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Killer Street

第八章『消せない疵痕』14

 ←第八章『消せない疵痕』13 



自分の周囲の物、人――に愛着のない人間――

 

こんな人間は、自分自身の存在について、どう感じているのか――

 

裕貴のような人間は、自分自身にも執着がないのだろうか――

 

ふと、斉藤はそんなことを考えた。

 

これまでの仕事の中で、何人かの対象者はその死の瞬間、恐怖を顔に浮かべ、殺さないでくれと懇願する者もいた――残りは己れの死にも気づかないまま死んでいったから、それらの対象者については分からないが。

 

これまで経験によって、どうやら人は、死に対して恐れを抱いているらしい、と斉藤は学習した。

 

人とは死にたくないもの――

 

斉藤にとっては新鮮な驚きだったが、だからといって仕事をしないわけにはいかない。それは依頼主との契約違反になってしまうし、斉藤の信用にも関わる。

 

不思議なことにこの傾向は、他人の命を軽んじている者ほど、強いようだ。

 

悪事のすべてを秘書に押しつけて、首を吊らせた政治家――

 

金と欲で塗れ、のし上がるためには人殺しも辞さないヤクザ――

 

自分は簡単に他人の命を奪うのに、己れの命の最期に涙を流して命乞いをする――

 

裕貴はどうなのだろう。

 

裕貴もヤクザである。人の命を奪ったことだってあるだろう。

 

他人の人生を踏み台にして生きてきたこの男は、自分の命が奪われる瞬間、どういう表情を見せるのだろうか。

 

なににも執着心を見せない男は、己れ自身、その生にも執着はないのだろうか―― 裕貴は死を恐れないのだろうか――

 

だとしたら――

 

斉藤の仕事は意外に簡単に済むのかもしれない。

 

そこまで考えて、斉藤は苦笑した。

 

仕事に対して、そんなに楽観的な考えではいけないだろう。

 

仕事というものは、常に最悪のケースを想定し、真面目に取り組むべきものだ。

 

人は働かなければいけない。

 

それに、あの夜、橘 裕貴を狙った晩、たまたま銃弾を受けなかった橘 裕貴の瞳は怒りに燃えて、襲撃者を追っていた。暗闇に潜んだ自身を捉えることはできなかったにしても、あの瞳は明らかに獲物を狙う狩猟者の瞳だった。

 

ということは、橘 裕貴は死を許容してはいないということだ――それとも許せないのは己れを狙う者の存在か――

 

いずれにしても、自身の死をあれだけ身近に感じながら、恐怖ではなく怒りを向けてくる標的は珍しい。

 

そこに興味を惹かれて、斉藤はつい先日も対象者の前に姿を晒してしまった。日頃は仕事中に、自分の好奇心を満たすような行動は慎んでいるのだが、あの夜、斉藤が感じた標的の怒りは気のせいではなかったことを確認したかったのだ。

 

そして、気のせいではなかった――料理屋の人混みの中で斉藤の姿を見とめた橘 裕貴は、己れの命を狙う者を目の前にして、逃げ出すわけでも、恐怖に怯えるわけでもなく、逆に斉藤を狩ろうと飛び出してきた。

 

狩られる者が、狩る者に逆に牙を剥く、そんな獲物は、初めてだ。

 

斉藤はこみ上げる笑みを噛み殺した。

 

狩猟者に牙を向ける獲物は、その最期の瞬間、どんな表情を見せるのだろう――

 

あの男を―― 裕貴を仕留めるその瞬間、もしかしたら、またひとつ、なにかを学べるかもしれない――

 

向かいの道路を歩いていく橘を見つめていた斉藤の視線が、標的の後ろをのんびりと歩いている春海 慧の姿を捉えた。

 

慧の姿を目に留めた斉藤は、無意識に自分の頬を撫でた――逸れた弾丸――あの時、斉藤が静かに放った銃弾は、標的の額にまっすぐ吸い込まれる筈だった。

 

あの男がよろけて標的を押したりしなければ――

 

弾丸は、春海 慧の頬を掠めて、車の窓ガラスにめり込んだ。自分の頰が銃弾に切り裂かれたにも関わらず、それにも気づかずに、橘 裕貴に地面に引き倒されていたあの男のまぬけな姿を思い出す――傷がない筈の斉藤の頰が、ちりっと疼いた。

 

あの一件で、自分の命が誰かに狙われていることを、標的に知られてしまった。

 

その後、しばらく橘 裕貴は姿を眩まし、(自宅に隠れていたことは知っている)周囲への警戒を強めた。今も橘 裕貴の周囲には、通常以上の数の舎弟が、用心深く辺りに目を光らせている。

 

暴力団組織の組長にも関わらず、橘 裕貴があまり人を引き連れて出歩かないことは、調査済みだった。だから、この仕事は、本当はもっと迅速に、そしてもっと簡単に済む筈だったのだ。

 

そこでふと斉藤は気がついた。

 

裕貴は他の極道者の例に漏れず、幾多の愛人を抱えている。

 

それなのに――自宅に住まわせ、日々、連れて歩くのは、あの春海 慧だけだ。

 

面白い――と斉藤の殺し屋としての勘が告げた。

 

誰にも、なににも執着のない橘 裕貴という男が、あの春海 慧に対してだけは予測を外した行動を取っている。

 

面白い――

 

もしかしたら、自分の仕事をあんな間抜けな形で邪魔をしたあの男が、斉藤を標的に導いてくれるのかもしれない――

 

再びちりっと疼いたなんの傷もない筈の頬を抑えて、斉藤は小さく笑みを漏らした。






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