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Killer Street

第八章『消せない疵痕』8

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ロゼから帰宅した慧は、寝る支度をした後も、薄暗いリビングでぼんやりとソファに座っていた。

橘は一緒に戻っては来なかった。

ヤボ用だ――そう言って、橘は慧に秋光をつけて、自分は若い衆と別の車で、どこかへ行ってしまった。

やっぱり、殺し屋の行方に、なにかしらの進展があったのかもしれない。

他の愛人との密会ならば、あんなに組員を従えて行ったりはしないだろう。

もう深夜もとうに回っていたが、奇妙に頭が冴えてしまっている。

――おまえが傍にいることが橘さんの望みだ

葛西の惚けた、にやついた顔が浮かんだ。

橘を守りたい、という想いに偽りはなかった――好きだから、失いたくない。

それでも、橘がどんな極悪人か分かっていないわけではなかった。

結佳にどんな仕打ちをしたかも、忘れたことなどない――

それでも、あの男から離れることができない利己的な自分の浅ましさ――

秋光に、命を懸けて守るに価する人間なのか、と問われて、橘の狂気を恐れつつ、それでもそんな男だと分かっていながら、こんなに愛してしまっている自分に自己嫌悪を覚えていた。

それが――

慧は、葛西の目を盗んでロゼからこっそり持ち帰ったナプキンを見た。

橘 裕貴命。

慧は、たった一言――葛西にたった一言、言われただけで――自分がどれだけ自分勝手な人間か、などという悩みが吹き飛ばされてしまっていることを悟った。

――おまえが今のまま、橘さんの傍にいりゃあ、それがあの人の望みだろう

なんの確証もない。

それはただの葛西の推測に過ぎない――

それでもそんなことで――そんな一言で――自分は喜びに舞い上がってしまっている。

偽善者――

橘の悪辣さを思って、妹、結佳への仕打ちを憎んで――それでも止まらない想いの浅ましさを嫌悪して――

それなのに――もしかしたら橘に望まれているのかもしれない――そんななんの確証もない推測を匂わされただけで、こんなに――嬉しいなんて――

「――…ちょっと…、熱でもあるんじゃないでしょうね?」

不意に大きな手で額に触れられて、慧は飛び上がりそうになった。

「やめてくださいよ。俺がひとりで面倒見てるときに、熱でも出されたら、橘さんが斉藤にやられる前に、俺が橘さんに殺されちゃいますよ」

顔をあげると、秋光 健太郎が顔を顰めて慧を覗き込んでいた。

「ね、熱なんてないですよ」

額に当てられた手から顔を避けると、秋光は肩を竦めた。

「でも顔が真っ赤ですよ――そんなに飲んでましたっけ?」

慧は、慌てて両手で頰を擦った。顔が紅いのは、熱のせいではない。莫迦みたいな妄想のせいだ。

「だ、大丈夫です――それより、まだ起きてたんですか?」

「――一応、用心棒としてここにいますからね」

話を逸らすつもりでそう言った慧に、秋光はDVDデッキのデジタル時計に目を向けながら答えた。

もう、夜中の三時になる――まだ橘は戻らない。

「――慧さん、いつもそうやって起きて待ってるんですか?」

「え?」

「あの人は、毎晩、いい子に帰ってくるような男じゃないでしょう? それでもそうやって起きて待ってるんですか?」

そう言って、秋光は、慧の手にあるナプキンにちらりと視線を送った。

「そんな…」

橘 裕貴命――そんなことが書かれてあるナプキンを後生大事に持っていることが恥ずかしくて、慧は慌ててそれを体の脇に隠した。

別に――橘の帰りを待っているわけではない。

橘が、いつもこのマンションに帰ってくるわけではないことなど、秋光に言われなくても、慧が一番、良く知っている。

橘には多くの愛人がいて、その日の気分で相手は変わる。

慧にだって分かっているから、橘がどこかへ行ってしまった日まで、それをわざわざ待っていたりなんかしない――眠れずにいることはあるけれど――

「――待ってたりなんか…しないです」

これまでのなにもかも捨てて、この身ひとつでこの世界に堕ちた慧に、橘以外のなにもない、と見透かされているような気がして、秋光から目を逸らした。

――今さら、プライドなんてないけどな

不意に自分の頭上で影が揺れて、慧は顔をあげた。

ソファの背に手をかけて、慧の上に屈み込むように覗き込んでいる秋光と目が合う。覆い被さるような形で近づいている秋光に怯んで、慧は思わず後退さった。

「逃げることないでしょう」

平静なまま、秋光が言った。

「…に、逃げてなんか…――」

けれど、実際、慧はその場から逃げ出したい衝動に駆られていた。

得体の知れない恐怖――まるで肉食獣の前にいるような――に、ぞくりと体が震える。

いつも物静かで、人を癒すような気配を纏っている秋光とはまるで別人のようだ。妙に落ち着かない空気が流れる。

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