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Tattoo Maniac

第三章『真夏の夜の夢』2

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ふと気がついて、慧は隣に座った橘に尋ねた。

「おまえの刺青、ここで刺れたんや」

橘は、気のない様子で頷いている。そんな橘をぎろりと横目で睨んだ亮祐が、仏頂面のままの湯呑みを各自の前に移した。

「悪いな」

葛西がにやにやと笑いながら言うと、亮祐は小さく、いえ、と返事をした。

笈川おいかわさんも葛西さんもお変わりないようですね」

柊弥はふたりにも笑顔を向けた。

「あんたもびっくりするほど変わらねぇな」

葛西がそう言うと、橘がふんと鼻で笑った。

「こいつは化物と紙一重だからな」

そのやりとりを聞きながら、慧はもう一度、その生き人形のような綺麗な顔をこっそりと眺めた。たしかにまるで年齢が分からない。少し俯いた瞬間は驚くほど儚げで、まるで少年のように見えるのに、顔をあげて背筋をぴんと伸ばした姿は老成しても見える。

でもきっと慧よりも歳上ということはないだろう、と思った。肌理の細やか白い肌は二十代以上にはとても見えない。

「こいつ、いくつだと思う?」

橘がにやにやしながら慧に尋ねた。

「え…」

まるで胸の内を見透かされたような気がして、慧は居心地の悪さを覚えた。なんだか失礼なようだ。

答えあぐねている慧に、橘が言った。

「こいつ、俺よりふたつも上なんだぜ?」

「えっ」

思わず驚いて、慌てて口を噤む。びっくりする反応も失礼には違いない。

しかし柊弥はまるで悪戯っ子を見守るような、少し困った、それでいて優しい表情を見せていた。

「詐欺だぜ、詐欺」

「橘さん、春海さんがお困りですよ」

柊弥は、にやにやしている橘をやんわりとたしなめた。

しかしそういう橘だって、最初に会った時は歳下なのかと思っていたのだ。

「ところで橘さん、今日は突然、なんの御用でいらしたんですか?」

柊弥は黒目の大きい瞳を橘に向けた。

「なんだよ、用がなきゃ来ちゃいけねぇのか? 昔の情人イロに随分、冷てぇじゃねぇか」

橘のセリフに慧はむせてしまった。口元からお茶がぱっと散る。

「あ…っ、す、すみません…っ」

慌ててなにか拭くものをと顔をあげると、先ほどお茶を持って来た亮祐が顔を真っ紅にしているのが見えた。照れているのではない。怒っているのだ。

「…きさま…っ」

ほとんど橘に向かっていきそうな勢いで、亮祐は唸った。

「亮祐、やめなさい」

柊弥がほんの少しだけ鋭い声をあげる。心なしか頰が紅らんでいるようだ。

その様子を見ていた橘は、相変わらずにやにやしたままだったが、亮祐はなにか嫌なものを飲み込んだような顔をして、座り直した。膝の上で握られた両の拳が力を込めすぎて白くなっている。

慧は吹き出したお茶で濡れた口元を、こっそり手の甲で拭った。なにか拭くものを貸してくださいなんて声を掛けられる雰囲気ではない。

しかし柊弥はそんな慧の様子にすぐに気がついたようで、亮祐に布巾を取りに行かせた。

「うちの者がすみませんでした、春海さん」

「あ、あの…慧で…いいです」

会社員を辞めてから、苗字で呼ばれることなどなくなっていたから、今さらそんな呼ばれ方は照れくさい。それに慧は、自分の苗字があまり好きではなかった。小さい頃、その苗字を「はるみちゃん」とよくからかわれた。そういえば、初めて会った頃、橘もそうやって慧を呼んだ。

あいつは頭の中が小学生のままやな、と慧はなんだかおかしくなった。

すぐに亮祐が、タオルを手にして戻ってきた。もうひとつ持ってきた濡れ布巾で、慧が吹き出した座卓のお茶を拭く。

「すみません、自分でやりますから…っ」

慧が慌てて手を出すと、亮祐にぎろりと睨まれた。驚いて手を引っ込めてしまう。その様子を、橘はただにやにやと眺めていた。

亮祐がむっつりとした表情のまま再び腰をおろすと、橘はパンツのポケットの中から微かに皺が寄った写真を取り出して、座卓の上に投げた。

「おまえ、この刺青スミに覚えがあるか?」

「あっ」

写真を覗き込んだ慧は、大声をあげてしまった。橘が放ったそれは、矢部やべ刑事が持っていたあの首なし死体の写真だったのだ。一体、どこから手に入れたのか。

「おまえ、これどうしたん?」

「あ? 矢部のおっさんがくれたんだよ」

橘は、後ろ手に手をついただらしない姿勢のまま顎をしゃくった。

こんな写真を外部の者に簡単に渡していいのかと、慧は矢部のやり方に飽きれた。しかし、矢部と橘の関係は、慧の理解の範疇外にあるようだ。ヤクザと刑事の間柄であるにも関わらず、そこには妙な信頼関係も窺える。それでいて、完全に腹を割りあってもいない。まったく慧には良く分からない。
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