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Tattoo Maniac

第二章『死体置場でロマンスを』11

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それはもちろん笈川も承知の上のことだったし、必要な登用ではあったが、橘に別の思惑があったことも事実だ。橘は、結佳の身の上を知って淳子の仕切る女寮に乗り込んできて以来興味を抱いていた慧を、手元に手繰り寄せるネタを探していた。

これまでの人生で、暴力団組織にも違法行為にも一切無縁だった堅気の慧にとって、囮とはいえヤクザの手先となって違法薬物の購入をするなど、恐怖以外の何物でもなかったに違いない。ほんの数本のマリファナ煙草を手に入れて橘組の車に戻ってきた時の慧は顔色を失くし、震えていた。あそこで橘は慧の手を握って言った。俺がいるのだから大丈夫だ、と――

あれはヤクザの常套手段だ。一度、恐怖に陥れ、その窮地から救ってみせる。本来、その恐怖や危機に陥れたのはそのヤクザ本人であるにも関わらず、人は急場を救ってくれた者につい縋りつく。本人にそのつもりはなくても、人の心理としてそうなのだ、ということをゴロツキは経験上知っている。

この男といれば危険な目に遭うかもしれない、と分かっていながら、それと同時にこの男は自分を守ってくれると信じ込ませる――

半分は成り行きだったが、残り半分は意図的に、橘は慧を恐怖と暴力、そこからの救済というサイクルに何度も叩き込んだ。

笈川も気づいていた。しかし、あの時は、またか、 、 、と思っただけだった。もう慣れてしまっていたのだ――あの橘の遣り口に、 、 、 、 、 、 、 、――

相手は堅気とは限らなくても、この手口はヤクザの間では良く知られた手だし、橘は恐怖と救済を駆使して他人を操ることに長けていた。

そしてそれは――内藤 啓介から学んだ手口だと笈川も気づいていた。

大阪に赴く前の橘は、たしかに悪事に長けてはいたが、他人の心理を操るような小器用な真似ができるような男ではなかった。もっと単純に、他人に言うことを聞かせるなら痛めつければいいんだ、という短絡的なところがあった。

しかし、大阪から戻った後の橘は、短気で喧嘩っ早い一方で、他者の心理を巧みに突く技術が格段にあがっていた。極道者としては必要な技術だ。だから笈川はあえて見て見ぬふりを続けてきた。橘がそれを内藤 啓介から学んだことを――

けれどそれに気づいていなかったわけじゃない。

――あいつは内藤が仕込んだ男だ…

笈川は、そう慧に忠告したこともあった。

誰も信用せず、 、 、 、 、 、誰の想いも振り返らない、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、――

人を人とも思わないような、奥底に秘めたその残酷さに気づいていなかったわけではないが、それでも橘は内藤のように、年端もいかぬ少年たちの心を操るような真似だけはしなかった。橘は歳の若い舎弟を抱えることを極端に嫌う。

それが内藤の悪辣な所業にたいする橘の嫌悪なのだと、笈川は勝手に解釈していた――

「――なにか…あったんですか?」

葛西がこちらを探るような目をして言った。

「なんの理由もなく、あんたが大昔のことをほじくり返すとは思えねぇ。橘さんになにかあったんでしょう?」

笈川は小さく息を吐いてから、慧の病室で橘が内藤 啓介の名前を口走ったことを葛西に話してきかせた。

聞き終えた葛西は、小さく口笛を吹いた。

「笑い事じゃない」

じろりと睨むと、葛西はすみませんと、全然申し訳なさそうではない顔で言った。

「行かないで…か…」

葛西はそう言いながら三本目の煙草に火を点けた。

「…十年前にあの人はそれが言えなかったんでしょうねぇ」

葛西は煙を吐いた。

「あの人はへんなところで寂しがり屋のくせに、それを絶対に口には出さねぇ。いつも表面上は、去る者追わず、だ」

来る者も拒まねぇから、あんたは大変だ、と葛西はひとりで混ぜ返した。

「言っちまやぁ良かったんですよ、十年前にね。内藤に――俺を捨てないでくれって…」

葛西は小さく溜息を吐いた。

「ガキのうちなら言えたんです。裸で泣き喚きゃあ良かったんだ。そういうことはガキのうちしかできねぇ。歳くっちまうとね、妙に建前ってやつが身についちまったり、メンツなんてもんが大事になっちまうから…」

大人になるとできなくなること――

「あの人はガキの頃から、妙に冷めた小利口なところがありやがったからな…」

ガキなんて莫迦でいいんだ、と葛西は笑った。

それから煙草を灰皿に押しつけると、ふっと珍しく真面目な顔になって笈川を見た。

「あんたもですよ、若頭」

灰皿の中の消え切らない火種からすっと煙があがる。

「俺相手にこんなところでペラ回してたってダメだ。サシで話しなよ、橘さんと」

葛西は再び笑って髪を搔きあげた。

「あんたも橘さんとおんなじですよ。ガキの頃からすかしてて…。冷静なのは性分でしょうが、あんたも同じ――ただ、逃げてるだけですよ、 、 、 、 、 、 、 、 、

葛西は臆面もなくそう言い放った。その言葉に笈川が睨みつけても、今度は葛西はおどけたりしなかった。笈川の鋭い視線を真正面から受け止めている。

「僭越なのも礼儀知らずなのも承知の上です。でも俺はこれだけはあんたに一度、言っておきたかったんだ。じっと黙って傍にいたってダメなこともある。あんたは十年前のあの時に、そうと分かっていなきゃいけなかったんだぜ」

灰皿の中で燃え尽きた吸い殻がかさりと小さな音を立てた。
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