FC2ブログ

「New Moon」
大阪 Baby Blues

第三章『小さな恋のメロディ』7

 ←第三章『小さな恋のメロディ』6 →第三章『小さな恋のメロディ』8
**********

内藤に抱かれたあの日から、それは裕貴にとって日常になっていた。

もう抵抗も感じなかったし、むしろ積極的に内藤に抱かれたい、と思うようになっていた。

「啓介さん」

大抵、出掛けるのは夕方を過ぎてからだった。

だからそれまでの昼の浅い時間帯、卓袱台の前に座って、煙草をふかしながらぼんやりと競馬新聞を眺めている内藤の腕を引く。

「なんやねん」

新聞紙の下に潜り込んで、笑いながらこちらを見る内藤のパンツの前を引き摺り下ろしながら、それを口に含む。

「おまえなぁ…」

苦笑を漏らしながらも、その顔が快感に歪み始めるのにさほど時間は掛からない。

男同士はこんな時は便利だ、と思う。

裕貴も同じ男だから、どうすれば相手がその気になるかなんて、すぐ分かる。

女みたいにムードなんていらない。

物理的な刺激。直接的な行動。

それ以外になにもいらない。

「――こんなことばっかり上手ぁなりやがって…っ」

裕貴の舌先が敏感な先端をちろちろと嬲ると、悪態を吐きながらも内藤は髪を優しく梳いてくれる。

「いいじゃん。俺がうまい方があんただって気持ちいいだろ?」

敬語なんてすっかり忘れた。

裕貴はもう内藤のただの弟分じゃない。

「できないよ…っこんなの…っ」

上に乗れ、と言われて裕貴は動揺した。

やりたくないとか、恥ずかしいとかではなく、やり方が分からないという戸惑いだった。

「後ろで支えて、自分で充てりゃええねん」

「や、やだよ…っ無理だって…」

そう言いながらも、裕貴は手探りで内藤の男を握り、それを敏感になっている自分の入口に充てた。

不安定な体を下から内藤が支えてくれる。

「そうそう…。ゆっくり座ってみろや」

「や…っ、あ…、あ…あ…っ」

自重で体が沈むたびに、内壁が押し開かれ、それはもうダイレクトに快感になって裕貴の体を貫くようになっていた。

「ヤベ…、すげぇ気持ちいい…っ」

「俺も気持ちええで…、裕貴…」

「啓介さん…っ」

あれから内藤はベッドでは眠らなくなった。敷きっぱなしの布団で、裕貴を抱き締めて眠る。内藤の体温を感じながら眠りに落ちるのが当たり前になり、淳子のベッドは部屋の隅で放って置かれていた。

「裕貴! 俺、ちょお渡会わたらいさんとこ行くからなぁ。あとで工場の事務所で会おうや」

「分かった。行ってらっしゃい」

その日、内藤は夕方過ぎにひとりで出掛けて行った。

ホテルのバーで塚原という篠田の右腕を狙撃して以来、内藤グループも大きな仕事をしていなかったから、そろそろなにか仕掛けるための相談に行ったのかもしれない、と裕貴はぼんやり考えた。

それよりも目下の問題は、この洗濯物だ。

家のことなんぞろくろくしたことがないから、裕貴は家事が大の苦手だった。

掃除はできる。哥兄の家に厄介になっていても、パシリに使われても、掃除は必ずやらされるからだ。

ただ洗濯物を畳むようなちまちました作業は苦手だった。大抵は洗濯物が溜まると、袋に入れて一臣かずおみの家に持って行ってしまう。一臣は女と住んでいることが多いから、押しつけておけば、その女が(もしかしたら一臣が)洗濯くらいはしてくれる。

内藤の家でも洗濯機の使い方が分からず、飽きれられながらも、せめて畳むくらいはしろ、と言いつけられた。

「ちっ…、めんどくせぇな…」

ひとりの部屋でぶつぶつ文句を言いながらも、裕貴は洗濯物を畳み始めた。

と、その時、ガチャリと玄関のドアノブが回る音がした。内藤が忘れ物でもしたのかと振り返ると、淳子がそこに立っていた。

「あ…」

誰かいるとは思っていなかった様子で、淳子は小さな声をあげた。

「ごめん。いると思わなかった」

そう言いながら淳子は靴を脱いで、部屋にあがってきた。

「ちょっと必要なものがあって取りに来たの。あんたたちがいない時間にと思ったんだけど」

そう言いながら、淳子は裕貴が洗濯物を畳んでいる和室を素通りして、絨毯の敷かれている隣室へ入るとタンスの抽斗を開けた。

「――啓介、出掛けてんの?」

「はい――」

気まずい思いで裕貴は短く返事をした。

最初に会った頃とはもう違う。

裕貴は内藤の弟分だけど、もうただの弟分じゃない。

夜毎、日毎、淳子の男に抱かれているのだ――

淳子は兄貴分である内藤の女だから、裕貴にとっては姐さんのようなものだ。だからそれなりの礼儀は尽くさなくてはいけない。

お茶くらい出さなければ、と分かっていたが、裕貴は体が動かなかった。

「――それ、啓介の?」

裕貴の周りに散らばっている洗濯物を指して、淳子が尋ねた。

自分の男の服や下着だ。見れば分かるだろう。

裕貴は苛立ちを覚えた。

「俺のもあるんで」

下を向いたままそう言った。

手伝おうかとか、私がやるとか言い出すだろうか、この女――

けれど淳子は黙って、玄関に向かった。

「ごめんね、じゃあ――」

そう言って淳子は玄関の戸を閉めた。

裕貴は見送りにも立たなかった。
関連記事
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png New Moon
総もくじ 3kaku_s_L.png Crescent Moon
もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
もくじ  3kaku_s_L.png Tattoo Maniac
総もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
総もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
【第三章『小さな恋のメロディ』6】へ  【第三章『小さな恋のメロディ』8】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【第三章『小さな恋のメロディ』6】へ
  • 【第三章『小さな恋のメロディ』8】へ