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Tattoo Maniac

第一章『悪魔の恋』8

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「さすがに噂どおり、話の早い男だな、あんた」

ホテルの部屋に入ると、中島 誠は煙草に火を点けてにやりと笑った。

「噂? ろくな噂されてないんですね、俺も」

「そんなことないぜ、あんたが切れ者の極道だって話も聞いてる」

部屋のミニバーからウィスキーのボトルを出し、中島はそれをふたつのグラスに注いだ。

「――いろいろ恨みも買ってそうだな」

ひとつを橘に渡しながら、中島は言った。

「なんの謎かけですか、そりゃ」

「あそこに一緒にいたぼうや――ありゃ、舎弟じゃなくてあんたの情人イロだろ?」

慧のことだ――と、橘はすぐにぴんと来た。

ロゼで会った時、柴田は新城組の若頭だと自己紹介していたし、葛西はどこから見てもゴロツキにしか見えない。そして、慧は堅気丸出しの男だ。橘じゃなくてもすぐ見当がつく。

「てめぇの情人の目の前で、他の男とシケ込むなんざ、あんた、いい死に方はしそうにねぇな」

中島は喉の奥で笑った。

「そのイロの前で堂々とおれを口説いてきたのは、あんただろ?」

ロゼの奥まったソファ席に合流した中島は、会話の最中に何度も橘に意味深な目配せを送ってきた。挙げ句の果てにテーブルの下で中島は、橘の腿に指先を這わせてきたのだ。どんな莫迦にだって誘われていると分かる。橘はその手を跳ね除けなかった。だから中島にも、橘がそれを受けた、 、 、のが知れた。

あの場でそれに気づいていなかったのは、慧くらいだろう。テーブルの下は新城の兄貴にも、柴田の叔父貴にも見えていなかっただろうが、あのふたりもそれと気づいていた。勘のいい葛西は言わずもがなだ。

しかし、橘はそんなことに抱くような羞恥心は持ち合わせてはいない。心はすでにこの男はどんな風に俺を抱くのだろう、という猥雑な思いに飛んでいた。

橘は一息にグラスを空けると、お先にと告げてバスルームへと向かった。シャワーを浴び終える頃には、体が火照っていた。ロゼで飲んだアルコールに先ほどのウィスキーが後押ししている。酒は好きだが本当はそんなに強くない。なんだったら慧の方が、アルコールにはよっぽど強い。見た目に反して、あいつはザル、 、だ。いくら飲んでも、けろっとしてやがる――

橘は腰にタオルを捲いただけの姿で室内に戻った。裸の橘を見て、にやりと笑った中島が入れ替わりにバスルームに消えた。

二本目の煙草に火を点けたところで、背後のバスルームのドアが開く音が聞こえた。振り向きもせず、ベッドの縁に腰掛けて煙を吐いていた橘の剥き出しの肩にくちづけが落とされた。

「――堪んねぇな、あんた」

すぐ隣に腰を下ろした中島が肩に腕を回して、囁くように言った。

「ヤクザの顔を見せてる時と大違いじゃねぇか――いろっぽくてぞくぞくするよ」

中島の言葉に、橘はふんと鼻先で笑った。

「――煙草、いいのかよ?」

「もう待てねぇな」

中島はそう言うと、橘の体をベッドに押しつけるようにしてのしかかってきた。

首筋を吸うのと同時に自身を握りこまれて、橘は身を震わせた。

「…はぁ…っ」

自分も手探りで中島の男を探り当てる。それはすでに充分な硬さをもって、体の中央で己れを誇示していた。

恋人同士ではないから、体の細部をまさぐるような印ばかりの前戯など必要ない。中島はすぐに橘のそれを口に含んだ。

「あ…っ」

ざらついた舌が敏感な皮膚を舐めあげる。喉の奥の方まで飲まれたそれを咥内で締めつけられて、手足の先まで痺れるような快感が走った。

こいつ、慣れてやがるな――

男を抱いたことがある――なんてもんじゃない――中島は男を抱くのに慣れている、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、

こいつこそ、男の情人がいやがるんじゃねぇのか――?

自身を口で愛撫され、後ろの奥まった箇所を指先で撫でられる快感に呻きながら、ちらりとそんなことを思った。

「うつ伏せになれよ」

橘から口を離した中島はそう言った。

「綺麗な刺青スミれてるじゃねぇか」

「こんなもん珍しくないでしょ。あんただってはいってるじゃないですか」

素直にうつ伏せになりながら、橘は笑った。

橘の背中には、一面に龍に乗った弁財天が描かれている。まだ二十歳を少し超えたばかりの頃、三崎の彫豊ほりとよという彫師に施された騎龍弁天きりゅうべんてんの図柄だ。

当時、彫豊は二代目に代替わりしたばかりだった。まだ若い青年で、ひとめ見た時、こいつこそ彫師が絵に起こした図柄から抜け出てきたんじゃないか、と思ったほど美しい男だった。絹糸のような長い黒髪を背中に垂らし、筆で刷いたような形のいい眉の下に、長い睫毛に縁取られた黒目がちな瞳が涙で潤んだように輝いていた。化粧をしているわけでもないのに嫌に紅い唇をしていたっけ。

最初は自分よりも歳下かと思っていた。二代目彫豊も、どうやら橘を年齢よりも幼く推測していたようで、あとで互いの年齢を知って驚いた。彫豊は橘よりもふたつ上だった。あの頃の彫豊は、触れたらその場で砕け散ってしまいそうなほど、儚げに見えたから、自分よりも歳上だなどと思わなかったのだ。

当時の橘には、継ぐ名前があるほどの彫師にこんな大図柄を刺れてもらうような金はなかった。それでも半ば、脅すようにして出世払いを認めさせ、背負った彫物だった。

「――見事だな」

中島は橘の背を撫でて、溜息を吐いた。

「あ…っ」

触れられた背中からさざなみのように快感が湧き出して、橘は呻いた。

「なんだ…、あんた背中が弱いのか?」

中島がおもしろがるような声を出した。

弁天の姿絵を中島の舌がそっとなぞる。

「んん…っ」

耐えきれなくて、橘は枕にしがみついた。
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