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Killer Street

第八章『消せない疵痕』2

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「――慧…――さん?」

不意に声を掛けられて、慧は飛び上がるほど驚いた。

「ここにいたんですか。探しちゃいましたよ」

橘さんのご自宅がこんなに広いなんて知りませんでした、と言いながら、秋光が部屋に入ってきた。

「全然、使ってない部屋もいっぱい…――慧さん? どうしたんですか? 真っ青ですよ」

「だ…大丈夫です」

自分の禍々しい想像が見透かされるような気がして、慧は顔を背けた。

しかし、秋光は素早く近寄ると、

「大丈夫じゃないでしょう。――座ってください、今にも倒れそうな顔色じゃないですか」

と、慧を無理矢理、ベッドに座らせた。

「――慧さん、最近、あんまり食事も摂ってないから…」

そう言いながら、秋光は少し困ったような顔で微笑んだ。

そう――だっただろうか――

食事を摂っていないなんて自覚はなかった。

橘は、ヤクザが健康に気を使ってなんかいられるか、とほとんど酒とコーヒーと煙草で生きているような不健康極まりない食生活だが、慧は今までの習慣で、割ときちんと三食、食べているつもりだった――まぁ、生活時間帯はこれまでとは大分、変わってしまってはいるけれど――

「自分で気がついてないんですか? 食事に行っても、ほとんど食べてなかったでしょう」

秋光は仕方がない、という表情で溜息を吐いた。

「なにか作ってきますから、少しここで休んでいてください」

秋光は部屋から出て行こうとして、ふと振り返った。

「それとも、下の部屋の方が休みやすいですか?」

そう言われた途端、自分の頰が熱くなるのが分かった。

私物はこの部屋に置いてあっても、慧がこの部屋で寝泊まりすることはほとんどない。普段、慧が寝起きしているのは、橘の寝室なのだ。秋光は、生活感のない部屋の様子からそれを感じ取ったのだろう。

そんな自分と橘との生活を、秋光に見透かされている気がして、慧は羞恥を覚えて俯いた。

その様子を見ていた秋光が、ふとしゃがみ込んだ。

「――斉藤に渡された指輪ですか?」

秋光の掌に、慧が落とした指輪が乗せられていた。

黙ったまま頷く。

ふと秋光から小さな溜息が聞こえた。

「――慧さん――人を殺すってどういうことか、分かります?」

慧は顔をあげた。秋光は、慧ではなく、指輪を見つめている。

「――初めの一回は、手が震えますよ。ただ恐ろしくて…吐き気が止まらない。生きていないってだけで、人間がこれほど異物に見えるなんて思いませんでした」

秋光は、ちっとも楽しそうではない笑みを零した。

「ついさっきまで生きていたときには、たとえ知らない相手であっても、それは自分の良く知っている『人間』というものだったのに、命がなくなった瞬間…、あんなに気持ち悪いもの、 、はないですよ…」

秋光の顔が嫌悪に歪んだ。

「その人の人生を奪ってしまったことへの後悔とか、そんな大げさなことじゃないんです。目の前に倒れている、もう人間ではなくなってしまった異物が、ただ恐ろしくて堪らない…」

秋光は暗い視線を指輪に落としたまま言った。

その気持ちは慧にも理解できた。

橘に出会うきっかけになった音羽会おとわかいの内部抗争事件で、慧は初めて死体、 、を間近に目撃して、それに触れた。

ほんの数秒前まで、汗を流し、命乞いをしていたその男は、数発の弾丸で、命を持たない物体、 、となった――橘の放った弾丸で――

橘は――なんの躊躇もなく、自身に牙を剥いた兄貴分を射殺した――後悔も恐怖も見えなかった。

「――どうして…――秋光さんはどうして…そんなことに…?」

秋光は、もともと堅気の柔道家だと聞いていた。人生を格闘技に捧げていたまっとうな若者が、なぜ暴力団などと関わりを持つようなことになり、殺し屋などという非日常的な世界に巻き込まれることになったのか――

秋光は、ふっと息を吐いてから言った。

「よくある話ですよ。些細なことで、酒場でチンピラにケンカを売られて…。俺も相当、酔っていたんでしょうね…、その頃は酒の飲み方もまだろくに知らないガキでしたから――頭に血が上って、向かってきた何人かを投げ飛ばしたことは覚えているんですが…」
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