TOXIC

第三章『愛と欲望の日々』4

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「すっげぇなぁ、橘さん」

その車の後ろ姿を見送りながら、剛介が感心したような声を出した。

「マジもんの竿師、顔負けじゃないっすか。たった二時間で女、落としちゃうかな〜」

しかし、笈川はふんと鼻を鳴らす。

「金さえ惜しまなきゃ女なんてすぐ落ちる。問題はここからだ」

「ここから?」

慧が尋ねると笈川が言った。

「情報を引き出せなきゃ、使った金も死に金だ」

それから慧をちらりと見ると、笈川はにやりと嗤った。

「まあ、裕貴アイツなら問題ないだろうがな。竿師の仕事はここからだ」

そう言うと笈川は他の組員が回して来た車に乗り込んだ。

「おまえも乗れ、慧」

車の中から声を掛けられ、慧も笈川と同じ車に乗り込む。

「別宅の方に回ってくれ」

笈川がそう告げると車は走り出した。

「別宅?」

「おまえも覚えておいた方がいい。こっちは裕貴アイツの女専用…というか連れ込み専用、、、、、、の部屋だ」

「連れ込み…専用…」

慧は笈川のことばの意味を噛みしめるように呟いた。

「橘は自分のマンションにその場だけの相手を連れ込まない。もちろん安全の為もあるが、後々、いろいろややこしいことになったりするからな」

過去に起きた揉め事を思い出したのか、笈川は迷惑そうな顔で、あいつは相手選ばずのやりたい放題だからな、と言った。

それからじろりと慧を睨む。

「おまえも橘のマンションに妙な女を連れ込むなよ」

「そんなんするかっ」

慧は喚いた。橘だけで手一杯の慧に他の女に目移りする余裕などあるわけがない。

車は本牧まで走ると、見慣れないマンションの前に止まった。

「ここだ」

慧はスモークの貼られたパワーウィンドウを少し開け、その隙間から外を覗いた。橘の本宅に比べれば質素な印象だが、それでも充分立派な白い建物が見える。笈川はそのまま駐車場へ車を乗り入れさせた。駐車場の隅に、見慣れた黒塗りのメルセデスが駐まっており、運転席に牛丸の姿が見えた。牛丸は笈川の車をみとめると目顔で頷いてみせた。

「——うまくやったみたいだな」

笈川は満足気に嗤うと運転していた舎弟に橘の本宅へと戻るように指示した。
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