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Killer Street

第八章『消せない疵痕』3

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そこで言葉を切ってから、秋光は慧を見た。

「――気がついたら相手のチンピラは死んでました」

慧は秋光を見上げた。一八〇センチ近い自分より、さらに背は高く、体の大きさともなれば、華奢な慧よりも一回りは大きい。現役の選手だった頃は、きっと筋肉の量も今よりずっと多かったに違いない。慧は秋光の厚い胸板をぼんやりと見ながら、そんなことを考えた。

「運の悪いことにそいつはただのチンピラじゃなくて…下っ端でもカンバン持ち*20だったんですよ」

秋光はそう言って苦笑した。

「相手がヤクザじゃ運が悪い。下っ端だろうがなんだろうが、カンバン持ちを殺してしまったんでは…ケジメを取られてしまいます」

「警察には…行かなかったんですか?」

慧は静かに尋ねた。

格闘技の有段者が素人相手に乱闘をすれば刑は重い、と聞いたことはある。それでもヤクザ相手の喧嘩の果てのことならば、事故だ。自首という選択肢もある。

「それは後から思いました。でもその時は、そんなことを考えることもできませんでした…もう混乱して…――きっと自分がしてしまったことが怖かったんですね」

開けたままのドア枠に寄りかかるようにしながら、秋光はふと自嘲気味の笑みを漏らした。

「その場にちょっと目端の利くチンピラが同席していたのが、運の尽きですね――どうも、目をつけられてしまったんですよね」

目をつけられた――それは、秋光の身体能力だろう――圧倒的な強さ――人の命を断つ能力――

「落とし前をつけてもらうか、そのチンピラと一緒にこのままおネンネかと迫られましたよ」

今思えば、その場で断って警察に行くこともできた筈でした、と秋光は冷静に言った。

しかし、その時には正常な判断力がなかったのだろう。

それは慧にも、容易に想像できた。

目の前には自分が殺してしまった死体があり、それを目撃したヤクザにおまえも殺してやると脅されているのだ。パニックにならない方がどうかしている。

ヤクザの言うケジメの内容がどうであれ、少なくとも言うことを聞けば殺されることはないらしいと考えた秋光は、諦めてヤクザの男たちについて行った。

「今となっちゃ本当にバカみたいですが、あの時の俺はまだほんのガキでね。警察に行くことも、殺されることも――怖かったんですよね」

秋光は腕を組んで薄く微笑んだ。

「そんな…。怖くて当たり前やと思います。――誰だって、死ぬのは怖いです」

「――惜しむような命だったんでしょうか…」

不意に秋光の顔から笑顔が消えた。

それから小さく溜息のような息を吐いて、秋光は髪を搔き上げるような仕草をした。

「殺しの仕事を始めて…手が震えたのは最初だけでしたよ。慣れるまでそんなに時間は掛からなかった」

秋光は、自分の大きな手を目の前で開いてそれを見つめた――今は、人を癒す治療師の手――

「この手で人の命を断つことに、恐怖も疑問も抱かなくなる。――そうなれば、ただの――仕事、 、です…」

その乾いた声に、慧の肌が粟立った。その声は、整体師としての今の秋光 健太郎からではなく、数年前の殺し屋から発せられているように感じられた。なんの感慨も抱かずに、命をもぎ取る冷酷な殺人者――

「――心が麻痺して、なにも感じなくなる。目の前で今、まさに命が消えた――自分が消したっていうのに、そんなことはどうでも良くなる…」

秋光は、掲げた手をそっと下ろして、ふと慧を見て、薄い笑みを浮かべた。

「…そして、怒りと憎しみで体中がいっぱいになるんです」

「秋光さん…」

「そうなれば、こんな仕事はもっと簡単になる。その怒りと憎しみを、殺す相手にぶつけるだけだ――おまえのせいだ、おまえのせいだってね」

秋光から、自嘲気味の笑みが漏れた。

「俺に殺された奴らからしてみたら、まったく理不尽な言い草ですよ。殺された挙句に恨まれる――本当は誰のせいでもない――俺自身が選んだ…俺自身のせいなのにね…」

窓から入る夕暮れの紅い陽射しを頰に受けながら、秋光はまるで独白のように続けた。

「――人は命があっても、死ぬってことがあるんです」

秋光はベッドに腰掛けた慧をまっすぐに見つめて言った。

「人を殺すことに心が痛まなくなるほど、内側のどこかが死んでいくような気がしました。人の命を奪っても、もうなにも感じなくなって、それでも生きていると言えるんでしょうかね…」

そして秋光はふと笑みを漏らした。

「こんなになってもまだ、俺は自分の命が惜しいんですよ…本当に悔やんでいるのなら、今からだって俺は警察に出頭するべきなんでしょうが…、捕まったら確実に死刑でしょうからね」

そのまま秋光は黙ってしまった。

「そんな――…」

沈黙に耐えられずに、慧は思わず立ち上がった。

「何人も殺しておいて、自分だけは死にたくないなんて…こんなヤツに生きる価値なんてないんでしょうがね」

秋光は苦しげに顔を歪ませていた。



*20…組に所属するヤクザ。
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