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Tattoo Maniac

第二章『死体置場でロマンスを』9

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「なんていうか…、あの頃の橘さんは悲壮でね。男も女も関係ねぇって度外れた遊び人を気取っていても、目の奥がこう…震えていた…っていうか…」

はしたなく伸ばしてくるその手が、まるで縋りついてくるようだった――

「たった二十歳ハタチやそこらのトンがったガキの虚勢なんて、俺たちみたいなすれっからしの渡世人にはガラスですよ。橘さんが大阪で背負った傷は体に受けたもんだけじゃねぇことぐらいは分かりました。そんな手を、そうそう振り払えるもんじゃねぇ」

葛西は煙を吐いた。

「まぁ…それでもそんな風に、てめぇでてめぇを痛めつけるみたいに手当たり次第に男漁りしてるガキにつけこむようで気が引けるといえば引ける…かといって振り払っちまえばもっと後味が悪そうだ…」

どうしてやるのが一番、良かったのか――それは今でも分からない、と葛西は微笑んだ。

「それで俺はちょっと聞いたことがあるんですよ…、一体、大阪で内藤と橘さんの間になにがあったのかってね…」

「誰にだ?」

「淳子ですよ」

淳子――

淳子は、橘組直営店に勤める風俗嬢たちの世話役のような仕事をしている女だ。ヤクザが見張っていなきゃいけないような女たちだから、当然、そこには借金という足枷を引き摺っている。自分が作ったとは限らないが、その借金を返済し終える前に逃げ出さないように、女たちを見張り、時に宥め、最後の最後まで借金を払わせる、そんな地獄の獄卒みたいな仕事を、淳子は今も続けていた。

もともと淳子は内藤 啓介の情人だった。大阪抗争が終わった後、跡目を取った側からも蹴落とされた側からも追われた内藤のとばっちり、 、 、 、 、を避けるために、橘が横浜に連れ帰った。

だから、淳子は内藤 啓介を良く知っている。ヤクザとしてではない。ひとりの男としての内藤 啓介を知る、唯一の人間でもある。

「今の若い連中は知らねぇだろうが、俺たち古いゴロツキの間じゃあ、橘さんが大阪から内藤の情人イロを連れ帰ったって話は有名でしたからね。あいつなら、なにか知ってるんじゃねぇかと思ったんです」

その予想通り、淳子は知っていた。かつての自分の恋人と橘 裕貴が、短い大阪抗争の最中に深い関係になっていたことを。しかし最初、淳子はそれを言い渋っていたという。

「まぁ他人の色恋の話だ。淳子は、変な言い方ですけど、女にしちゃあ肝の太い侠気おとこぎのある奴です。そう簡単には口は割らねぇ」

でも――あの頃は事情が変わっていた。橘の色狂いのような行状は淳子の耳にも入っていた。しかし不思議と自分にだけは手は出さなかったことで、横浜に来てしばらく経った頃の淳子は――もちろん最初は自分の男を寝とった恋敵だったのだろうが――橘に対して弟のような気持ちが芽生えていたんだろう、と葛西は言った。

「淳子の話じゃ、内藤の遣り口はそこらのチンピラと大差ねぇカンジでしたけどね。怒鳴ったり脅したりした後に、信じられないくらい優しくなる。おまえを理解できるのは俺だけだってツラで手を差し出した後で、俺の言うことが聞けないのかと、またその手を振り払う…ヤクザから離れられねぇ女っていうのは、たいていこの手にやられる」

俺たちは皆、身に覚えがあるでしょう、と葛西は苦笑した。

それは笈川にもある。ヤクザなど、ろくな稼ぎシノギがないチンピラの頃は、食わしてくれる女がいなければ生きていくことはできない。そういう意味では若いチンピラにとっては、女の懐をこくのがシノギとも言えるし、それがヤクザの修行とも言える。笈川自身、若い頃は女の世話になっていた。

その経験から、葛西の指摘が的を射ていることは心得ていた。笈川はあまり暴力を好まないが、相手によってはそれが有効、 、 、 、 、だということも知っていた。

「…多分、橘さんも内藤にそれをやられたんだ。どこかの時点で弱味を晒させて、その柔い部分を撫でてやる…。おまえを分かってやれるのは俺しかいないと思わせて、服従を強いる」

世間知らずのガキにはてきめん、 、 、 、でしょう、と葛西は言った。顔に笑顔は残っていたが、口調は半ば吐き捨てるようだった。

「ガキを口先で操って鉄砲玉に仕立てるのが得意だっていう内藤の手口は、まぁ、俺たちヤクザにとっちゃよくある話ですが、それだってそうそう使い捨てにはしないでしょう」

そこまで言って葛西は溜息を吐いた。

「ましてやそっちの趣味があったわけでもねぇガキに、体まで貢がせたんだ。内藤の腕もたいしたもんだが、そこまで尽くして使い捨てにされたんじゃ、捨てられた方は堪らねぇ…」

横浜に戻ってから、それこそ手当たり次第に相手を取っ替え引っ替えしていた橘の様子が、淳子を不安にさせた。

「淳子はうまいたとえを使ってましたよ。ほら、怪我した後、傷口が乾いてかさぶたになるでしょう。あれは痒いですよね。イライラする。我慢ができねぇ。どうすりゃあいいと思います?」

葛西の問いかけに、笈川は無言で見返した。

「かさぶたを剥いちまえばいいんだ。傷口がまた開いちまえば痛みはぶり返すが、イライラする疼きは治まる…。淳子が、橘さんのトチ狂った行動はそういうことなんじゃないかってね」
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