FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←第三章『真夏の夜の夢』11 →第三章『真夏の夜の夢』13
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
もくじ  3kaku_s_L.png Tattoo Maniac
総もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
総もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
【第三章『真夏の夜の夢』11】へ  【第三章『真夏の夜の夢』13】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

Tattoo Maniac

第三章『真夏の夜の夢』12

 ←第三章『真夏の夜の夢』11 →第三章『真夏の夜の夢』13


「いろいろケチつけてても、おまえが結構、慧を気に入ってるってのは分かってるけどよ。でもおまえが言いたいこと、本当はそれじゃねぇよな?」

笈川は思わず橘から目を逸らした。

橘は慧とは違って勘がいい。態度には出さないように気をつけていたつもりだったが、笈川の胸のうちにずっと引っかかっていたことがあることを、橘は気づいていたのだ。

慧が撃たれたあの日、橘が内藤ないとう 啓介けいすけの名前を口走ったことが、笈川の頭から離れない――それを橘は見抜いているのだ。

もちろん、あのことを橘が覚えている筈はないから、実際に笈川を悩ませているそのことは知る由もないだろうが、物言いたげに見えていたことは間違いない。

橘がそう言い出したからには、もうごまかすことはできないと分かっていても、笈川は躊躇した。

言う――べきなのか――

――黙って傍にいるだけじゃ…

笈川は橘の目を見ずに口を開いた。

「慧が…斉藤に撃たれた日のこと…、覚えてるか?」

橘は返事をしなかったが、笈川は横顔にその視線を感じた。

「…あの時、慧は危なかった。それにおまえがショックを受けていたことも分かってる」

「なにが言いてぇんだ、てめぇ…」

取り乱した自身の行動を蒸し返されたくないのか、橘が苛立った声をあげたが、笈川はそれを遮るように言った。

「おまえは泣いていた。泣きながら…名前を呼んでいたんだ」

笈川がそう言うと、橘は再び不貞腐れたようにぷいと横を向いた。今度は笈川がその横顔を見ながら、続けた。

「――おまえが呼んでいたのは…慧じゃなかった」

外方を向いていた橘が、笈川に振り返った。その顔には、先ほどまであった苛立ちはなく、疑問が浮かんでいる。

「おまえが…呼んでいたのは…――内藤だったんだ…、裕貴」

橘は横っ面を引っ叩かれたような表情で、目を大きく見開いて笈川を見ていた。

「なに…言って…んだ…」

そう言いながら、橘の視線が宙を彷徨う。あの日の記憶を呼び起こそうとしているのだろう。どこまで覚えているのかは分からないが。

記憶を手繰り寄せようと辺りをふらついていた視線が、再び笈川の上で止まった。

「…嘘だ…」

その表情を見て、笈川はやっぱり、と思った。やっぱり橘はあの夜、笈川の腕の中で泣いていた時の記憶がないのだ。感情が激しすぎて、覚えていないのだろう。「嘘」と否定する声にもまるで自信がない。

笈川はなにも言わずに橘を見返していた。笈川が嘘を吐いていないことは、橘には見れば分かるからだ。

しばらく笈川を見つめてから、橘は大きく息を吐いて、東屋の囲いでもある背凭れに寄りかかった。

「…なんだよ…、それ…」

その声は、笈川への疑問というよりも、自身の行動への自問の色を帯びていた。パニックを起こしていない、今、冷静な状態では、内藤の名前を呼んだことが、自分でも理解できないのだろう。

橘は、竹林の暗闇を黙ったまま見つめていた。笈川もなにも言わずにただ隣に座っていた。沈黙が流れる。しばらくして、橘は笈川が持ってきた煙草に再び火を点けた。

「――…おまえは…、俺があいつを…――内藤を忘れてねぇって思うのか?」

橘は煙とともにぽつりと言った。怒っている口調ではない。本気で尋ねているようだ。

「…忘れたのか?」

逆に問い返すと、橘がふっと笑った。

「――忘れてねぇ」

橘はやけにあっさりとそう言った。その瞬間、竹林を通り抜けた風がその前髪を嬲って通り過ぎる。

「俺は…ヤクザのイロハをあいつに習ったようなもんなんだよ。あんな外道が師匠じゃ救われねぇけど、内藤はヤクザとしちゃあ実際、たいした男だったからな」

暗闇に目を凝らすように、橘は前を見つめている。その視線は、まるでそこに内藤 啓介の姿を見るかのようだった。

「だけど…どうしてあの人に抱かれようと思ったのか…それは今でも分かんねぇんだ」

橘はぽつりと言ってから、笑った。

「最初は…、ほとんど強姦ツッコミと変わんねぇよ。脅かされて、ビビっちまった…」

まだガキだったしな、と橘は笑ったまま言った。

「内藤の姑息な口車に乗せられちまってたってのは、そうなんだろうけどな…」

そこまで言って、橘は唇を噛んだ。闇を見つめる瞳がなにかを堪えるように歪む。それから橘は細く深く息を吸い込んでから言った。

「――俺は…あの人が怖かったんだよ…」

声が微かに震えていた。

「ヤバい男だって意味でも怖かったけど…。でも…俺は…俺はあの人に…捨てられるのが…怖かったんだ…」

そこまで一気に言って、橘は目を閉じた。顎が小刻みに震えているのがその横顔から見て取れた。

「今となっちゃあ男に抱かれることなんて、なんでもねぇけど、あの時の俺には世界がひっくり返るようなことだった。それでも…それでも…あの人にその手を振り払われるよりは…マシだった」

半ば自嘲気味な笑いを漏らしながらそう言って、橘は地面におろしていた足を長椅子に乗せると、それを両腕で抱え込んだ。
関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png ごあいさつ
もくじ  3kaku_s_L.png Morning Moon
もくじ  3kaku_s_L.png TOXIC
もくじ  3kaku_s_L.png BROTHER
もくじ  3kaku_s_L.png DIRTY SITUATION
もくじ  3kaku_s_L.png Killer Street
もくじ  3kaku_s_L.png Tattoo Maniac
総もくじ  3kaku_s_L.png New Moon
総もくじ  3kaku_s_L.png Crescent Moon
【第三章『真夏の夜の夢』11】へ  【第三章『真夏の夜の夢』13】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【第三章『真夏の夜の夢』11】へ
  • 【第三章『真夏の夜の夢』13】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。