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Killer Street

第八章『消せない疵痕』13

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その日の夕刻、斉藤は、横浜の繁華街の一角にあるコーヒーショップにやってきていたた。レジでセルフサービスのコーヒーを受け取って、通りに面したカウンター式の椅子に腰をおろし、手元の携帯電話を眺める振りをする。

誰もがやることだ――斉藤は誰でもやることをやる。人目につかず、不審に思われず、誰の記憶にも残らない行動――

斉藤は子どもの頃からそうだった。教室でも、家でも、誰の注意も引かない――斉藤がいてもいなくても、親も先生も級友たちも、誰も気づかない――

殺し屋としての自分にとって、これほど最適な才能があるだろうか。斉藤はゆっくりとコーヒーを啜った――旨いとも、不味いとも感じなかった。

ネオンと街灯が照らし出す通りに目指す人物を認めて、斉藤はその人物を視線だけで追いかけた。

デニム地のジャケットのポケットの片方にだけ手を突っ込み、だらしなげな様子で通りを歩いてくる――橘 裕貴――

依頼を受け、調査を開始したときも思ったが、橘 裕貴は暴力団組織の組長らしからぬように斉藤には見えた。年齢が若いということもあるだろうが、それだけではない。

仕事柄、斉藤は暗黒街の重鎮を良く見知っている――もちろん、相手は斉藤が殺し屋であるなどとは夢にも思っていないだろうが――

斉藤が良く知る裏街道の顔役たちと橘 裕貴は、なにかが違って見えた。

橘 裕貴は、他の親分衆のように金の掛かる趣味は持ち合わせていないようだった。

もちろん、夜の街に繰り出し、組長のメンツを維持する程度の金は使う。着ているものや持ち物も、カジュアルではあるが、良く見れば金の掛かった品であることは分かる。

しかしそれは、ヤクザとしての仕事のようなもので、橘 裕貴も夜の蝶たちにチヤホヤされて、それを本気で喜んでいるようには見えなかった。

色や欲に興味がない――わけではないだろう。現に橘 裕貴は、調べあげるのが大変だったほど、数多くの愛人たちを抱えている。

艶事に興味がないわけではなさそうだ。ただ――そう、橘 裕貴には、執着が感じられないのだ。

欲は人の倍ほどはありそうなのに、橘 裕貴という男は、そのどれにも執着していない――人にも物にも――

広域指定暴力団組長という立場の人間が標的だったから、もしかしたら仕事が難しくなる可能性があった。ヤクザというのは、敵の多い商売だ。だから命を狙われることを想定して生活している。日常的にそういう用心をしているターゲットというのは、仕事の遂行を難しくする。

だから、斉藤は橘 裕貴の周辺の人物を念入りに調べた。斉藤には、まったく理解ができないことだが、人はなぜだか時として、自分の命よりも近しい人間の安全を優先するような行動を取ることがある。だから、橘 裕貴のケースも、愛人の誰かを利用して標的をおびき出すことも必要になるかもしれないと考えた。

もっとも、相手が誰でも、個人的な人間関係を重要に捉えて、助け出そうとする人間というのはいるものだが、橘 裕貴がそういう種類の人間であるという保証はない。そんな不確実なものを仕事に利用することはできない。だから、確実にターゲットの弱点になりそうな人物を探し出せるか、と調べてはみたが――

結局、誰一人、橘 裕貴をおびき出せるほどの価値がある、 、 、 、 、と特定するには至らなかった。

橘 裕貴の執着心のなさは、人間関係だけに限らないようだ。

対象者が執着している物、事、場所、というのは斉藤のような職業の者にとっては非常に重要な情報だ。

人は大事に思っているものを破壊されると、理性的な行動が一時的に停止する。感情的になり、隙が生まれる。その瞬間が、仕事の遂行率がもっとも高いことを斉藤は経験的に知っていた。

だから、対象の事前調査の段階で、そうしたことは特に念入りに調べあげるのだが、橘 裕貴という男には、そういったものを見つけることができなかった。

家、所有車、家族、愛人――そのどれを取っても、橘 裕貴にとって重要である、という確定的な情報は出てこなかった。

橘 裕貴が抱えている橘組が唯一の例外かもしれないが――橘 裕貴が自身の組に思い入れがあることは分かった――たかが人ひとり殺すのに、暴力団組織そのものを壊滅させるのでは、あまりにもコストパフォーマンスが悪すぎる。
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