FC2ブログ

Tattoo Maniac

第三章『真夏の夜の夢』3

 ←第三章『真夏の夜の夢』2 →第三章『真夏の夜の夢』4


柊弥は、慧と橘のやりとりを余所に、黙って写真を取り上げた。その優美な仕草に見惚れる。まったくこの男は手まで美しい。

「これは…――」

それが首のない男の背中だと気づいていないのか、柊弥は顔色も変えずに、真剣に写真に見入っている。

「どうだ?」

橘の問いに、柊弥は写真から目をあげた。

「――ええ、これは彫豊うちの不動明王ですね」

その答えに満足したのか、橘はにやりと笑った。

「――でも、これは私の手ではありません。――亮祐」

柊弥は写真を亮祐に手渡した。亮祐はひと目見るなり、ぎょっとなり青い顔になった。それはそうだろう。首なし死体の写真なのだ。普通はそういう反応になる。

しかし、亮祐は気を取り直したように、その写真を見てから言った。

「――ああ…、これは…新田さんの仕事じゃないかな」

写真の刺青を見ただけでそんなことが分かるのかと、慧は内心驚いた。

「誰に刺れたもんか覚えてるか?」

そう問われた亮祐は少し考えてから首を横に振った。

「…いや、お不動さんは人気の図柄だしな…」

中島なかじま まことという名前に心当たりは?」

今度は、亮祐は顔をあげて、柊弥と見合わせた。

「…中島…って、三崎みさきの柳沢組の?」

亮祐は考えるように、もう一度写真に視線を戻した。

「…そういや、中島さんもお不動さんだったかな…」

そう言ってから、亮祐ははっとした表情で橘を見た。

「これ…まさか…」

「ああ。中島 誠は横浜のホテルで殺さロクられちまったようだぜ」

橘の答えに、これまでほとんど微笑みしか見せなかった柊弥も驚きを表した。

「そんな…、一体、なにがあったんです?」

返事代わりに、橘は首を竦めてみせた。

「さぁな」

「なにか…抗争みたいなことがあったのか?」

亮祐の問いに、橘は笑い出した。

「んなもんあるかよ。おまえらだってこんな商売だ。ヤクザの噂ぐらい入ってくるだろうが。デカイ組織はどこも協定、結んでる。今時、死人が出るような抗争事件なんて、滅多に起きやしねぇよ」

「じゃあどうして…」

柊弥の不安気な顔を見つめてから、橘はふっと小さく息を吐いた。

「…てことは、おまえらも心当たりはないんだな」

「あるわけないだろう」

亮祐は憮然とした表情で写真を突き返した。

「噂も聞いたことはないか? 柳沢組内のごたごたとか…」

橘が受け取らない写真に代わりに手を伸ばして、笈川が尋ねた。

亮祐と柊弥が答えあぐねてしばらく互いの顔を見つめていると、チャイムのような音が聞こえた。

ふたりは、互いに注いでいた視線を廊下の方に向けた。

「来客の予定がありましたか?」

柊弥の問いに、亮祐は首を振って答えてから、座敷を出て行った。

柊弥が、橘へ向き直った。

「この写真…、中島さんは首を切られているようですが…見つかったのですか?」

「オデコが橘組ウチの事務所に来たときは、まだ見つかってなかったようだな」

「死因は?」

「あ、それ聞いてねぇわ」

橘はぽかっと口を開けて、天井を見た。橘でも肝心なことを聞き忘れることがあるのだ。

「あ…、それ窒息死やって」

慧がそう言うと、座敷中が慧を見た。

「なんでおまえが知ってんだ?」

橘が不思議そうな顔をした。

「昨日、旅館の庭で和泉いずみさんに聞いてん」

「和泉ぃ?」

橘の表情が途端に険しくなる。

「あ…、あの…、精進落としの後、庭を散歩してたら和泉さんに会うて…」

別にやましいことはなにもないのに、慧は言葉を濁した。

「てめぇ、俺の目を盗んでオデコと逢引か?」

「違うっ」

逢引をしていたのは橘の方だ。橘が宴席で会った柳沢組の若い組員を引っ張り込んでいたせいで、慧たちは三崎に泊まることになってしまったのだから。
関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
もくじ  3kaku_s_L.png Tattoo Maniac
総もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
総もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
【第三章『真夏の夜の夢』2】へ  【第三章『真夏の夜の夢』4】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【第三章『真夏の夜の夢』2】へ
  • 【第三章『真夏の夜の夢』4】へ