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Killer Street

第九章『明日がくるなら』1

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0一:00am――みなとみらい――

街は立ち並ぶ再開発されたショッピングモール、ビル群の小綺麗なネオンを受けながら、静かに眠っている。昼間の観光地の喧騒は鳴りを潜め、横浜の象徴の観覧車の明かりも、観客のいない舞台で静かにその色を変え続けているだけだ。

車の行き来も絶えた通りに止まったメルセデスの中で、たちばな 裕貴ゆうきは煙草に火を点けた。

「――高遠たかとおはあそこか?」

煙草の先が燃えるほんの一瞬だけ、暗闇に顔が浮かんで消えた。

殺し屋斉藤へと続く細い糸は、四友都市開発の高遠 孝次郎こうじろうに繋がった。ワインが趣味で甲府にぶどう園を持つというこの年若い事業本部長から伸びた手掛かりが、橘組に因縁のある山梨菊水一家きくすいいっか藤波ふじなみ組にまで至る明らかな証拠が必要だった。

隣に座った若頭の笈川おいかわ 一臣かずおみは無言のまま、壁に光った正方形のネオンサインを見つめている。

ネオンには読みづらい筆記体で店名が記されているが、そこが一体なんの店なのか、一見しては分からない。

「――会員制のバー…ねぇ…」

橘はその看板にちらりと一瞥をくれると、にやにやと笑った。

「その格好でも入れてくれるといいがな」

いつものようにジーンズにシャツというカジュアルな橘を横目に、笈川がふんと鼻を鳴らしたが、それが戯れのセリフであることは互いに承知していた。

橘の服装は一見、カジュアルに見えるが、それなりに金がかかっている。目の肥えた会員制バーのフロントマンがそれを見抜けない筈はない。

「ふん、紋付袴でも着てくりゃ良かったか」

くだらない言葉遊びを口にしてから、橘は車を降りた。

笈川が先に立って、そのドアを開けると、中にタキシード姿の男が立っていた。男は、笈川に変わってドアを押さえると、橘に頭を下げた。

「――いらっしゃいませ、橘様」

タキシード姿のフロント係は、滅多に訪れることがない橘の顔を見ただけで名前を呼んで歓迎を示した。会員の顔と名前は把握しているということだろう。

橘は、挨拶代わりに微かに顎をあげた。

フロントは橘たちを先導して通路を奥へ進み、突き当りの黒いガラスのドアを開けた。そこには別の案内係が待機していた。案内係はカウンター席へふたりを通した。

「――相変わらずもったいぶった店だな」

カウンター内のバーテンに注文を終えた橘は、煙草に火を点けると鼻先で笑った。

外のネオンサインの掛かったドアと店内へと繋がるドアは、ふたりが通ってきた狭い通路に陣取るタキシードのフロントマンに阻まれている。会員ではない者は、入口のタキシードに選別され、バーそれ自体の入口にすら辿り着けない仕組みになっている。入口で揉め事が起きても、店内にその様子は伝わらない、というわけだ。

「こんな管理の厳重なバーで、まさかヤクザが会員だとは思ってねぇのかねぇ?」

スツールの上で器用に体を回し、橘は後ろのボックス席に座る高遠 孝次郎に目を向けた。

高価そうなスーツに身を包んだ四友都市開発事業本部長は、連れの年配の男相手に談笑している。見かけは爽やかな好青年、という雰囲気だ。どこから見ても、育ちの良さが窺える。

「そんなことないだろ。確か、新城しんじょうさんもここの会員だ」

前を向いたまま笈川は肩を竦めた。

こういう会員制のバーは、一見、セキュリティが厳重そうではあるが、実際は金さえ払えば誰でも会員になることができる。もちろん、その会費の高さが、ある程度、顧客の取捨選択のハードルになっているわけだが、経費 、 、と考えれば安いものだ。

換金価値の高い情報はこういった会員制バーで日々、やりとりされている。上場企業の重役、中流企業の社長、政治家、投資家たちが人目を避けて集う場所でさりげなく交わされる情報に食い込み、顔を繋ぐには、こちらも多少の投資はやむを得ない、ということだ。

橘は足繁くこういった場所に足を運ぶタイプではないが、仕事の一貫 、 、 、 、 、としてバーに名前を置いてある。

しばらくして注文した酒がふたりの前に静かに差し出された。

「――新城さんに話は通したのか?」

笈川が尋ねた。

橘と笈川の後ろで中年男と歓談している爽やかな笑顔の青年が、菊水一家傘下の藤波組に繋がれば、これはもはや橘組だけの問題ではなくなる。

関東音羽会おとわかいと山梨菊水一家は、表向きは和平協定を結んでいるとはいえ、敵対組織であることには変わりはない。堅気のはずの一部上場企業の事業本部長が、その両組織傘下のそれぞれの組である新城組と藤波組の間で甘い汁を吸おうとしているとしたら、それは新城組のメンツの問題でもあるのだ。

「――必要ねぇな」

橘は、目の前に置かれた酒を一口啜ってから、答えた。

横浜の開発事業に関わる高遠 孝次郎は、橘の兄貴分である新城 あきらに金になる情報ネタを流している重要な情報源ネタモトであることに間違いはないが、すでに新城は今回のみなとみらい再開発地区の地上げに絡んで、弟分の橘が命を狙われていることを知っている。

新城は、わざわざ手下てかを使ってその裏まで取ってくれた――その結果、間に入った横浜市側の人間は、殺しの依頼者ではないということは判明した。

そうなれば、もう一方の情報源である四友都市開発に依頼主としての可能性があるかもしれないことくらいは、新城ならば感づいているだろう。



「てめぇのやってることが分かってんのか、分かってねぇのか…素人ネスッコは怖ぇなぁ」

橘が喉の奥で忍笑いを漏らすと、笈川はふんと鼻を鳴らした。

「自分のやってることの結果、 、は分かってないだろう」

それから丸い氷の入った酒を舐めた。

「新城さんは相手を見る、 、人だからな。高遠にはヤクザ丸出しの対応なんかしてないだろう」

「それにコロッと騙されてるんだとしたら、あいつもお勉強、 、 、が必要だな――新城の兄貴はアマかないぜ」

橘がふふん、と鼻で笑ったその時、

「――おい」

と、笈川が小さく呼んだ。橘がちらりと後ろを振り返る。高遠 孝次郎が、席を立つのが見えた。同席の男はまだ座ったままだ。高遠は、そのまま店の奥の化粧室へと向かった。

「――アマくねぇのは新城さんだけじゃねぇってこと、教えてやるか」

橘はスツールから立ち上がった。
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