狙いなんだろうな」

正面を見たまま、唐突に橘が言った。

「なんのことだ?」

「殺し屋野郎だよ。慧に近寄った狙いはなんなんだ?」

その問いを考えながら、笈川は自分の酒を一口、飲んだ。

「ターゲットの情報収集…」

「それにしちゃ、慧はほとんど俺のことを話しちゃいないぜ? 聞かれてもいねぇようだったじゃねぇか」

慧の話では、斉藤と名乗った殺し屋は、ほぼ一方的に自分の悩み(作り話に決まっているが)を打ち明けただけのようだった。

話の流れで、橘と慧の関係について尋ねた可能性はあるが、そこから得られるものが殺し屋に有益な情報とは、笈川にも思えなかった。慧から得られる話など、せいぜい、ターゲットである橘が無節操な極道者であるというくらいのものだろう。そんな情報なら、わざわざ情人である慧に接触などせずとも手に入る。橘の不埒ぶりも、相手に男も女も問わないことも、有名な話だ。

しかし、あれだけ腕のいいプロの殺し屋が、リスクを承知で、意味もなくターゲットの周囲に姿を現すとも思えなかった。

殺人快楽衝動でもあって、ターゲットを失って悲しむ関係者に、悪趣味な興味がある、という可能性も低いだろう。そんな衝動を持つような人間が、これまで安全に仕事、 、を遂行できた筈がない、と笈川は考えていた。

快楽殺人を行う者は、殺しそのものに抵抗はないだろうが、快楽を伴った行為には必ず隙が生まれる。その場の快楽に酔っていれば、注意力が損なわれるからだ。隙のある仕事には、綻びが生まれる。殺人者の綻びは、警察に簡単に嗅ぎつけられてしまうだろう。

殺し屋が、ターゲットの情人である慧に近寄った狙いは、被害関係者の悲しみや苦しみを間近に感じて楽しむ、というような類いのものではない筈だ。

慧の話からは、殺し屋――斉藤が有益な情報を得たとも思えない。盗聴器やGPSを付けられた様子もない――焼肉屋で、慧の衣服や持ち物は既に調べた。

だとすれば、殺し屋はまだ慧に接触した目的を達成していないのではないか、と笈川は考えていた。そうであれば、再び接触してくる可能性はある。

「プロの殺し屋が意味もなく姿を晒すとは思えねぇ。ヤツはまだ慧に近寄った目的を果たしちゃいねぇんだろうな」

橘は、そう言うと軽く肩を竦めた。

「おまえだってそう思ったから、慧をオトリにするつもりなんだろうが」

橘を誤魔化すことはできない。悪どい知恵に長けたこの男は、笈川の悪辣な意図を見抜いていた。次の接触を予感していたからこそ、橘は、慧を囮にすることに執拗に反対していたのだろう。

殺し屋の前に晒される可能性が高ければ、慧の危険も増す。

「――牛丸を…慧につけらんねぇか?」

笈川の顔を見ずに、橘はぼそりと呟いた。

「反対するって分かってるだろう」

間髪入れずにそう答えると、橘は髪をぐしゃぐしゃと掻き回して、舌打ちをした――苛ついているときのいつもの癖だ。その様子を見て、笈川は小さく息を吐いた。

「――牛丸だって、いくらおまえの命令でも納得しないだろう。牛丸が、命を狙われてるおまえの側を離れることを承知するはずがないからな――組長と情人の命じゃ――比べものにならない。――それに…」

そこで言葉を切って、笈川は橘の顔を横目で窺った。薄い唇を真一文字に引き結んで、橘は、床に視線を投げていた。

「――それに、慧だって、根性決めてるさ。あいつは――ビビっちゃいないと思うがな」

橘は、もうなにも言わなかった。視線を手元のグラスに落としたまま、黙って煙草をふかしている。

そのまま無言で煙草を吸い終わった橘は、笈川の顔を見ずに、浴室に姿を消した。
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