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Killer Street

第八章『消せない疵痕』6

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慧は、袋小路に入ってしまった思考に疲れを覚えて、自分のグラスを片手にスツールから立ち上がった。隣にいた秋光の視線が自分の動きを追っているのを背中で感じたが、秋光もなにも言わず、追いかけてもこなかった。

所在無げにグラスを片手に、薄暗い店内に視線を彷徨わせていると、笈川たちの後ろのボックス席にいた葛西と目が合った。向かい側にはサラスヴァティでよく顔を合わせる舎弟が座っている。

慧は、目顔でこちらに来いというように笑みを漏らした葛西のテーブルに近づいた。

「座れよ」

と、葛西は、顎をあげて向かいの席を示した。

それを合図にしたかのように、そこに座っていた舎弟が立ち上がった。サラスヴァティで組の事業部門に携わっているその舎弟は、葛西と慧に一礼すると、その場から立ち去ってしまった。

席を外させるつもりではなかった慧は、その後ろ姿を目で追いかけたが、舎弟は、携帯電話を片手に店の外に出て行ってしまった。

追い出すようなかたちにはなってしまったが、それをきっかけにして、しなければならない仕事もあるようなら、もういいだろうと割り切って、慧は葛西の向かい側に腰を下ろした。

「浮かねぇ顔だな」

煙草に火を点けながら葛西は言った。

慧は黙ったまま、半分ほどに減ったスクリュードライバーのグラスに口をつけた。

葛西は、笈川の片腕として、橘組事業部門を仕切る幹部組員である。

ただ橘に囲われるだけの愛人の立場を厭って、ささやかながら組の仕事を手伝おうとしている慧にとっては、上司のような存在だ。

もちろん慧は組員ではなく、組長の愛人という立場だから、葛西からの扱いも他の舎弟たちとは違う。鉄拳制裁など受けたことはないし、なんなら怒鳴られることすらない。

葛西は、国立大卒のインテリヤクザとはいえ、若い頃から組事務所に出入りしていた筋金入りの極道者である。強面だし、どこからどう見てもヤクザにしか見えない。

だから慧は、葛西が他の舎弟を殴り飛ばしているところも見たことがあるし、事務所での作業中にドスの効いた怒声が響いて、飛び上がったこともある。

けれど、慧自身は、まぁ、葛西には甘やかされているな、と感じているから、仕事の上では指示を仰ぐ上司のようでいても、実際には他の組員たちに比べれば、近しく感じている存在でもある。

「当たり前か」

無言のままの慧の返事を待たずに、葛西はふんと笑った。

「一日中、てめぇの身を危険に晒してうろついてりゃ、疲れもするわな」

そうではない――

殺し屋の接触を待って、囮として動き回ることに、慧はそれほどのストレスを感じていなかった。

死にたいと思っているわけではないが、今、慧を悩ませているのは、自分の身の危険ではなかった。

そうではなくて――極悪人だと分かっている男を、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
自分のすべてを危険に晒せるほど愛してしまっている、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、という現実だ――

いくら考えても仕方がないことなのに――

もう答えは出てしまっているのに――

どれだけ考えても、結佳の仇だと知ってはいても――橘を失うことだけはできない――

そんな繰り言を言葉にする気にもなれなくて、慧は意味もなく首を横に振った。

「…そんなことはないんですけど…」

「――じゃあ橘さんの身が心配か?」

葛西は、薄く笑った。

「それだけ心配してもらえりゃ、橘さんも男冥利に尽きるってもんだぜ」

葛西は煙草の灰を灰皿に落としてから、意外なことを言った。

「俺たちゃヤクザだからな。情人イロってのは、いて当たり前ってとこはあるが、てめぇの代わりに死んでもいいなんて情人にゃ、そうそうお目にかかれるもんじゃねぇからな」

葛西は冷やかすように慧に向かって片目を瞑ってみせる。

そういえば、昨夜、橘にもそんなことを言われた。

――命を投げ出してるのはおまえだ

男冥利に尽きる――葛西はそう言うが、橘は慧のしていることを喜んでいるようには見えなかった。

――おまえになにができる…人を殺したこともないくせに

橘の傍にいるために堅気の世界は捨てたとは言っても、堅気の価値観を完全に消し去ることは難しい。

ましてや人を殺すなんて――慧には考えられないことだ。

たとえ橘を助けるためだとしても、自分に人が殺せるとは思えなかった。

どうしてもそこが――橘と自分の決定的な違いだと思い知らされる。

慧に人は殺せない。

それだけ違うと分かっていながら――それでも橘のためなら、自分なんかどうなっても構わない、と思ってしまう。

感謝もされへんのにな――
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