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Tattoo Maniac

第二章『死体置場でロマンスを』7

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その後葛西は、橘の極道としての資質に惚れ込み、先代の森組長の跡目を取った新城の盃を辞して、橘組組員となったのだ。それからは橘と葛西もその関係をすっぱりと断っていることも笈川は了解している。

当時、すでに自分自身も特別な関係にあった笈川は、橘の荒れた行動の理由に心当たりがあった。だから、なにも言わなかった。

いや、なにも言えなかったのだ。

橘は大阪抗争でひとりの男と出会った。同じ極道者であったその男は、ヤクザとしては最上級であっても、人間としては悪魔に等しかった。その悪魔は、橘の身も心も喰いちぎって、捨てた。橘の体に二発の弾丸を撃ち込んで――

だから笈川は、橘が生きていてくれるだけでいい、と思っていた。

すべてを捧げて信じた男に裏切られた橘が、自らその命を断たないでいてくれるなら、その行動が多少荒れていてもたいした問題ではない。

内藤ないとう 啓介けいすけ――橘の心と体にけっして消えない傷痕を残した悪魔――

大阪抗争から十年後、内藤は再び橘の前に現れた。

今度こそ、橘を地獄への道連れにするために――

山梨菊水一家きくすいいっか藤波ふじなみ組と、橘組と同門の寺島組を捲きこんだ絵図を描き、裏ですべてを操って橘を破滅へと導こうとした男は、当の橘の手によってその命を断たれた。

十年前、引けなかったその引鉄ひきがねを今度こそ引いて、内藤 啓介に引導を渡したのは橘本人だった。

だから――笈川はどこかでほっとしていた。

内藤の影から、橘は自由になったと思っていたのだ。

傷痕が完全に癒えたとは言えないまでも、橘は過去を乗り越えたのだと。

ところが――二ヶ月前、突如橘を狙った殺し屋が現れた。殺し屋は、橘だけでなく情人である慧の命も狙った。慧は橘の盾となり、その身に銃弾を受け、生死の境を彷徨うことになった。

手術の直後、まだ意識が戻らず、その経過も危うかった慧の横で、橘はこれまでに笈川が見たこともないほど取り乱していた。かつての恋人、砂川すなかわ 香織かおりを失った時でさえ、少なくとも表面上は平静を保っていたかに見えた橘が、誰かに奪われるくらいなら自分が手を下すと、意識のない慧に拳銃を向け、声をあげて泣いていた。

その涙を見た時は動揺したが、慧を失いかけた橘の自失状態は笈川を驚かせはしなかった。

慧は他の情人イロとは違う。橘は慧にたいして、これまで誰にも見せたことのない執着を見せている。どの情人も橘の下を自由に立ち去ることはできても、慧だけにはそれを許さないだろう。

橘は、たとえ結果的に慧の命を奪うことになろうとも、その手を離さない。

そう分かっていたから、その死の恐怖に橘が取り乱しても、笈川は驚かなかった。むしろ当然だと思った。

しかし、あの時――

己れを見失って、泣き叫んだ橘の口から出た名前は笈川を恐慌させた。

泣きながら橘が呟いた名前が、慧ではなかったから。

最初は、慧を呼んでいるのだと、笈川もそう思っていた。

けれど、「けい」と呼んだその声は「…すけさん、行かないで」と続いた。

聞き間違いなんかではなかった。

――啓介さん、行かないで…

橘があの時、錯乱状態だったことはたしかだろう。あの後、笈川の腕の中で、ほんの十分程度、橘は気を失っていた。まるで負荷に耐えきれずに自らブレーカーを落としたかのように、橘はその意識を手放した。そして目が覚めた時には、もう平常に戻っていた。

橘は立ち上がると、殺し屋が来る、と言った。その判断も行動も冷静だった。

あの自失状態の一瞬に、自分が内藤の名前を口走ったことを、橘は覚えていないのではないか。

橘は内藤 啓介を忘れていない。平素は心の奥深くに堅く閉ざした、けっして開けてはならない場所に、ただそれを押し込めているだけなのではないか、笈川はその時、初めてそれに思い当たった。それならば、それをあえて蒸し返したくはなかった。

もし内藤の名前を口走ったことを覚えていないのであれば、橘はそれを認めないだろう、という気もした。

なにより橘が笈川に言う必要はないと思っていることならば、それをことさらに聞き出そうとすることも躊躇われた。

橘と出会った十五年前から、笈川はそうやって生きてきたのだから――

裕貴が呼ぶならばどこへでも行く――

裕貴が望むのならばどんなことでもする――

裕貴が言わないことならば、尋ねる必要はない――

そして自分はけっしてなにも望まない――

今さら、この関係を変えることなどできない。

裕貴には――聞けない――
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