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Killer Street

第六章『悪魔の見る夢』11

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秋光は苦々しい表情で唇を噛んだ。

「――そう…でしたね――で、俺になにをさせたいんですか?」

「ちょっとモサがついちまってな――こいつのおもりを頼みたい」

橘はそう言って、顎で慧を指した。

「え…?」

慧が驚いた様子で顔をあげたが、驚いたのは笈川も同じだった。

「ちょっと待て、裕貴。一体、なんの話だ」

「こいつ以上に、うってつけのヤツはいねぇんだよ、一臣。こいつ――秋光は、斉藤の同業者だからな」

沈痛な表情で床を睨みつけている秋光から視線を外さずに、橘はにやりと嗤った。

「どういうことだ?」

笈川の問いに、橘は肩を竦めた。

「こいつの整体院の客筋はおまえだって知ってんだろうが。看板なんてロクにあげてねぇ。客は皆、口コミのゴロツキだ」

それは笈川も承知の上だった。

秋光 健太郎の経営する治療院は、外観からは一見して整体院とは分からない作りになっている。客は口コミで集まるゴロツキばかり――実際には音羽会の親分衆だから、実入りは悪くないはずだが。

しかし、極道の世界では、そういう営業形態自体は珍しい事ではない。どんな業種でも、ヤクザにおおっぴらに出入りをされて喜ぶ店主はいない。そういう店というのは、なんとなく口コミで極道者が集まり、店主もそれを当てにしているような、持ちつ持たれつの関係であることは、この世界ではよくあることだ。

そういう店の店主は、大抵が元極道者であったり、若い頃、ゴロツキ紛いのことをしていて暗黒街に顔が繋がる――秋光もそうだったということか――

しかし、笈川の考えを見抜いたように、橘はにやにやと嗤った。

「――おいおい、こいつは元ゴロツキなんて、かわいいもんじゃないぜ」

秋光は、あからさまに嫌悪感を浮かべたまま、視線を逸らしていた。

「こいつは、昔、ある組で殺しを専門に請け負っていたんだよ――好きでやってたかどうかは知らねぇがな」

男たちの視線が、リビングの入り口に立ったままだった秋光に一斉に集中した。

「――だよな? 秋光――」

名前を呼ばれた秋光は、深い溜息を吐くと微かに笑った。

「随分、昔の話を蒸し返してくれますね。この世界、他人の過去は口にしないのがルールじゃないんですか?」

「ばかやろう。てめぇは足洗ってカタギになったんだろうが。この世界のルールはてめぇにゃ適応外なんだよ」

橘は鼻で笑うと、灰皿に乱暴に灰を落とした。

「けど、俺もおまえの過去の話なんざ、興味ねぇ――でも、おまえは斉藤を知ってる…だろ?」

橘の言葉に、秋光は溜息を吐いた。

「つまり、敵を知っている俺を引き摺り込もうっていうことですか?」

それを聞いた橘が、にやりと嗤う。

「頭いいだろ?」

秋光は、諦めたように苦笑を漏らして、笈川と牛丸が囲むダイニングテーブルに歩み寄った。

「座っても?」

好きにしろと言わんばかりに橘が顎を軽くあげると、秋光は空いた椅子に腰を下ろした。

部屋中の男たちの視線が自分に集まっているのを意識しているのか、秋光はゆっくり周囲を見回してから口を開いた。

「――斉藤のことは良く知っています。こんな世界ですからね、顔突き合わせて仲良く喋ったことがあるなんてことはないですが」

秋光は、自嘲気味に笑みを漏らした。

「橘さんはご存知でしょうが、俺があの世界から足を洗ったのはもう五年も前になりますけど、あの頃から斉藤はちょっとした有名人でした」

誰も顔を知らない、どこにいるかも分からない、連絡方法すら――それでも裏の世界で殺しの依頼があるという噂が拡まれば、彼は現れる。

ご依頼主はあなたですか――?

ターゲットの写真に添えられた短いメッセージ――お間違いがないようでしたら、依頼をお受けします。報酬は、仕事が終了したあかつきに――

斉藤が、報酬を逃すことはなかった。彼は受けた依頼は必ず完遂する――失敗はない。

「――斉藤は、職人気質なんです。殺しを楽しんでいるわけでもない。堕ちるところまで堕ちて、もう逃げられないからと、否応なしにこの仕事をしているわけでもない――あいつはただ、数多くある職業の中から、自分の能力を最大限に生かせる仕事として、殺し屋を選んだ――それだけの男です」

秋光の眉根が微かに顰められた。

もう逃げられない状況のなかで、殺し屋として働いていたのは、かつての自分か、と笈川はちらりと考えた。本人はそう言いはしなかったが、そういう男は多い。

軽い気持ちでヤクザの組に出入りをして、気がつけば、汚れ仕事を引き受けさせられている。一度、成り行きで人を殺めてしまえば、後は堕ちていくだけだ。

これが出世の第一歩だと、見定めているわけでもなく、ただ惰性で街の獣に利用されるだけ。一度、引き込まれた世界から逃れるのは難しい。あとはただ、流されるままに、自分にはなんの得にもならない汚れ役を引き受けていく羽目になる。そして、そういう便利な人間を、外道のヤクザは決して手放したりしない。

現在の秋光に、どうして音羽会の親分衆が上得意についているのか、その理由が笈川には推測できた。

おそらく、秋光の足抜けに、音羽会の親分の口利きがあったのだろう。そこから秋光は、完全な堅気とは言えずとも、少なくとも人間の隅っこに這い上がることができたのだ――少なくとも、もう誰の命も奪わなくてもいい場所に――

笈川は、黙って秋光を見つめていた。
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