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Tattoo Maniac

第三章『真夏の夜の夢』7

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用を済ませて座敷に戻りかけたところで、廊下の先から人の話し声が聞こえてきた。

「…――もう…、ふざけないでください、橘さん」

柊弥の声だ。橘といるらしい。

元来た廊下を右に折れようとしたところで、橘と柊弥の姿が見えた。柊弥は台所を出たすぐの廊下の隅で、追い詰められるように壁際に立っており、そこに橘の姿がほぼ重なっていた。

「…いいじゃねぇかよ…。今さら知らねぇ仲じゃねぇんだから…」

橘に覆い被さられるように立っている柊弥は、その圧迫から守るようにさくらんぼを載せたガラス皿を、体の外に除けて身を捩っていた。

「飲み過ぎですよ、橘さん」

そう言った柊弥が顔をあげ、慧に気づいた。

「慧さん。――ほら」

慧の存在を知らせるように、柊弥が橘の体を小突いた。億劫そうな様子で、橘がこちらを振り返る。

「――あ…、ご、ごめん…」

橘と目が合った慧は、反射的にそう言って、目を逸らした。それから再び、橘の方を窺うと、橘がこちらを見たまま、よろりと柊弥から離れた。

柊弥は酔っ払いの戯事だというように苦笑しながら、さくらんぼを運んで、座敷へ向かってしまった。廊下には橘と慧だけが残される。

橘は、そのまま慧の方へ歩いて来た。足元がおぼつかないというほどでもないが、体が若干、かしいでいる。酔っているのだろう。

「――なに…謝ってんだよ…」

慧を睨んだまま橘が言った。瞳が紅いのはやっぱりアルコールのせいだろう。

「え…、いや…」

機嫌が悪そうな橘から目を逸らして、慧は言葉を濁した。

「――おまえが…謝らなきゃなんねぇようなことがあんのか?」

口調は完全に絡み酒のそれだ。

「…ごめん…って…」

慧の側まで来て、壁に身を凭せ掛けて、こちらを睨んでいる橘から視線を逸らしたまま再び呟くように言った。

最初の謝罪は、橘が酔って柊弥にじゃれついているところを邪魔して悪かった、というつもりではあったが、そんなに深い意味もなかった。この場合、慧が謝るべきなのかも良く分からない。

二度目の今は、むやみやたらと謝る自分の癖を謝ったつもりだったが、口に出した瞬間、言わなければ良かった、と後悔した。

そうでなくてもすぐに謝る癖を嫌がられることが多いというのに、酔っている今は特にそれが橘の癇に障っているようだ。

慧は唇を噛んで下を向いた。視線だけそっとあげて橘の様子を窺う。

酔って――いるのだと思う。

橘は眠たげに半開きになった目をこちらに向けて、それでもじっと睨みつけたままだ。

「てめぇの男が他のヤツにコナかけてんのを見つけて…、そんで、てめぇが謝ってれば世話ねぇな…」

そう言われて、慧は混乱した。

橘の浮気なんて、今に始まったことじゃない。慧と出会う前から、橘には多くの愛人がいた。慧との関係が始まった後も、愛人たちと切れずに続いていたし、そればかりか、その時々で気が向いた相手とベッドを共にすることも、橘にとっては日常だ。

最初はもちろんつらかった。醜い嫉妬と独占欲に心臓が鷲掴みにされるような痛みにも、ずっと耐えていた。それを橘に伝えようと思ったこともある。

でも――なにも変わらなかった。

だから慧はそれを飲み込んだのだ。嫉妬を剥き出しにしたって、橘にうっとうしがられるだけだと分かっているから。橘の傍にいたいのならば、この苦しみにも慣れなければいけないのだ、と自分に言い聞かせた。

だから慧はできるだけその現実を見ないように努めてきた。

やっと――慣れてきたのだ。

なのにどうして今さら、橘はこんなことを言って慧に絡むのだろう。

ただ、酔っているだけなのだろうか。

「――俺が誰と寝ようと…、自分も俺を抱けるんならどうでもいいのかよ…」

目が坐っている――酔っていることは分かる。

けれど、意味のとおらないことを言うほどの酔いには見えない。だから、橘の言うことが分からない。

「…橘、なんの話やねん…」

「…なんでもねぇよ」

橘はそう言うと、不意と顔を背けてよろよろと庭先に降りて行った。

「あ…」

ひとりで外に出るなんて大丈夫かと慧が思わず手を伸ばすと、その手がぱちんと叩かれた。

「うるせぇ」

橘は裸足のまま、庭に出て行ってしまった。
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