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Tattoo Maniac

第二章『死体置場でロマンスを』2

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橘はふんと鼻を鳴らして、口を閉じてやった。

「――で? あれからなんか分かったのかよ?」

橘の問いに、矢部はぎろりと睨み返しただけだった。

「行きましょう、和泉さん」

歳若い警部補を促すと、矢部は踵を返して橘たちの前から立ち去った。

「…矢部のおやっさんもガキのお守りしながら捜査じゃ大変だな」

ようやく笑いの発作が治まった葛西が、目尻を拭いながら言った。

「なぁ、矢部さんってヤクザ相手の警察官なんやろ? 殺人事件は一課の仕事ちゃうの? それともヤクザの殺人は矢部さんの担当なんかな?」

慧にとっては素朴な疑問なのだろう。

「殺人事件は一課の仕事ヤマだ。けど被害者がヤクザ者だからな。容疑者も同業かもしれねぇだろ? ヤクザおれたちは取り扱い注意だからな。俺たちの相手に慣れたマル暴が腕貸し、 、 、してんだろ」

慧はふうんと言ったがまだ納得がいかないような顔をしている。

「俺たちヤクザは、金にもならないのにオデコに情報を流すことはない。特に自分のところの組員が殺されてるんじゃ、柳沢組にとってはメンツの問題もある。オデコよりも先に、殺しロクったヤツを捕まえてケジメを取りたいのが本音のところだ。だから情報ネタが欲しいなら、弱味を突いて脅すしかない。そういうヤクザの弱味はマル暴しか握ってないからな」

笈川の説明に、慧はようやく納得したように頷いた。

橘たちにとっては当たり前のことが、堅気が長かった慧にはピンとこない。そんなことはいくらでもあるようだ。

多分、先ほど受付に出した香典袋の相場が、暗黒街においては数十万だなんてことも、慧が知ったら驚くだろう。橘は組長でも下目だからそんなものだが、高目の新城しんじょうあたりは百万単位で包んでいる筈だ。

長い列に並んでようやく焼香を済ませると、柳沢組の若い衆がやってきて橘たちを精進落としの席に案内した。

宴会場の大広間にはずらりと大きな座卓が並べられ、豪華な精進落としが用意されていた。旅館も料亭も貸切でこの豪勢な料理では、たとえ百万単位の香典が集まっても、やっぱり柳沢組がウケる*12金額は知れてるな、と橘は考えた。

通夜の精進落としであるから献杯があるわけでもなく、集まった者から勝手に食事を始めているが、その来客のほとんどが音羽おとわ会の親分衆である。組織の最末端である橘組としては呑気に座って食事を楽しんでいる余裕はない。橘組では組長である橘も、音羽会内では最年少舎弟の扱いだ。それは若頭である笈川も同様で、ふたりはそれぞれ目についた親分たちに酌をしに席を立った。葛西も立ち上がる。

「お、俺も行った方がええやんな」

慧もどぎまぎと立ち上がった。

ついこの間まで堅気だった慧は、こんな場には慣れていない。ましてや数十人の強面の大物ヤクザ相手にひとりで酌をして歩くことはできないだろう。しかし、このままぽけっと座らせておくわけにもいかない。橘は苦笑した。

「おまえは俺の舎弟のつもりでついてこい」

橘たちは、喪主の立場である柳沢組組長 柳沢 進二の元を初めに訪れた。

「このたびは残念なことでした」

橘が手をついて挨拶をすると、組長の柳沢はうんうんと頷いた。

「橘組の、わざわざすまなかったな」

柳沢 進二は一見、ヤクザには見えない好々爺だ。挨拶程度ではあるが、橘も面識だけはある。もう七十代である柳沢は、いつも穏やかな雰囲気を漂わせている。あくまでも橘の知る限りは、だ。しかし親分になるほどの人物であるからには、当然、その裏になかなか侮れない本性も隠しているに違いない。

「おまえ、中島と飲んだらしいね」

柳沢はしんみりとした様子でそう言った。新城から聞いたのか、慧の快気祝いにロゼでたまたま中島に会ったことを言っているのだろう。橘ははい、と頷いた。

「新城の兄貴のご友人だったそうで。先日、横浜でお会いした時には中島の阿仁あにさんには良くしていただきました」

その後逢引していたことまで、この人の良い往年のヤクザに伝える必要はないだろう。そんなことを知ったら、柳沢はこの場でひっくり返ってしまうかもしれない。

「中島はいい渡世人だったからなぁ。俺もあいつには期待してたんだが、本当に残念だよ」

笈川の話では、生前の中島 誠は若頭の向井に続く実力者だった。それが真実だとすれば、この柳沢組長の落胆ぶりは納得できる。

「おまえたちのところにもオデコは行ったかい?」

柳沢が尋ねた。

「…ええ、まぁ…」

橘が曖昧に返事をすると、柳沢は心得ているとばかりに頷いた。たとえ中島を殺害した犯人をつきとめるためであろうとも、ゴロツキが警察関係者に協力したりはしないことは了解済みなのだ。

「これは新城にも聞いたんだがね…、中島に特に変わったところはなかったんだろ?」

橘は首を横に振った。これは嘘ではない。ロゼの席ではもちろん、その後、ふたりでホテルにまで行ったにも関わらず、中島 誠は、自身の身に殺されるような危険が迫っているような話はしていなかった。

中島の渡世の親である柳沢が、ちょっと顔がついた*13だけの橘にこんなことを尋ねるようでは、縄張りシマ内であからさまな揉め事があったわけではないようだ。少なくとも組長の柳沢の耳に入るようなところでは――

そうか、と沈痛な面持ちで頷いた柳沢は、なにかに気づいたかのように顔をあげた。

「ああ…、すっかり忘れていたよ。おい日野、こちらは横浜の橘組の親分だ。橘、これは柳沢組ウチの日野ってもんだ」

柳沢は自分の隣に座っていた五十絡みの男を橘に紹介した。



*12…儲かる。
*13…知り合う。

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