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Killer Street

第十章『切ないキスをあなたに』1

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四友よつとも都市開発事業本部長、高遠たかとお 孝次郎こうじろうと山梨菊水一家きくすいいっか藤波ふじなみ組の繋がりはあっけないほど簡単に尻尾が出た。

会員制のバーでたちばなに脅しをかけられた高遠 孝次郎を追った葛西かさいの舎弟、上原から連絡が入ったのは、その翌日だった。

「――起きろ、裕貴ゆうき

笈川おいかわに揺すられて、橘は本牧のマンションで目を覚ました。

「…んだよ…」

寝起きの悪い橘は、布団を引き上げながら笈川に背中を向けた。

「上原からだ。高遠と藤波が繋がった」

笈川の言葉に、橘はベッドの中で目を開けた。

支度の途中だったのだろう。ボタンを止めていない笈川のシャツの間から、腹筋が覗いている。

橘はベッドから手を伸ばして、笈川のシャツの裾を引っ張った。

「――こっちにこいよ。頭、はっきりさせねぇと動けねぇよ」

ぺろりと唇を舐めてにやつく橘の頭を、笈川が叩いた。

「莫迦。朝っぱらから色気づいてる場合か。シャワーで頭をはっきりさせてこい」

「いてっ」

橘がシャワーから出ると、すでにきっちりとスーツを着終えた笈川はダイニングテーブルの前に座っていた。

「――繋がったな」

なんの前置きもなしに笈川が言った。

橘は片手で乱暴に髪を拭きながら椅子に腰を下ろした。

「そうだな」

笈川が大きな溜息を吐いた。

「――落とし前をつけなきゃならない」

「つけたくねぇみてぇじゃねぇかよ」

煙草を咥えて、橘はにやにやと笑った。

「つけたいわけがない」

「なんだよ。テメェの親爺、 、タマ狙ってた本ボシがあぶられたってのに冴えねぇな」

薄く開いた唇の間から煙を漂わせながら、橘は言った。

「藤波組への落とし前は、菊水一家とのケジメだ」

笈川は嫌そうに顔を顰めた。

山梨菊水一家は橘組が属している関東音羽会おとわかいと勢力を二分する広域指定暴力団組織だ。表面上は互いの長が五分の兄弟盃を交わして和平が保たれているとはいえ、シノギを削る敵対組織であることには変わりはない。当然、お互いに腹の探り合いだから、些細なマチガイ*27にノタクリ*28をかまされて、橘組の高目*29である音羽会会長沖賀おきが 隆一郎りゅういちろうが泥を被るようなことになってしまえば、それこそ橘組が会長の沖賀にケジメを取られかねない。

だからなんの策もなく正面から藤波組に乗り込むわけにはいかないのだ。かといって組長の命を狙った絵図を描いたのが藤波組だと割れた、 、 、のに見て見ぬ振りはできない。組の面子がかかっている。

「なんだよ、ビビってんのか?」

若頭の笈川が頭を抱える理由を分かっていながら、橘はあえて混ぜっ返した。

その意図が分かっている笈川は、それには答えずにただ睨み返した。

「――問題はもうひとつある」

「なんだよ」

新城しんじょうさんだ」

笈川は手の中で携帯電話を弄びながら言った。

「ケツを割ったのは高遠も同じだ。だが、高遠に落とし前をつければ、俺たちは新城さんからエグれるフトコロを消すことになる」

「――新城さんにゃこの絵図はとっくにガラス*30だろ」

橘は言った。

「新城の兄貴はバカじゃねぇ。市議会議員を調べたときに、あのイケメンぼっちゃんの方も調べたに決まってやがる。今回の黒幕が高遠だって、新城さんはもう気づいてるさ」

「――じゃあ、どうして…」

その情報をこちらに回してこなかったのか――と言おうとして、笈川も気づいた。

「あっちはあっちでケジメ取るつもりなんだろ」

橘はふんと鼻を鳴らした。

橘の言うとおりだろう。

この事件の大元のシノギ話を持ってきたのは新城 あきらだ。新城があずかり知らぬこととはいえ、自分が巻き込んだ弟分の命が狙われたとあれば、いくら大事な情報源ネタモトであっても、放っておくことはできない。

面子は新城組にもかかっている。

「高遠は札を見誤ったな…」

橘がにやりと嗤った。

そのとおりだ。

新城 彰は必要とあらばいくらでも無害な様子を装える、一見、様子のいい男だが、沖賀 龍一郎から受けた直盃は伊達ではない。小金に目が眩んで渡世の仁義を売るようなチンピラではないのだ。

「じゃあ高遠の始末は新城さんにまかせるか?」

笈川の問いに橘は肩を竦めた。

「俺たちは俺たちでちょっと遊んでやりゃいいさ――最後の始末、 、 、 、 、哥兄あにぃに譲るぜ」

「――藤波組はどうする?」

それには答えずに橘は立ち上がった。キッチンへと入り、グラスに水を注いでそれを飲み干す。

橘組おれたちには橘組おれたちのやり方がある――ちょっと派手に遠征してやるか」

口元に零れた水を無造作に手の甲で拭うと、橘はにやりと嗤った。





*27…喧嘩。
*28…いちゃもんをつけること。
*29…上部組織。目上。
*30…ガラスのように素通し。お見通し。
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