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Tattoo Maniac

第二章『死体置場でロマンスを』3

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「ご無沙汰しております、日野さん」

橘が頭をさげると、柳沢は意外そうな顔をした。

「なんだ、知り合いだったのか」

「いえ、ただお顔は存じ上げております」

橘は如才なくそう言った。実際、親しく話したことはないが、日野の顔は見知っていた。何度か顔を合わせたこともある。渡世の年季はあきらかに日野の方が上だから、顔を知っていると伝えるのは礼儀のようなものだ。おまえなんて見たことも聞いたこともない、などと言うよりはいいに決まっている。

「こっちも噂は聞いてますよ。この若さで親分さんですからね」

日野も笑顔を見せた。が、その表情からは、橘が音羽会で組を構えているのが面白くないという本音がありありと窺えた。

「ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします」

橘は適当に話を打ち切って、柳沢の元を後にした。

「おい、葛西」

柳沢から充分に離れてから橘は声を掛けた。

「おまえ、柳沢の親分のところにいたあの日野って男、知ってたか?」

「ええ。俺も親しくはしてませんけどね。柳沢組の幹部のひとりですよ。中島と張るくらいじゃねぇかな」

若頭の向井に続く中島と張る力を持っているのならば、日野は柳沢組の実力者といっていいだろう。嫉妬深そうな目つきをした男だったが、得てしてああいう男の方が出世をするのが暗黒街というものだ。

橘は返事代わりにふんと鼻を鳴らした。

直参から順に(それでも会場に現れるのに時間差があるから、行きつ戻りつだが)酌をして挨拶をしている合間に、音羽会会長の沖賀おきがも姿を見せた。こっちは逆に高目の哥兄あにぃたちのお目どおりが済むのを待たなければいけないから、橘組は一番後になる。

「…おまえ、こんだけおる親分さんたちの顔と名前と序列をみんな覚えてるんか?」

慧が飽きれと感心の間のような顔をして、溜息まじりに呟いたのがおかしかった。

「当たり前だろ。飯のタネだぞ」

大物ヤクザの顔と名前も分からないようでは、この世界では命がいくつあっても足らない。肩書きひとつ呼び間違えたってメンツに関わる世界だ。特に異例の若さで組を構えた橘には、身内内にも敵は少なくはない。努力など大嫌いだが、妬み、そねみ、僻みだけは人一倍というのがヤクザ者なのだ。

「親爺さん、ご無沙汰しております」

沖賀の前には笈川と葛西も共に出て、頭を下げた。

「橘、元気そうだな」

「哥兄たちのお引き立てに感謝しています。親爺さんもお元気そうで」

影ではあの因業ジジィなどと毒吐くことはあっても、沖賀本人の前では当然、礼を正す。それでも橘にとって沖賀 隆一郎りゅういちろうという男は、けっして息苦しい高目というだけではなかった。沖賀は橘の命の恩人であり、この世界――いや、もうどういう意味においても、親と呼ぶべきただ一人の人間である。最後に寄せ場に落ちたあの時、まだたった二十三歳の小僧に向かって、おまえの帰るところは必ず用意しておくからと言ってくれたのは、この男だけだった。

「相変わらず、おまえの周囲は騒がしいようだな」

笈川に注がれた日本酒を傾けながら、沖賀は笑みを浮かべた。数ヶ月前の殺し屋騒ぎは沖賀の耳にも入っているのだろう。

「修行の足らねぇハンチク野郎でご迷惑をお掛けします」

橘は殊勝に頭を下げた。

「そのタマ狙う価値のねぇ極道者なんざ、おとこ売ってる甲斐もねぇだろ。騒がしいぐらいでちょうどいいよ」

そう言うと、沖賀は笈川に目を向けた。

「笈川、橘を頼むぞ」

笈川はなにも言わずに黙って頭を下げた。

それから沖賀は葛西を見て、にやりと笑った。

「おまえは、どこにいても楽しんでやがるな」

「性分なんです」

大親分である沖賀の前でも、葛西の態度はあまり変わらない。いつものにやけた顔のままだった。

沖賀は、橘の後ろで身を隠すように小さくなっている慧に視線を向けた。いくら小さくなったって、橘より一回りは大きい男なのだから、隠れようはない。

「…おまえ…たしか…――」

沖賀は一度だけ慧に会っている。年明けのツキヨリの賭場だ。

「は、はい。は、春海 慧です」

慧はかしこまって頭を下げていたが、緊張しすぎてほとんど土下座のようだ。

「…ふん…」

沖賀は顎に手をあてて、しばらく考えるようにしていた。妙な間があいて、慧が恐る恐る顔をあげる。

「カタギのおまえさんがこんな世界に落ちちまったんじゃあ苦労も絶えねぇだろうが…、まぁ、惚れちまったもんはしょうがねぇな」

「え…――」

慧は絶句したまま顔を真っ紅にした。
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