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Killer Street

第七章『飢えた体と愛の疵』3

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結局、秋光に押し切られるかたちで、慧はサラスヴァティを出た。葵も、秋光に負けじといった様子で、仏頂面のまま、ついてくる。

秋光は、慧の前を歩きながら大きく伸びをした。

「慧さん、斉藤に会ったのは山下公園ですよね?」

秋光の問いに、慧は頷いた。

「じゃあ、山下公園に行ってみましょうか。もしかしたら斉藤に会えるかもしれませんよ?」

そう言って、秋光は悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。

再び同じ場所で、斉藤が慧に接触してくるなどという都合のいいことを、誰も本気で考えたわけではないだろうが、それでも三人は、歩いて山下公園までやってきた。

午後の日差しの中でも、海を渡ってくる風はすっかり冷たくなっている。慧は思わず、肩をすぼめた。

しかし、室内に籠っているよりはずっと気分がすっきりした。冷たい風が、慧の淀んだ心をほんの表面だけでも洗い流してくれるような気がする――現実には状況はなにひとつ変わっていないのだけれど――

葵も、慧の隣で気持ちよさそうに、海に顔を向け風に吹かれている。

「――ずっと気を張ってると、疲れちゃいますよね」

秋光はそう言って、慧を見た。

「そうでなくても慧さん、橘さんと一緒に、家にいたんでしょう? 慧さんの方が橘さんよりは忍耐力ありそうですけど、やっぱりずっと籠ってたんじゃ、参っちゃいますよ」

秋光の言うとおりかもしれない。殺し屋に繋がる糸口も見つからず、橘の身を心配しながら、慧自身もまたずっと緊張していたのだ、と今さらながら自覚する。

慧は、頰をなぶる海風にそっと目を閉じた。

「――あいつと会ったとき、葵くんも一緒だったんだよね?」

葵もすっかり気分が良くなったのか、秋光の問いに、屈託なく頷いた。

「うん」

「どんな様子だった?」

葵は、斉藤と会った時のことを思い出すように、ちょっとの間、天を仰いだ。

「前も言ったけどさ、どこにでもいるような特徴のない顔だったじゃん?」

「慧くんと話している態度とかに不自然なところはなかったの?」

葵は、困ったように頭を掻いた。

「それがさぁ、あいつ、俺には聞かれたくないみたいなカンジで、慧にピタってくっついてちっちゃい声で喋ってたじゃんか。細かい話とか、聞こえなかったんだよなぁ」

慧も、斉藤の秘密めかした態度には気づいていた。その時は、話の内容が、ふたりのプライベートな恋愛についてだったからだ、と思っていたのだけれど。

「――なるほどね。そうやって自然に側によることで、慧くんに気づかれずに指輪を戻したってことか」

秋光が言うと、葵が鼻に皺を寄せて、げーっと舌を出した。

「わざわざ指輪を返すなんて、マジ、気持ち悪ぃ」

露骨に嫌悪を露わにした葵を横目に、秋光はふっと薄い笑みを浮かべた。

「わざとやったんだよ。自分の行動が不自然であることを、あえて知らせたんだ、 、 、 、 、 、 、 、 、――殺し屋は自分だ、と慧くんに分からせるために」

ふたりの会話を傍で聞いていた慧は、あらためて背筋に冷たいものを感じた。

意図的に自分の存在を知らしめようと、殺しの標的の前に堂々と姿を現す斉藤の行動は、目的が分からないだけに不気味だ。

「イカれてやがるぜ」

葵が綺麗な顔を歪ませると、秋光は肩を竦めた。

「――人殺しを生業にしてる奴らなんて、皆、イカれてる」

それからふと、秋光は真顔になって呟くように言った。

「――イカれてなくたって、続けていればそのうちイカれてくる」

なんでもないことを話しているように平坦な秋光の声音に、ほんの少しだけ影が射したことに慧は気づいた。

――人殺しを生業にしている奴らなんて、皆、イカれている

それは、秋光自身のことか――

殺人が精神を蝕む行為だということぐらい、慧にだって予想はつく。

秋光 健太郎もまた、人の命を奪うことを仕事にしていた。

海の方を向いて、その波間を見つめている今の秋光の横顔は穏やかで、その過去を思わせる影は微塵もない。

その行いが彼の精神を歪ませたとしても、きっと決定的なところまでそのひずみは届かなかったのだろう――だから――その行為に痛める心が残っていたからこそ、秋光はその世界から足を洗いたいと願ったのではないか。

人としての心を持ったまま、他人の命を奪う行為は、きっと秋光を苦しめたに違いない――

「――良かったですね…」

思わず口を突いてしまった。

「あ、あの、すんません。ヘンな意味やなくて…その…だって…、あ、秋光さん、辛かったでしょ…そんなこと…――」

そこまで言って、慧は後に続ける言葉を失った。

自分は本当に莫迦だ――

秋光は自分の過去を語っていたわけではない。これは斉藤の話だったのに。その話を聞いて、慧が勝手に、秋光の過去に思いを馳せただけだ。

それを口に出してしまって――なにもわざわざ、秋光の過去をほじくり返す必要なんてなかったのに――

秋光の過去は、そんな簡単な言葉で語れるものでもないだろうし、相手を選ばずには吐露したいものではない筈だ。それなのに、それを蒸し返すようなことを言うなんて、自分のデリカシーのなさに呆れる。
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