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Tattoo Maniac

第二章『死体置場でロマンスを』14

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相変わらず気分屋で手の早い橘の気まぐれのせいで、予定外に三崎に留め置かれることになってしまった慧は、笈川から預かった旅館の部屋の鍵を見つめた。

橘の言うとおり、本当に豪勢な旅館だ。貸切と言っていたから、今この旅館内はヤクザで溢れているのだろう。まあ、堅気に紛れて大勢のヤクザ者が跋扈するよりはずっとマシなのかもしれない。

部屋に入ろうか、とも思ったが、さっき外から見た時、この旅館の庭がとても広くて良く手入れされているのに気づいた。せっかく来たのだし、少し覗いてみようと慧は旅館の庭に出てみた。

和風に造られた庭はところどころライトアップされていて、とても綺麗だった。

そういえば以前滞在した静岡の修善寺の温泉旅館の庭も、素晴らしい眺めだった。平凡なサラリーマンだった頃は、こんな豪華な旅館など縁のなかった慧である。橘の住んでいる高級なペントハウスといい、すべてのヤクザが金を持っているわけではないのだろうが、組長ともなるとその実入りは慧の想像を超えているようだ。

石畳の小径を踏んで、ライトに照らされた庭を眺めながらそんなことを考えた。

「春海さんっ」

不意に声を掛けられそちらを見ると、和泉警部補と矢部刑事が立っていた。殺人事件の捜査で中島 誠の通夜の様子を探りに来ていた刑事に声を掛けられ、慧はどきりと動きを止めた。

警察官に声を掛けられてどきりとするなんて、橘たちと知り合う前の慧には考えられないことだった。かつての慧にとって警察は、市民の味方、自分を助けてくれる人たちだったのに。警察なんて考えただけで吐きそうだ、という橘の心情が分かるようになってしまったのがまったく情けない。

和泉警部補だけが小走りで慧の元へやってきた。矢部は遠目で煙草を吸いながら、知らん顔を決め込んでいる。

「おひとりですか?」

和泉は爽やかに微笑んだ。組員ではないけれど暴力団関係者であることに変わりはない慧に、こんなに清々しい笑顔を見せていていいのだろうか、とこちらの方が心配になった。

「はい…」

常日頃から笈川たちに、警察関係者に余計なことを話してはいけないと言明されているから、つい言葉数が減る。

「綺麗な庭ですよねぇ」

和泉は辺りを見回して言った。

「良かったら一緒に一回りしませんか?」

「えっ」

にっこり微笑まれて、慧は後退さった。

どうしよう――暴力団関係者と警察関係者が連れ立って呑気に散策なんて、どちらにとっても剣呑に思えるのだけれど。

返事をしそびれているうちに和泉が歩き出してしまい、慧も仕方なく後に続いた。

「この旅館は料亭から見える和風庭園も売りだそうですよ――あ、そこ石が崩れてるから気をつけて」

和泉はまるで慧をエスコートするようににこやかに言った。

たしかに組長の愛人の立場ではあるけれど――俺、女の子ちゃうんやけど…と慧は妙に恥ずかしい。

「昼間の庭園も人気らしいですが、夜はライトアップされてロマンチックですね」

ロマンチック…――

俺、もう帰りたい…――

真面目でいい人なのだろうが、和泉のトンチンカンさ加減に眩暈がする。慧は曖昧に微笑んだ。

和泉が最初に橘組の事務所を訪れた直後に橘たちにからかわれたりしたから、なんだか余計に落ち着かないのだ。

そこで思い出した。

「あの…」

「なんでしょう?」

和泉が嬉しそうに返事をした。

そんな無邪気にされると困る。少々、罪悪感を覚えながら、慧はずっと引っかかっていたことを尋ねた。

「中島さんはどうやって…その殺されたのかって分かってるんですか?」

「窒息です」

和泉はあっさりと答えた。

部外者にこんなに簡単に情報を漏らしていいのか、と尋ねた慧の方が不安になる。

「司法解剖の結果、血中酸素濃度が低下して死亡したことが分かっています。他に外傷はありませんでした。ただ首が発見されていないのと、頸部が切断されていて損傷が激しく、口や鼻を塞がれたのか、あるいは首を締められたのかが分かりません。頸部が残っていれば、そこに縊死いしや絞殺、扼殺の跡が残るんですけど」

自分に好意があるならばもしかしたら話してくれるかもしれないと期待はしていたが、こんなにぺらぺら喋られるとこちらの罪悪感が大きくなってしまう。

自分に惚れている気持ちを利用するなんて、ちょっとヤクザの手口を学び過ぎてしまったかもしれない。

「それ全部、ちゃうんですか?」

それでもつい、頭に浮かんだことを尋ねてしまった。

「違います。簡単に言えば、縊死というのはいわゆる首吊りです。絞殺というのはまぁ道具を使って首を締めた殺人ですね。扼殺は手や腕で首を締めることです。それぞれ跡の残り方が違うので、頸部が残っていれば分かるんですけど」

さすがに殺人を専門に扱う一課の刑事である。

つまり中島 誠はなにがしかの理由で呼吸ができなくなり死んだということだ。慧は先ほど焼香の時に見た祭壇の写真を思い出していた。たった一度だけれど、会って話したことのある人物だった。その人が今はもう亡くなってしまったという現実になんだか実感が湧かなかった。

ついさっきまで生きていた人間が死ぬ――橘と共にいればこんなことは初めてじゃないけれど、何度経験しても慣れることじゃない。
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